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福島県産業界
成長産業の育成に重点
東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故から14年。国主導のもと新産業の基盤構築が進められている福島県では、将来の飛躍に向けモノづくり企業やその支援団体の動きが活発化している。今回の「福島県産業界特集」では内堀雅雄知事のメッセージ、3月に開いた福島産業人クラブの経済講演会の内容、県内有力企業・団体の動向、県内で進む新エネルギーの動きなどを紹介する。
ドローン配送目指す
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福島県内でドローンを使った実証実験 -
福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)
福島県では2025年度予算で次世代産業として期待される飛行ロボット(ドローン)や水素といった成長産業の育成に力を注ぐ。
24年、福島県は長崎県とともにドローン分野において国家戦略特区に指定された。両県が連携しドローン配送を全国に先駆けて実現し、新技術の早期社会実装の実現を図ることを目指している。
福島県内はドローンを作る企業が集まる一方、ドローンをサービスとして使う事業者が少ない課題があった。一方、長崎県は逆の課題があった。そこで福島県では福島県産ドローンの導入を行う長崎県の事業者に経費の一部を補助し、福島県産ドローンの販路拡大につなげる。福島県商工労働部は「両県のよいところを組み合わせて両県で社会実装につなげたい」とする。福島県内で活用事例創出に向けたドローンの実証事業も引き続き取り組む。
航空宇宙部品・医療機器 支援策を拡充
航空宇宙分野では同産業に関わるモノづくり人材の育成に本腰を入れる。同分野の部材製作で要求される技能者の育成プログラムを開発するほか、企業在職者向けに同分野のセミナーを開く。同県浜通り地域(沿岸部)には小型ロケットの発射場があり、同分野の人材育成がますます必要になると判断した。試みを通じて浜通りで航空宇宙部品の製作や修理に対応できる体制を確立していく。
医療機器分野への参入などを目指す県内企業の支援策を拡充する。大学発スタートアップ企業らとのマッチング支援や競争力強化支援および新規参入支援などを図る。これによって県における医療用機械器具の部品等出荷額の増加や、医療機器製造業登録事業者数の増加に向けた取り組みを加速する。福島県は長年の新規参入支援の結果、医療機器産業が成長。22年実績の福島県における医療用機械器具の部品等出荷金額は251億円と13年連続で全国1位となった。
ただ20年の280億円から21年255億円、22年251億円と近年は減少傾向にあるほか、他の上位県では同金額が増加しており、福島県は伸び悩んでいる。また医療機器製造業登録事業者数が県内で頭打ちであることも課題だった。そこで今回、複数の施策を打ち出す。
例えば、県内の製造業企業と医療機器向けスタートアップ企業とのマッチング事業に力を入れる。ふくしま医療機器開発支援センター(福島県郡山市)での安全性試験において、県内外のスタートアップ企業に対する割引を進めてさらなる利用促進につなげる。
医療機器分野において米国が世界一の市場であることから、米医療関連技術・部材展示会に県内企業と合同で福島県ブースを出展するほか、出展までのサポートも行う。医療機器などの試作発注において県内企業に依頼した企業へ発注にかかった費用の一部を補助するトライアル支援も実施する。
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福島県郡山市で開いた展示会「メディカルクリエーションふくしま」
また県内企業が医療機器関連事業に入っていくための技術の売り込みや展示会出展のノウハウなどのレクチャーといった伴走型パッケージ支援策も始める。医師が患者の治療・診断・予防を補助するソフトウエア医療機器(SaMD)市場の拡大が期待されることから、ソフトウエア分野に強みを持つ会津大学発ベンチャーらへの事業拡大セミナーを開催する。このほか10月下旬には郡山市で医療機器設計・製造展示会「メディカルクリエーションふくしま2025」も開く。
エネルギー関連では、浪江町に水素の大規模製造拠点として福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)がある。福島産水素利活用に向け、水素の「はこぶ」「つかう」部分で、水素輸送用トレーラーや工場での水素ボイラなどの導入経費を一部補助する。県は新産業の芽をそれぞれ育て、大震災からの産業創生につなげる。
【メッセージ】福島県知事 内堀 雅雄 氏
復興と地方創生実現へ全力で挑戦
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福島県知事 内堀 雅雄 氏
東日本大震災と原発事故から14年が経過する中、国内外からの温かい御支援と県民の皆さんの懸命な御努力により、福島の復興は着実に前進しています。
一方で、今なお約2万5000人の方々が避難生活を続けておられるほか、避難地域の復興・再生を始め、廃炉と汚染水・処理水対策、根強い風評や時間の経過とともに進む記憶の風化、さらには急激に進む人口減少など、本県はいまだ多くの困難な課題を抱えています。
こうした中、福島県では未曽有の複合災害により、甚大な被害に見舞われた浜通り地域等における産業基盤を再構築し、世界に誇れる復興と地方創生を実現するため、国家プロジェクトである「福島イノベーション・コースト構想」を推進しています。この構想の下、「廃炉」「ロボット・ドローン」「エネルギー・環境・リサイクル」「農林水産業」「医療関連」「航空宇宙」の重点6分野において、産業集積や人材育成、交流人口の拡大など、幅広い取り組みを進めてきました。
ロボット開発実証 着実に成果
重点分野の一つである「ロボット」については、開発実証拠点である福島ロボットテストフィールド(ロボテス)の活用実績が着実に増加するとともに、約80もの関連企業などが進出し、産業集積が進展するなど、その成果が着実に現れています。
一方で、浜通り地域等における居住人口や就業者数、製造品出荷額等がいまだ十分に回復しておらず、今後、さらに産業を発展させていくためにも、取り組みの加速化が求められています。
このため、「創造的復興の中核拠点」として設立された福島国際研究教育機構(F―REI)とロボテスが、今年4月に統合されました。これによりF―REIが有する研究開発機能に、ロボテスが誇る開発実証拠点としての機能が新たに加わったところです。今後、より多くの企業や研究者の皆さんを引きつける施設へと発展していくことが期待されており、県としても研究開発や人材育成など、幅広い分野においてF―REIと連携しながら、その成果を最大化できるよう取り組んでいきます。
また、昨年6月に指定を受けた国家戦略特区「新技術実装連携“絆”特区」を活用し、ドローンや水素の社会実装を推進するとともに、福島大学などと連携した水素関連技術の研究開発や高度人材の育成、強靱(きょうじん)な水素サプライチェーンの構築などにより、関連産業の育成・集積につなげていきます。
さらに、浜通り地域だけでなく、本県全体の産業発展に向けては、新産業の育成・集積はもとより、地域経済の中核を担う既存産業の持続的な発展が重要となることから、経営基盤の強化を基軸に、社会情勢や環境の変化にも的確に対応できるよう、省資源化・高効率化に向けた設備更新やデジタル変革(DX)導入などを支援するほか、女性が働きやすい職場づくりや、若者の県内定着・還流の促進に向けた企業情報の発信を強化するなど、さまざまな取り組みを進めていきます。
福島の復興は、これからも長く厳しい戦いが続きます。今後も県民の皆さんを始め、福島に思いを寄せてくださる全ての方々と力を合わせながら、福島の復興と地方創生の実現に向け、全力で挑戦を続けていきます。