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住宅産業
高性能住宅 最新TREND
【執 筆】 松尾設計室 一級建築士設計事務所 代表取締役 松尾 和也
高性能住宅に明確な定義があるわけではない。しかし、個人的には耐震等級3、断熱性能G2グレード、機密性能C値は1平方メートル当たり1・0平方センチメートル以下、高い耐久性、これらを持ち合わせる住宅を「高性能住宅」だと認識している。リサーチ能力が高い施主は、このレベル以上の住宅しか見ていないのが現実とも言える。ここでは高性能住宅の今を紹介する。
■高性能住宅■
① 耐震等級3
② 耐熱性能G2グレード
③ 機密性能C値=1平方メートル当たり1・0平方センチメートル以下
④ 高い耐久性
今の新築住宅業界は集客難で苦しんでいる会社が多い。ウッドショックなどによる住宅価格高騰、住宅以外のインフレも進んだことで住宅に回す予算の低下、子どもの出生数の低下、それ以前の婚姻数の低下、金利の上昇、これらすべてが新築住宅の着工戸数を減らす要因として働いている。
こうした中、最初に定義した高性能住宅を前提とする人が増えている。結果として、新築注文住宅では極端に子ども部屋を小さくした住宅、予備の部屋が一切ない住宅、窓が小さく少ない住宅が増えた。
高性能×デザイン×コスト
今売り上げが好調な住宅メーカーは「高性能✕デザイン✕コストパフォーマンス」がそろっている会社だとされている。5―10年前くらいまでは高性能だけ、もしくはデザインだけでも売れることが多い状況であった。しかし、競争が厳しいエリアから徐々に、それでは通用しなくなってきた。今は高性能とデザインの両立を前提としながら、どこまでコストを下げられるのか、という時代に入ってきている。
性能については企業努力により向上できる。しかしながら、施主が「この会社は高性能住宅を作り慣れている」と認識しないことには、価格が高い高性能住宅で契約するまで到達するのは難しいという現実がある。
それに加えて、もう一つ大きい要素にデザインがある。これまで、性能とデザインは反比例しあう両軸だった。施主から見れば両方良いに越したことはないのだが、最近まで両方を兼ね備える住宅は少ない印象だった。それが、5年くらい前から徐々に高性能住宅でありながらデザイン性にも優れる住宅が出始めた。これにより、性能だけの会社、デザインだけの会社の受注が下がる結果につながった。
夏 涼しく 冬 暖かい
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【写真1】日射遮蔽の例「アウターシェード」(YKK AP)
ここで、大きな問題が存在する。最初に定義した「高性能」のところだけは対応しているが、定義されていないところは軽視している住宅も存在するという現実だ。例えば、夏の日射は遮り、冬の日射は採り入れる。専門用語では「パッシブデザイン」というが、これは法律で義務付けられているわけではない。また明確に基準が数値化されているわけでもないので、おろそかにされやすい。
最近最も多いのが、断熱性と気密性を高めている一方で、夏の日射遮蔽(しゃへい)を考慮していない住宅だ。この場合冬は暖かくても、夏は非常に暑い住宅になる。本来高性能住宅を望む施主の要望は「夏は涼しく、冬は暖かい」住まいだ。しかし、全ての会社とは言わないが、このような一部の会社の目的は「集客しやすいこと、契約につながりやすいこと」であり、その手段として高性能住宅を作るという事態が起こる(写真1)。
冷暖房計画
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【写真2】暖気が上に溜まっている熱画像
それと同様に気をつけたいのが「冷暖房計画」だ。最近の高断熱高気密住宅では、リビング・ダイニング(LD)に大きな吹き抜けを設けるプランが、当たり前のように計画される。春夏秋は過ごしやすいが、1年の約半分を占める冬において、今最もよく使われるエアコン暖房では、暖気が上に上がってしまう【写真2】。
省エネルギー地域区分「6地域」でG2、C値1以下というスペックだけ見れば、「かなり暖かいのでは」と思えるような住宅でも、総合的な暖房計画を行っていないと、足元は寒い住宅になってしまう。現に今、4年前にそのような住宅を建てた人から「冬の足元の寒さだけはなんとかならないか」と相談を受けている。
冷房にも問題がある。冷房は暖房とは異なり、個人の好みの差がかなり大きい。暖房は寒がりの人に合わせれば、全員を容易に満足させることができる。逆に冷房では暑がりの人に合わせると、寒がりの人のほうが寒いと感じる。寒がりの人に合わせると暑がりの人は暑いと感じる。
また、冬はリビング・ダイニング・キッチン(LDK)さえ暖かくしておけば、各寝室は睡眠時のみに使われる場合が多いので、布団に入ってしまえばちょうどいい室温と感じられることが多い。しかし、冷房ではLDKだけ涼しくしても、各部屋の冷房計画をきちんと行っていないと、暑過ぎる、もしくは冷房が強過ぎる環境になりやすい。これはいずれにせよ非常に不快と感じられる環境だ。
このようなことになってしまうのは、目的が「健康で快適な省エネ住宅を実現する」ではなく、「健康で快適な省エネ住宅を望む人に対して訴求力がある住宅を提供する」になってしまっているからではないだろうか。
湿度
最後になるが、もう一つ基準にはない重要な項目がある。それが湿度のコントロールだ。現時点でも、これからもますます増えてくるのが、エアコンをはじめとするヒートポンプによる暖房だ。
これらは従来のガスや灯油のファンヒーターとは異なり暖房時に水分を発生しない。結果として「乾燥する」と言う人が多い。そう言うと、ファンヒーターが優れるように聞こえるが、ファンヒーターは水分と同時に大量の二酸化炭素を室内に放出している。これは許容量をはるかに超える量なので、注意が必要だ(表)。
施主の真の要望に基づいた高性能住宅を、きれいなデザインを伴う形で実現する会社が増えてほしいと考えている。