-
業種・地域から探す
続きの記事
福島県産業界
再生可能エネルギー 先駆けの地へ
福島県 導入拡大、関連産業を集積
福島県は2040年頃に県内エネルギー需要の100%を再生可能エネルギーで賄う目標を掲げる。原子力に依存しない安全・安心で持続的に発展する社会づくりを理念に、関連産業の強化と一体で取り組む。23年度は再エネの導入量が県内エネルギー需要の54・9%に到達。県はさらなる導入拡大と関連産業集積、持続可能なエネルギー社会の構築、水素社会実現の四つを柱にしていく。
太陽光・風力・バイオマス発電増強
県の24年度から27年度までの「再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン(第5期)」では、再エネ導入量は24年度で435万キロワット。太陽光発電(PV)は332万キロワットと最大で、バイオマス発電が50万キロワット、風力発電が47万キロワット、地熱発電と小水力を合わせ5万キロワットと続く。27年度の再エネ導入量は468万キロワット(23年比33万キロワット増)。最も増える風力発電は67万キロワット、PVは345万キロワットを見込む。
今後のPVの主流であるPPA(電力販売契約)では、マツモトプレシジョン(福島県喜多方市)が3年前に地産地消事業として自社駐車場の屋根へ最初に導入した。ゼロエネルギーハウス(ZEH)、ゼロエネルギービル(ZEB)の普及で住宅、工場などの屋根への設置や営農型PVも増加が見込まれる。
大熊町はJR常磐線・大野駅周辺に合計2100キロワットのPVと大型蓄電池を設置。4キロメートルの自営線で電気を供給し、建物のゼロエネルギー化などに乗り出した。産業交流施設へは300キロワットのPVを設置してZEBを達成。地域新電力の大熊るるるん電力(福島県大熊町)が再エネ由来の電気を小売り販売し、4月からは風力発電の電気を東京都中央区の公共施設へ供給している。
会津電力(福島県喜多方市)は新電力として13年に設立。これまで会津地方を中心に福島県内へ再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)での売電事業でPV88カ所、合計出力6107キロワットを導入した。浜通り地域では出力6990キロワットの風力発電を運用しており、小水力は会津若松市で38キロワット、バイオマス熱利用事業は喜多方市で事業化し、24年度から環境省の脱炭素事業で喜多方市と会津若松市の23カ所でPVによるPPA事業を開始した。
PVエンジニアリングではエネルギー・エージェンシーふくしま(福島県郡山市)の事業化ワーキンググループとして発足したサステナブル・ソーラーふくしま(同)が一般社団法人として事業化に乗り出した。
-
阿武隈風力
浜通り地域では大型ウインドファームの立地も進む。福島復興風力(福島県田村市)は総出力14万7000キロワットで国内最大規模の陸上風力発電所「阿武隈風力発電所」の商業運転を4月2日に開始。電気は地域と首都圏へ供給する。浜通りの高原エリアでは合わせて60万キロワット以上の陸上風力発電が見込まれている。
福島県内企業などが設立したふくしま風力O&Mアソシエーション(福島市)は、風力発電にかかわる人材育成事業で、22年に福島市郊外にFOMアカデミーを開設。これまでに全国から800人が風力発電所の建設やメンテナンスの技術教育を受講した。同アカデミーは風力発電に関する安全訓練や技術に関する非営利組織でデンマークに本拠を置くGWO(国際風力機関)の認証施設で、風力発電技術者の受講も多い。
バイオマス燃料では次世代グリーンCO2燃料技術研究組合(raBit、福島県大熊町)が大熊町の工業団地に、植物のセルロースから高効率でエタノールを生産する実証システムを24年末に完成した。バイオマス発電はグリーン発電会津(福島県会津若松市)を始め、各地に立地する。
-
いわきバイオマス発電所
ビーエイブル(同広野町)は出力11万2000キロワットの福島いわきバイオマス発電所を運営。同100キロワット級の小水力発電の建設工事にも着手する。併せてPVも合計出力5000キロワット強を設置。風力発電では福島県など全国6地域で29年以降の事業化を目指している。
二次電池 評価システム事業追い風
-
蓄電池評価システム
世界最大規模の二次電池評価システム事業を進める東洋システム(福島県いわき市)は、本社と愛知県豊田市、滋賀県彦根市の3センターで計1万チャンネルの規模で事業を進めている。充放電機器、電池パックなどの販売も進め、事業は再エネ、電動車の普及で右肩上がりに伸長する。28年度からは電動車用リチウムイオン電池(LiB)の劣化度を1分以内に精密診断するBLDS(電池寿命診断システム)の本格実用化に入る。
二次電池ではアサカ理研がいわき工場(福島県いわき市)を刷新し、電動車両用LiBからレアメタルを高効率で回収・再利用する資源循環事業を26年度内に稼働。28年度から量産に入る計画だ。
グリーン水素 地産地消
福島県では水素の地産地消サプライチェーンモデル事業も動き出している。再生可能エネルギーから水素を生産し、水素の熱を自社工場や周辺工場などでも利活用する事業は3カ所でスタート。福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R、福島県浪江町)は低コストで水素の製造制御システムを構築し、26年度以降に各地で実用化に入る。
-
ヒメジ理化田村工場
ヒメジ理化は半導体製造用石英ガラス製品を生産する田村新工場(福島県田村市)を5月に稼働する。同工場ではやまなしハイドロジェンカンパニー(YHC、甲府市)、巴商会との共同事業で、3400キロワットのPVの電気と系統からのグリーン電力を用い、ポリマー電解質膜(PEM)型水電解装置で水素を生産。年間700万立方メートルの水素製造が目標だ。パイプラインで工場内に供給し、バーナーで2000度Cに燃焼、ガラス加工工程で熱利用する。さらに12台のトレーラーで郡山市、鏡石町、会津若松市のグループ4工場へ水素を供給して利活用する。
トヨタ自動車とデンソーはデンソー福島(福島県田村市)で、工場に設置するPVなどからの電気を使い、400キロワットの水電解装置で1時間当たり8キログラムのグリーン水素を製造する。パイプラインで工場に供給し、これまで液化石油ガス(LPG)を使っていたラジエーター製造時に発生する煤じんの燃焼を水素に代替した。同システムを内外に展開する。
住友ゴム工業白河工場(福島県白河市)はグリーン電力由来の水素を工場で時間120立方メートル製造するパワー・ツー・ガス(P2G)事業をYHCと共同で開始。タイヤ製造時に必要な熱を水素で賄う。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証拠点であるFH2RではPVの電力を使い、旭化成のアルカリ水電解装置で水素を1時間当たり2000立方メートル製造。水素は高圧圧縮し福島県や東京の事業者へ供給する。このグリーン水素で燃料アンモニアを製造する実証プラントを日揮と旭化成が共同で完成し、近く実証に入る。グリーンケミカル事業は旭化成が東南アジアなどで事業化を進める。
IHIは再生可能エネルギーを利用した水素の利・活用技術の研究・開発拠点「そうまラボ」(福島県相馬市)で水素キャリアのeメタン、燃料アンモニアの製造とグリーンケミカル製品の開発を進める。eメタンは相馬市市営バスがグリーン燃料に使って地産地消を実現している。
福島大学が開設した水素エネルギー総合研究所は、今年度から福島県やエネルギー・エージェンシーふくしま、県内企業と、バイオマスから水素と炭化物を製造するプラントの研究開発を始めた。先端技術開発を通し、県内の人材育成にもつなげる。