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住宅産業
災害から命を守る家づくり
【執 筆】 防災住宅研究所 代表理事・所長 児玉 猛治
災害に対し、最もリスキーな時間は寝ている時だ。「わが家」が災害から家族の命を守る「砦」であるべきはずなのに全壊し、その下敷きとなって家族の命を失うケースも少なくない。3月31日、南海トラフ巨大地震対策で政府の作業部会が示した新たな被害想定では、実に約235万棟もの住宅が全壊すると予測されている。迫りくる災害から「家族の命を守る」住宅にすることは可能なのか、過去の災害例をもとにその対策を紹介する。
進まぬ耐震―高齢化と資金
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【写真1】熊本地震で震度7が2度襲った益城町(ましきまち)。旧耐震基準以前の木造住宅の多くが倒壊していた
阪神・淡路大震災の死者数6434人のうち、直接死は5513人。その約77%の人が住宅の倒壊による窒息や圧死である。災害による死者数は全壊住宅数と非常に密接な関係にある。加えて阪神・淡路大震災では関連死が921人。プライバシーのない避難所生活でのストレスによる持病の悪化やエコノミークラス症候群の発症などによって多くの人が命を落としている。
熊本地震(写真1)の直接死は50人。関連死は224人に及ぶ。いかに巨大な災害が襲ってきたとしても、わが家が損壊することなく、被災後も避難所に行くことなくわが家で生活ができたならば、関連死も急激に減るのではないかと思われる。それほど対災害において、わが家は重要なのである。
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【写真2】輪島市朝市火災現場(2024年1月13日撮影)
2024年は元旦のお祝いムードを一変する令和6年能登半島地震が発生した。輪島市朝市一帯が焼け(写真2)、この地震でも6483棟が全壊。549人(うち関連死321人)が亡くなっている。全壊住宅の中でも注目されたのが、旧耐震基準以前の住宅の倒壊だ。
現地で話を聞いてみると、働き手である息子などが都会に出てしまったため、リフォームや建て替えをする必要もないと耐震化することもなく生活しているという人が多い。
国土交通省の推計によると、1981年6月以降、新耐震基準以前に建てられた「耐震性能が不十分」とされる住宅は、2023年時点で約570万戸あるという。自治体が耐震改修工事に補助金を出しているが、全額負担の補助金はなく、利用者が少ないのが現状のようだ。
高齢の年金生活者には費用負担が重くのしかかり、耐震改修に踏み出せないでいる人が多い。明日来るかもしれない南海トラフ地震対策にむけて、全額自治体負担をするなど早急な対策を講じなければ、耐震化は進まないであろう。
加えて、巨大地震後は余震が襲って来るケースが多い。例え一部損壊であっても余震で全壊する可能性のあるわが家に住むことはできず、避難所生活を余儀なくされてしまう。さらに災害直後は修繕費が3―4倍に高騰する。一部損壊であっても、かなりの費用負担を強いられてしまう。
土地・工法の災害リスク認識
では、過去の災害において全壊・半壊どころか、一部損壊もない住宅工法はあるのだろうか。
阪神・淡路大震災の住宅調査を行った建設省(現国土交通省)建築研究所監修の建築技術No・544(1995年8月1日発行)の85―89ページに阪神・淡路大震災被災地域に建つ壁式鉄筋コンクリート組み立て造(WPC工法)495棟の調査に関し、1棟として一部損壊もなかったと記されている。
約60万棟もの住宅損壊が見られた阪神・淡路大震災において、1棟として一部損壊もないという報告は本当だろうかと目を疑ったが、その後の巨大地震での調査(表)でも同様に一部損壊もなく、WPC工法の対地震における優位性を証明して見せた。なぜWPC工法の住宅が災害に対し「無傷」であったのか。その理由は四つある。
まず一つ目は、壁や天井を形成するPCパネル(Precast Concrete)が非常に強固である点。二つ目は、このPCパネルを箱型に形成する点。三つ目は、建物の持つ固有周期が非常に小さく(0・16秒)地震の揺れの周期と同調しない点、四つ目は建物に重量がある点。
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【写真3】2メートルしか離れていない隣家が全焼するも壁の修繕だけで済んだWPC工法の住宅
そのためこのWPC工法の住宅は、台風や竜巻、土砂災害に対しても強靱(きょうじん)さを発揮し、対火災においても「燃えず」火災現場で強さを発揮している(写真3)。このような住宅であれば、被災後もわが家で生活が可能となる。
避難経路の確認/耐震改修/家具の固定
「現在、建て替えを検討している」という人や新築を検討中の人は、WPC工法の住宅をお勧めするが、建て替えをするほどの予算もない、という人には次の三つをお勧めしたい。
まず自分が住んでいる土地の災害リスクを知るということ。自治体が運営するホームページ上にハザードマップがあるので、地震の揺れの大きい地域なのか、液状化の可能性があるのか、津波危険エリアであるのか、河川の氾濫浸水エリアであるのか、土砂災害危険エリアであるのか。また、「わが家の工法」が持つ災害リスクを知るということ。火災に弱いのか、地震に弱いのか、浸水時に垂直避難できる家なのかなどを確認し、どのタイミングで避難するのかなどのマイタイムラインの作成をお願いしたい。
二つ目は1981年6月以前に建てられた住宅であれば、耐震診断を行い、耐震改修をすべきである。巨大地震が襲ってきても、倒壊しなければ家族の命が助かる可能性は高くなる。
三つ目は安心して生活するためにも、家具のある部屋で寝ない、高い位置に絵画や額を飾らない、家具の固定化を行うこと。
災害の歴史を振り返ると、必ずと言っていいほど、これからも巨大災害は襲って来るだろう。災害を甘く見てはいけない。家族の命を守る第一の砦は、わが家であることを再認識し、早急な対策を講じることをお願いしたい。
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防災住宅研究所 代表理事・所長 児玉 猛治
【執筆者プロフィール】
広島大経済卒。防災検定1級第1号取得者。自宅が火事で全焼する被災経験などから、2010年に防災住宅研究所を設立。防災住宅アドバイザーとして企業アドバイザーやセミナー講師などを務める。