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エネルギー産業
内外エネルギー情勢と日本のエネルギー業界の課題
【執筆】 日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員 小山 堅
ホルムズ海峡の封鎖によって国際エネルギー市場は激震にさらされ、エネルギー安全保障は世界の最重要課題となった。日本は石油の備蓄放出、代替供給源の確保など、必死に取り組みを進めているが、今後の事態展開によってはさらなる対策強化も必要となる。危機対応と同時並行で、長期的な視野でのエネルギー需給構造改革も進めるべきだ。代替供給源を確保し、中東産油国との戦略的な関係強化、アジアのエネルギー安全保障強化への関与など、総合的国際エネルギー戦略が求められる。
価格高騰—安全保障揺るがす
激動する国際エネルギー情勢
2026年に入り、国際エネルギー情勢は一気に流動化し、不安定化の度合いを強めている。2月28日に始まった米国とイスラエルによる対イラン軍事攻撃は、イラン側による激しい反撃を呼び、中東エネルギー輸出の大動脈であるホルムズ海峡の実質的封鎖という未曽有の事態が発生した。
ホルムズ海峡を通航する石油は1日当たり2000万バレル、液化天然ガス(LNG)は年間8000万トンと、いずれも世界の供給量の2割に相当する。これまで一度も海峡封鎖の発生はなかったため、封鎖リスクは軽視・看過されるきらいがあった。
しかし、今回の中東戦争によって実際に発生したホルムズ海峡の封鎖は国際エネルギー市場を震撼(しんかん)させた。失われた供給量があまりに巨大で、代替することが基本的に不可能なためである。
原油や石油製品の価格は大幅に高騰し、世界のエネルギー安全保障を根底から揺るがすに至った。米国とイランの間で和平に関する覚書合意が発表されたが、戦争とホルムズ海峡封鎖に関する先行きはいまだ不透明であり、予断を許さない。今後の事態の展開によっては、さらなるエネルギー価格高騰やエネルギーの物理的不足発生の可能性すらありうる(グラフ1)。
ホルムズ海峡危機だけではない。AI(人工知能)やデータセンターの大幅な利用拡大による電力需要の増大に対応する電力安定供給確保の問題や、世界がクリーンエネルギー推進にまい進する場合、クリーンエネルギーの製造能力やそれを支えるレアアース(希土類)など重要鉱物の供給における中国の「ドミナンス」の問題など、世界は新たな、より複雑化したエネルギー・経済安全保障問題に直面している。
エネルギー安全保障問題に加え、気候変動を防止する脱炭素化への取り組みも忘れてはならない。エネルギー安全保障と脱炭素化の両立を図りつつ、エネルギーコスト・価格の上昇を可能な限り抑制し、暮らしや経済を守ることが求められている。
エネルギー安全保障確保に向けた日本政府の取り組み
エネルギー自給率が10%台の日本は、国際エネルギー情勢の激震に常にさらされてきた。25年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画でも「S+3E(安全性+安定供給・経済性・環境)」のバランスを重視しつつ、実際にはエネルギー安全保障が特に重視されていた。
ホルムズ海峡の封鎖は日本のエネルギー安全保障をまさに激震の奔流に投げ込んだ。原油輸入の中東依存度が9割を超える日本にとって(グラフ2)、ホルムズ海峡の封鎖は石油の安定供給確保を待ったなしの最重要喫緊課題とした。
危機に直面した日本政府は直ちに対策強化に動いた。25年末時点では石油消費量250日分を超える数量を保有していた石油備蓄(グラフ3)を、民間備蓄、国家備蓄ともに取り崩し、同時に米国からの輸入を中心に代替供給源の確保に乗り出した。
原油以上に需給逼迫(ひっぱく)が問題となったナフサについては、原油とともに官民を挙げた最大限の努力を行い、米国からの輸入拡大を中心に代替供給源確保を進めている。またガソリン価格上昇の動きに対応して小売価格を1リットル当たり170円前後に抑えるための補助金制度を導入し、夏場の電気・ガス料金への補助金導入も進める構えだ。
石油備蓄の機動的放出と代替供給源の確保は一定の成果を挙げていると見られる。いわゆる「目詰まり」問題への対応とともに、これらの対策をしっかりと展開し続けていくことが重要だ。今後、ホルムズ海峡の封鎖が長期化する場合には、必要に応じて節減も含めて総合的な対策を一層強化していくことも求められるだろう。
これらの危機対応としての対策実施と併せて、中長期的なエネルギー安全保障の対策強化も同時並行で進めていく必要がある。そのため長期的にエネルギー消費効率のさらなる改善を進め、原子力や再生可能エネルギーなどを推進し、エネルギー需給構造を変革することが求められる。
また中東原油と品質の異なる原油を、構造的に代替供給源と位置付けるためには、中東原油の処理を前提としてきた日本の精製設備に対する改修・改造が必要となる。そのための投資問題などにも、政策的に対応しなければならない。これらの問題に加え、日本は電力の安定供給や経済安全保障問題によって複雑さを増すエネルギー安全保障問題への対応と、脱炭素化への取り組み強化も進めていく必要がある。
資源開発・安定調達に向けた取り組みの現状と課題
エネルギー需給構造改革に向けたエネルギー転換が進展するにせよ、日本にとって化石燃料の安定供給確保は長期にわたって重要だ。そのため、今回のホルムズ海峡危機の経験を契機に、改めて供給・輸入源の多角化が求められる。
米国、カナダ、中南米、中央アジア、アフリカなどにおける代替供給源開発に向けた取り組みは、官民を挙げた総力戦となる。他方、中東との関係強化も大切だ。中東安定化に向けた取り組みを進めつつ、ホルムズ海峡を迂回(うかい)した輸出インフラの拡充・新設に協力し、中東産油国との関係を強化することも重要になろう。
日本との経済関係密接化が進み、サプライチェーン(供給網)の一体化が進展する東南アジアなどアジアのエネルギー安全保障の強化に取り組むことも、総合的な観点での日本のエネルギー安全保障に資する。日本主導で創設した東南アジア諸国とのエネルギー協力の枠組み「パワー・アジア」などを中心に、日本がアジアのエネルギー安全保障強化への関与を深めることは重要だ。
そこに中東産油国を巻き込んで、石油備蓄整備を進めるといった構想を立案・準備していくことも大切だろう。これらはまさに日本にとっての総合的エネルギー安全保障強化への国際戦略である。
