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福島県産業界
福島産業人クラブ 経済講演会
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あいさつする福島産業人クラブの太田会長
福島産業人クラブ(太田光一会長=福島製作所社長)は3月4日、福島市内で「経済講演会」を開いた。公安調査庁東北公安調査局の吉田政明氏(当時)、復興庁事務次官の宇野善昌氏がそれぞれ、約60人の参加者に語りかけた。ここではその模様を紹介する。
経済安全保障の確保に向けて ~技術・データ・製品等の流出防止~
公安調査庁東北公安調査局 吉田 政明 氏
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当日は公安調査庁東北公安調査局の講演も行われた
当日は経営者や自治体関係者らが集まった。福島産業人クラブの太田会長はあいさつで「米国でトランプ大統領が1月に就任し、これから不確実性や混乱が生じ、日本経済にも影響を与えるのではないか」と述べた。続いて公安調査庁東北公安調査局の吉田氏が「経済安全保障の確保に向けて~技術・データ・製品等の流出防止~」と題し、昨今頻発するサイバー攻撃による情報漏えいや自社技術の第三国での軍事転用防止など事例と対策を交えて話した。
海外で発生している紛争において、日本製の部品が使われたなど「民生品が軍事転用されている」と解説。「これまで技術の軍事転用は先端・機微技術を有する一部の企業に限られていたが、現在においては中小・ベンチャー企業などを含む広範な企業に及ぶ重要問題になっている」として各社に警鐘を鳴らした。さらに企業における調達方法や人材の引き抜きなども場合によっては情報や技術が狙われるリスクになり得るとした。
その後復興庁事務次官の宇野氏が「福島のいま~東日本大震災からの復興の現状」をテーマに話した。
福島のいま ~東日本大震災からの復興の現状
復興庁事務次官 宇野 善昌 氏
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復興庁事務次官 宇野 善昌 氏
復興庁事務次官の宇野です。本日お越しいただいている企業さんの多くは所在地が中通り(県中部)地域・会津(県西部)地域にありますので、復興が進められている浜通り(県東部)地域のことは詳しくご存じないのではないかと思います。福島の復興がどこまで進み、どのような課題を抱えているかお話しします。
2011年の東日本大震災では福島県で死者・行方不明者が4167名となっています。福島は岩手、宮城と異なり地震・津波に加えて東京電力福島第一原子力発電所事故が大きな影響を与えており、我々はこのことを忘れてはなりません。国も社会的責務を負っている立場で、私どもは支援というより国が前面に立ってこの復興を成し遂げるという決意のもと仕事をさせていただいています。
現在も2万人以上の方が、避難生活を送っています。住民の帰還や他地域からの移住を促すには、生活環境の整備が欠かせません。発災から14年が経過する今でもなお、生活環境が不十分な地域において継続して支援していく必要があります。復興庁では医療、介護、教育、買い物などの生活環境の整備や、新たな住民の移住・定住の促進に県、市町村と一体となって取り組んでいます。
続いて県内経済の状況がどうなっているかと申しますと、県全体の県内総生産は震災前の状況を上回っています。浜通りの被災12市町村に注目しますと復興に関する、いわゆる建設特需が見かけ上の経済活動を押し上げていますが、それを除くと震災前の水準にはるかに及びません。
廃炉・ロボ・エネなど重点6分野で産業再生
こうした経済を盛り上げるため、産業再生に向けた試みをいくつか紹介します。その一つが福島イノベーション・コースト構想です。原発事故で産業活動がゼロになったエリアで雇用の場が失われてしまった浜通りに、新たな産業基盤の創設が必要だと言うことで、福島に強みがありそうな分野で産業を生み出していこうと廃炉やロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の重点6分野について今取り組んでいます。新たな企業の呼び込みと地元企業との連携もしっかりやっていこうとしています。
また研究開発拠点として福島国際研究教育機構(F―REI=用語参照、福島県浪江町)も23年に立ち上げ、山崎光悦理事長のリーダーシップの下で研究開発や産業化、人材育成などを一体的に推進しています。29年度までの7年間で1000億円の予算を確保し、自前研究を50ユニットに増やすことを掲げています。
復興予算に関する話ですが現在、「第2期復興・創生期間」以降の次の5年間を考える時期に来ています。26年度から30年度の復興をどう進めていくかを整理し、25年夏に基本方針の改定を行いたいと考えています。次の5年間は被災地の課題を解決していく極めて重要な期間であって、今の5年間以上に力強く復興施策を推進していくための財源を確保していきます。26年度から5年間の事業規模は1兆円台後半の見込みで、福島県については次の5年間の全体の事業規模が今の5年間を十分に超えるものと見込まれています。26年度までの5年間の予算を超える規模を次の5年間で確保し、しっかりと事業を進めていく決意を表しており、現在それに向けて調整を進めています。
特定帰還居住区域における除染などがこれから本格化するほか、F—REIは施設整備や研究開発を充実させないといけません。産業のなりわい再生についてもまだ厳しい状況で、福島イノベ構想に基づいて推進しないとならない状況です。さまざまな面でこれからの5年間が本格的な正念場であります。国としてしっかり予算を確保し福島の復興に取り組んでいきます。ご清聴ありがとうございました。
講演後、会場の参加者から質問が寄せられ、宇野事務次官は一つひとつ丁寧に答えた。ここではその一部を紹介する。
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震災からの産業創出について、会場の参加者から質問が寄せられた
[Q] 福島イノベ構想やF—REIなど浜通り地域で大きな予算が動いていますが、同じ県内でも中通りや会津の人たちがそれにどう関わっていけばよいのでしょうか。またそのような施策は考えているのか伺います。
[A] 施策として二つあります。F—REIには四つの機能があって、そのうちの一つが「地域の司令塔になる」です。中通りや会津の企業関係者を集めていろいろなアイデアをいただいたり、話をしたりする機会を設けています。そういった所に参加いただくとF—REIを核にして浜通りの動きに絡んでいくことができるとみています。また福島イノベ構想の青写真というのがあります。どういう方向で何をしていくかを具体的に書いたものですが、その改定を今行おうとしており、その中で一つ大きなテーマが進出してきた企業が逃げないようにすることです。地元企業と受発注の関係を結んだり技術提携したりして進出してきた企業に定着してもらう政策を作っていくべきでないかという議論を、経済産業省を中心に行っています。浜通り以外の企業の皆さんも一緒になって、やっていける機会ができるのではないかと考えています。
【用語】 福島国際研究教育機構(F—REI)
浪江町に本部を置く特殊法人でエフレイと読む。世界トップレベルの研究者を呼びこみロボットやエネルギー、放射線科学などの研究開発を進めている。