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群馬産業特集
変わる産業集積 時代を映す
群馬県高崎市は〝シリコンバレーを超えるような新たなまちづくり〟を掲げ、県と連携して「堤ケ岡飛行場跡地活用プロジェクト」に乗り出した。スタートアップを含む先端情報技術を有する企業、教育・研究機関などを誘致し、イノベーションの源泉にする。「デジタル」「グリーン」「クリエーティブ」をコンセプトに、市・県の経済成長を目指す。
シリコンバレーを超えるような新たなまちづくり/堤ケ岡飛行場跡地プロジェクト
堤ケ岡飛行場跡地は、関越自動車道前橋インターチェンジから約2キロメートル、駒寄スマートインターチェンジから約5キロメートルに位置する。高速交通網へのアクセスが容易で、「県央地域に残された最後の最高の優良地」とされる。市が新事業を展開する区域と民間開発区域の計約93ヘクタールでまちづくりする。造成基本計画を策定し、都市計画手続きなどを進めて、2028年度から用地買収・造成工事に着手する計画だ。
基本構想では「企業誘致」「まちなみ形成」「教育・研究施設整備」「住宅環境整備」「交通基盤整備」「再生可能エネルギー活用」の六つの方針を決めた。映像コンテンツ、ロボティクス、航空モビリティー、フードテックなどの成長7分野を中心とした最先端企業の誘致を目指す。
県が進めるMaaS(乗り物のサービス化)「GunMaaS(グンマース)」によるシームレスな移動手段の確保、再生可能エネをまち全体で融通するスマートコミュニティーシステム構築も計画。飛行ロボット(ドローン)による宅配サービスの導入なども検討する。
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パリの「STATION F」を視察(左3人目から富岡市長、山本県知事=群馬県提供)
山本一太群馬県知事、富岡賢治高崎市長らは、11月に欧州を訪問し、ハンガリーとフランスで官民共創のまちづくりやスタートアップ支援拠点などを視察した。
ハンガリーのブダペストでは、未整備の土地に企業などを集積させるグリーンフィールド型の「ブダパート」の開発などが進んでいる。ブダパートは「住む、働く、遊ぶ」をテーマとし、ドナウ川沿いの老朽化した発電所の用地に大企業やスタートアップのオフィス、住宅、店舗などを一体整備している。同国では欧州イノベーション・技術機構(EIT)の本部なども訪問した。
一方、フランスでは、パリに立地する世界最大級のインキュベーション施設「STATION F」や、革新技術の社会実装を加速させている「Hello Tomorrow」などを訪問した。また、県一行はクレルモン・フェランに移動し、ミシュランを中核とした工業地帯をイノベーションが生まれる地区に変える伝統的・企業城下町型の「パルク・カタルー」も視察した。
山本県知事は「ハンガリー、フランスの双方のまちづくりの良い点を跡地活用に生かしたい。また、EITが25年に日本を含む新たな地域でスタートアップ支援プログラムを展開する予定と聞いた。県との連携の可能性についてスピード感を持って検討する」と意欲を示した。富岡市長は「新たなまちづくりではスタートアップが大きな役割を担っており、ガッツを持って活動していた。こうしたスタートアップを輩出し、支援するハブを整備することが欠かせないと再認識した」と振り返った。
市は20年後のあるべき姿を描いた「高崎市都市計画マスタープラン」の改定で、堤ケ岡飛行場跡地を「副都心拠点」の一つに位置付け、「新たな付加価値を創出する産業集積拠点の形成のほか、職住近接の住環境整備を推進」と盛り込んだ。また、複数の地域企業と跡地開発に関する連携協定を締結。高崎経済大学とも連携し、26年に開設予定のクリエーティブ人材育成拠点「共同教育研究センター(仮称)」を人材供給源にする計画もある。高崎工業団地造成組合のほか、大手民間事業者の参入も視野に入れて事業スキームを構築する方針だ。
