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住宅産業
住宅における国の支援策と省エネ・脱炭素施策
環境に配慮した住宅のニーズが高まっている。建築物の省エネルギー推進と安全性の向上を目指して建築物省エネ法や建築基準法が改正され、4月以降に着工する住宅にも新ルールが適用される。全ての新築住宅に省エネ基準適合を義務付けた。太陽光パネルや蓄電池を設置した住宅が増え、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の概念が広がる。多くの新築住宅が省エネ基準を満たす中、ハウスメーカーは住宅の環境対策を進め、高付加価値化で差別化を図る。
環境配慮で差別化/太陽光・蓄電池
省エネ基準は適合状況の届け出義務のみだった大・中規模住宅をはじめ、延べ床面積300平方メートル未満の小規模住宅を含めた全ての新築住宅に適合義務を課す。屋根や外壁、窓など外皮の表面積あたりの熱損失量や、冷暖房や換気、給湯など設備の一次エネルギー消費量を省エネ基準に適合させることが必要となる。
政府は2050年の達成を目指すカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向け、エネルギー消費の約3割を占める建築分野の省エネ化を加速する。さらに二酸化炭素(CO2)を吸収、固定化する木材の利用を促進し、住宅による脱炭素への貢献度を高める方針だ。
新築住宅に新ルール 省エネ基準義務付け
新築住宅に関わる安全性の向上については、構造計算などが省略できる建築物の範囲を大幅に縮小した。全ての2階建て木造住宅を建築確認の対象としたが、構造規制は合理化し木造建築物の自由設計度を広げた。
木造2階建て以下で延べ床面積500平方メートル以下などの4号建築物は、できるだけ早く完成できるよう特例として構造計算など多くの審査が今まで省略されていた。法改正により倒壊リスク軽減や省エネ基準の厳格化に伴い、建物の重量が増えるため特例範囲を大幅に縮小した。
特例が続くのは延べ床面積200平方メートル以下の木造平屋住宅で、都市計画区域外に建築するケースのみに適用される。2階建てや延べ床面積200平方メートル以上の平屋はどの地域でも建築確認や検査が必要となる。
政府は30年までに省エネ基準をZEH水準まで引き上げる目標を掲げる。ZEH水準の住宅は一次エネルギー消費量を省エネ基準相当から20%削減し、創エネでエネルギー収支のゼロを目指す。現行の省エネ基準で求められる外皮性能は断熱等性能で等級「4」に当たるが、目標ではさらに上の等級「5」が基準となる。
法改正を受け、住宅市場は新築時に省エネ性能を重視する傾向が強まると見る。住宅の高性能化に伴い、施工品質の維持・管理が重要なポイントとなる。さくら事務所(東京都渋谷区)によると24年に実施した新築工事中ホームインスペクション(第三者検査)で、60・5%の住宅で断熱に関する不具合が指摘された。断熱材の量や厚みの不足などが要因で顧客がオーダーした断熱性能が実現できない可能性がある。
住宅性能が高まるほど「建築時の施工ミスや不具合のリスクが高まる」(さくら事務所)との見方もある(表)。4月は改正建築基準法による4号特例の縮小もあり「現場は通常期以上に逼迫(ひっぱく)が予想され、改正直後は特に注意が必要」(同)と指摘する。
GX住宅に補助金 環境型住宅 供給加速
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断熱性能と空調方式が異なる実験用の木造住宅2棟で、エネルギー消費量と室内温熱環境を計測(LIXIL・東京電力エナジーパートナー=横浜市鶴見区)
現行の省エネ基準は最低限の性能の一つとされ、これを満たすだけでは十分な対策とは言いがたい。これからの住まいには「QOL(クオリティー・オブ・ライフ)をいかに高めてくれるか」(同)が求められると見る。
国土交通省・経済産業省・環境省は補助金事業「住宅省エネ2025キャンペーン」の申請受け付けを3月から順次開始している。3省連携による「住宅の省エネリフォーム支援」と、国交省・環境省の「GX(グリーン・トランスフォーメーション)志向型住宅などの省エネ住宅の新築への支援」がある。
3省で省エネ住宅の新築や既存住宅の省エネリフォームを支援し、各事業の併用も可能とする。全ての新築住宅に対し、ZEH基準適合住宅を大きく上回る省エネ性能を持つ「GX志向型住宅」には1戸当たり160万円を補助。さらに蓄電池を設置する場合、条件付きで費用の3分の1以内を補助する。
ZEHで断熱性能が等級「5」であるのに対し、脱炭素を推進するGX志向型住宅では等級「6」が要件となる。さらにZEHでは比較対象住宅のエネルギー消費量と比べて20%以上の削減だが、GX志向型は削減率35%が定められている。補助金事業を通じて、GX実現に向けた住宅の脱炭素化の支援を強化する考えだ。
既存住宅には、高断熱窓の設置に対する先進的窓リノベ2025事業として1戸当たり最大200万円を補助。省エネ改修や併せて行うリフォーム工事に対応した子育てグリーン住宅支援事業では、1戸当たり最大60万円を補助する。各事業を組み合わせる場合はワンストップの一括申請が可能だ。補助金の交付申請は住宅事業者などが行う。
既存住宅のリフォームは戸別で申請、共同住宅のみ一括。新築住宅は注文・分譲・賃貸が対象。申請期限は12月末で、申請額が予算上限に達した時点で受け付けを終了する。
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ホールライフカーボンを検証する木造中高層集合住宅のパッシブタウン第5期街区(YKKグループ=富山県黒部市)
建築業界では、建物の資材調達から解体までのライフサイクル全体を通じたCO2総排出量「ホールライフカーボン」の削減に向けた取り組みが進む。木造建築によるCO2排出量削減や再生可能エネルギーを活用する技術開発も加速する。
ハウスメーカーは「脱炭素化を推進する環境対応型の住宅を供給する必要に迫られる」(国内証券会社アナリスト)。ただ、建築物のサステナブル(持続可能)化にはコスト上昇が伴う。今後は顧客の理解を得るためには各社が提案力を強化し、環境対策を普及させるよう業界内のさらなる連携が求められそうだ。