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群馬産業特集
地銀トップインタビュー 県産業の現状・課題
群馬銀行頭取 深井 彰彦 氏に聞く
群馬県には自動車産業集積をはじめ、多様なモノづくり企業が立地し、地歩を固めてきた。だが、原燃高や人手不足などにより、経営環境は厳しさを増している。群馬銀行の深井彰彦頭取に、2025年の県産業界の見通しや支援策などを聞いた。(聞き手 群馬支局長・藤竿裕謙)
「つなぐ」力で企業成長 後押し/景況持ち直しの動き続く
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群馬銀行頭取 深井 彰彦 氏
ー25年の県産業の景況をどう見ていますか。
「新工場の建設や老朽化設備の更新、自動化に向けた新規設備導入など、製造業の設備投資意欲は高い。ただ、新工場を建設しようとしても、資材高による投資額の上振れや人手不足による工期の遅れなどにより、計画通りにいかないという声を聞くし、観光などのサービス業も人手不足が続く。一方、生産については自動車の需要が底堅い。物価や賃上げの動向を注視する必要はあるが、基調としては持ち直しの動きが続くと見ている」
ー中小企業はどう賃上げするかが課題です。
「賃金上昇の動きは、25年も続く。それだけに、中小企業はデジタル変革(DX)などによる業務効率化や価格転嫁など、創意工夫によって賃上げ原資を確保していくしかない。一方、大手企業は中堅・中小企業が支えているサプライチェーンを守るためにも、より話を聞く姿勢が大切になる。群馬経済研究所が9月に実施した調査によると、原材料価格上昇に対する価格転嫁率は平均38・1%だったが、価格転嫁できない理由として『言い出しにくい雰囲気がある』との回答も少なくなかった。賃金が上がらず、物価高と景気後退が同時進行するスタグフレーションは避けないといけない」
ーこうした中、群馬銀行はパーパス(存在意義)に「私たちは『つなぐ』力で地域の未来をつむぎます」を掲げ、22年10月から「つなぐプロセス」を展開しています。
「つなぐプロセスは、経営者と対話して3年後、5年後にどうありたいか、ゴールを共有することから始まる。このゴールと現在のギャップを埋めるためのニーズや課題がソリューション提案の起点となる。営業活動のスタイルが変わり、実績も積み上がってきた。9月までの2年間で、約7500先と面談し、約2万1000件のニーズを抽出した。事業設備の増強、国連の持続可能な開発目標(SDGs)への取り組み、人材確保が多い。これらのニーズを着実にソリューションにつなげていく」
ー今年に入り「フルスペックアプローチ」を訴求しています。
「これまで銀行員はお客さまの投資案件を融資案件として捉え、新たな設備を導入するにしても、何を買うのか、いくら必要か、いつまでに返すのかといったやりとりに終始してしまいがちだった。導入の計画段階から関われば、環境対応や補助金の利用といったやりとりもできる」
ー課題は多岐にわたります。
「お客さまの課題を個別案件として捉えるのでなく、長期的な視点で一連の支援策を提供する。例えば、コンサルティングを実施し、中期経営計画を策定したが、その計画を着実に執行できる人材がいないというケースもある。こうした場合、経営者の右腕となるような人材を紹介する。事業の補完が必要であれば、ビジネスマッチングを提供する。グループのリソースを生かし、融資の前工程から後工程を含めた全工程で企業の持続的な成長を後押しする」
サステナブルファイナンス伸長
ーサステナブルファイナンスが伸びています。
「中計では30年度までの累計実行額目標1兆5000億円(うち環境分野1兆円)としていたが、23年9月に同3兆円(同1兆5000億円)に引き上げた。24年度は同5000億円(同3000億円)を同8000億円(同4500億円)にした。業種や企業規模を問わず、環境負荷を考えずに設備投資するといったことは、もはや考えにくい。社会課題の解決に資するファイナンスも伸びている。24年度の目標は達成した。30年度の目標も達成できる数字だ」
ー脱炭素化は産業界の共通テーマです。
「『ぐんぎんSDGs私募債』に『カーボンオフセット型』を追加し、7月から取り扱いを始めた。発行企業から受領した手数料の一部で当行がカーボンクレジットを購入し、県の公共施設や主催イベント、あるいは発行企業自身が排出した温室効果ガス(GHG)をオフセット(埋め合わせ)する仕組みだ。また、SDGsや環境・社会・企業統治(ESG)に関する取り組み目標を設定し、達成状況に応じて金利が変動する『ぐんぎんSLL』が順調だ。ファイナンスだけではなく、取り組み目標の達成に向けたサポートもしっかりと提供する」
自動車関連 情報共有、サプライヤー支援
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SUBARUのOBで、審査部の加藤純二氏(左)と自動車関連情報を共有
ー県の中核である自動車産業にはCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の波が押し寄せているだけに、サプライヤー支援も重要です。
「個社の保有技術や設備、特性などを把握するため、SUBARU系の主要サプライヤーを中心にヒアリングを実施した。個社別のデータシートなどを作成し、エンゲージメントを実施しているが、こうしたノウハウを基に、他のサプライヤーも支援している。また、足利銀行と締結している『りょうもう地域活性化パートナーシップ』は中小サプライヤー支援が柱の一つ。今後も連携してサポートする」
伊香保温泉に地域活性化複合施設
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20日にオープンセレモニーをした複合施設「IKAHO HOUSE 166」
ー地域創生の一環である「伊香保温泉街活性化」が本格始動します。
「築100年超の『旧市川旅館』がリノベーションされ、複合施設『IKAHO HOUSE 166』に生まれ変わった。投資専門子会社のぐんま地域共創パートナーズと地元企業が出資したまちづくり会社、石楽が運営する。この施設にセンターハウスとしての機能を持たせ、石段街の回遊性を高めていく。地域とも連携しているし、石楽の岡嘉紀代表取締役は温泉地活性化で実績のある方だ。プロジェクトを成功させて、地域全体の活性化につなげたい」
ー現中計の最終年度となる24年度は当期純利益400億円と過去最高で着地する見通しです。25ー27年度の次期中計の策定が大詰めを迎えています。
「27年度の当期純利益500億円、株主資本利益率(ROE)8%の数値目標を公言してきたが、24年度の見通しを踏まえた計画を策定中だ。次期中計の3年間で、地域やお客さまの利益、市場の評価、従業員の満足、そして当行の利益、これらを同時に実現していきたい」
ー本日はありがとうございました。