国などとの調整、環境影響評価、用地買収と、新たなまちづくりのハードルは高い。だが、富岡市長は「市と県がワンステップ、ツーステップ上がる最大のチャンス。県と協力し、不退転で進める」と言い切る。
アジャイル生産推進 部品点数削減・工程半減/SUBARU BEV新工場
SUBARUが「モノづくり革新」と「価値づくり」に挑む。群馬製作所・大泉工場(大泉町)で建設中のバッテリー電気自動車(BEV)の新工場で、アジャイルなモノづくりを推し進める。また、パナソニック エナジーと協業し、近隣に大泉バッテリー工場(同)も建設する。群馬県が誇る全国有数の自動車産業集積が、時代に合わせて変わろうとしている。
「モノづくり革新」と「価値づくり」
SUBARUは、2025年以降に矢島工場(太田市)でガソリン車とBEVの混流ラインを、27年以降に大泉工場の新工場でBEV専用ラインを整える。新工場は「ボディー(車体)」「トリム(内装部品)」「ペイント」「バッテリー組み立て」「完成車検査」「成形塗装」「エネルギーセンター」で構成。BEV専用ラインとして立ち上げる生産ラインは、ハイブリッド車(HEV)などの電動車との混流生産も視野に入れる。
大崎篤社長は11月の「SUBARUビジネスアップデート」で、「従来とは大きく異なるBEVという新しい商品を企画・開発し、更地にゼロから建設する新しい工場で生産を始めるということは、モノづくりのアプローチやシステムを大きく変えるチャンスと捉えている」と強調した。
新工場は建設の自由度を生かし、生産ラインのモジュール化や柔軟なサブラインの構築に取り組む。モジュール化は、建屋から物理的な壁をなくし、生産ラインを柔軟に組み合わせられるようにする。柔軟なサブラインにより、工程も組み替えられるようにする。また、デジタル変革(DX)によって生産プロセスを可視化し、変更をリアルタイムに反映する。
車両構造や仕様をシンプル化して部品点数を削減し、生産工程を半減。工場が近接地に位置するロケーションメリットを生かして物流効率も向上し、開発・生産・物流のリードタイムを短縮する。これらにより、モノ・物流の流れであるサプライチェーンと、開発の流れであるエンジニアリングチェーンを一体化したアジャイルなモノづくりを実現する。
一方、価値づくりに向けて協業を深化させる。BEVの主要構成部品である車載用円筒形リチウムイオン電池(LiB)を安定的に調達するため、パナソニック エナジーと大泉バッテリー工場を建設する。大泉工場から約1キロメートルに位置し、現在、面積約19万7000平方メートルの敷地を造成工事している。
「大部屋活動」で一体化
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大泉バッテリー工場の造成工事が始まっている(群馬県大泉町)
大泉バッテリー工場は第1号棟、第2号棟で構成する。両棟とも2階建てで、延べ床面積10万平方メートル。「極板―組み立て―充放電・検査―梱包(こんぽう)」の各工程の製造設備を導入し、第1号棟は28年に、第2号棟は29年に供用開始する予定。年産能力は30年末時点で16ギガワット時を計画している。
また、アイシンと「eAxle」を共同開発・生産分担する。電動車が走るために必要なギア・モーター・インバーターなどの部品をパッケージ化したもので、小型化・高効率化する。さらに、半導体メーカーである米AMDと、ステレオカメラの認識処理と人工知能(AI)を融合して最適な判断結果を出力するシステム・オン・チップ(SoC)の回路設計で協業する。運転支援システム「アイサイト」に搭載するほか、車両の頭脳となる統合電子制御ユニット(ECU)を高度化し、車の知能化につなげる。
SUBARUは〝ひとつのSUBARU化〟を掲げる。本工場(太田市)の技術開発拠点「イノベーション・ハブ」は、この象徴といえる施設。SUBARUの技術者だけではなく、サプライヤーも集まり、開発・生産などの知見を持ち寄る「大部屋活動」では、さまざまな「モノづくり」の検討を進めている。BEV開発は、サプライヤーにとっても挑戦となる。電動化を起点としてメーカーとサプライヤーが一体になり、産業集積が変容しつつある。