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エネルギー産業
ガス業界/カーボンオフセットLPガス・e—メタン 認知度向上
カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを加速する都市ガス業界と液化石油ガス(LPガス)業界。水素と二酸化炭素(CO2)を原料とする合成メタン(e—メタン)は、徐々に認知度が高まり、カーボン・クレジットの活用も普及し始めた。大阪・関西万博でも実証や導入がされるなど“新たな当たり前”が始まっている。
都市ガス/e—メタン 技術開発・実証を加速
都市ガス業界は2030年までに、都市ガスの1%をe—メタンやバイオガスとする目標を掲げ、技術開発や実証を進めている。中でも大阪ガスはDaigasグループとして3種類のメタネーションの技術開発を進めて、業界をリードする。
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SOECメタネーションのベンチスケール試験施設の竣工式が6月3日に行われた(右から2人目が大阪ガスの藤原正隆社長)
6月上旬、大ガスの先端技術研究所でエネルギー変換効率が高い固体酸化物形電解セル(SOEC)メタネーションのベンチスケール試験施設が完成した。SOEC水蒸気電解装置を使い、水から水素を製造。その水素をメタン合成装置でCO2と反応させ、e—メタンを製造する。
最終的に目指す変換効率は85—90%。その実現には、メタン合成装置の排熱を電解装置に再利用できるよう、改良を加える必要がある。それに向け独自の金属支持型セルスタックを搭載したSOEC共電解装置を、27年に施設内で新設する計画だ。藤原正隆社長は「スケールアップのための技術課題を解決していく」と意気込む。ただ排熱再利用の仕組みの本格的な実装は、28年開始予定のパイロットスケール試験段階と、少し先になる。一つずつ課題を解決し、40年の商用化を目指す。
それに先立ち30年に商用化予定なのが、サバティエメタネーションとバイオメタネーションだ。大ガスはINPEXと共同で新潟県長岡市に、世界最大規模のサバティエメタネーション実証プラントを建設中。25年度中の稼働を目指している。
また大阪・関西万博の会場でも、バイオメタネーションとサバティエメタネーションを組み合わせた実証設備を構築した。会場内で出た生ゴミから発生したバイオガス中のCO2を、グリーン水素と反応させてe—メタンを製造。さらに会場内で回収したCO2とも反応させ、e—メタン製造量を増やす。高純度のe—メタンを安定製造するため、実証を通じ評価する考えだ。
課題の一つは再生可能エネルギーのコストだ。再生エネの電力で水を電気分解して製造するグリーン水素を原料として使いたくても、日本国内では再生エネのコストが高く、収益性が合わない。解決に向けて、水素の調達が不要で高効率なSOECメタネーションの実用化が重要となる。
また本末転倒かもしれないが、原料としてのCO2も争奪戦になる可能性もある。単に脱炭素を謳うだけでなく、産業としてサプライチェーンを構築できるかが注目される。
LPガス/カーボンオフセットLPガス 万博で供給
LPガス業界ではCO2をオフセット(相殺)した「カーボンオフセットLPガス」が注目を集める。岩谷産業は、大阪・関西万博で大阪府・市が出展する「大阪ヘルスケアパビリオン」に対し、同ガスを供給。万博が掲げる「いのち輝く未来社会」の実現に貢献するとともに、認知度向上に取り組んでいる。
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カーボンオフセットLPガス(イメージ=岩谷産業)
岩谷は2021年に「Iwatani J—クレジットプロジェクト」を立ち上げた。工場などの事業者向けに、高効率ボイラの導入や、油燃料から環境負荷の低いLPガス・液化天然ガス(LNG)への転換を推進。そこで得られたCO2削減量を算定・集計し、J—クレジット制度認証委員会の承認を経てJ—クレジットを創出する。そのクレジットを付加し、カーボンオフセットLPガスとして供給している。参画企業には岩谷がサービスを対価として還元する。大阪ヘルスケアパビリオンに対しては、同プロジェクトで創出したJ—クレジットを活用し、会期の半年間で約30トンのカーボンオフセットLPガスを供給する見通しだ。約90トンのCO2をオフセットする試算となる。
岩谷はカーボンオフセットLPガスを、既に事業者向けにも供給している。ただその場合、付加するクレジットは同プロジェクトでは賄い切れず、9割超はカーボン・クレジット市場から調達する。近年、多くの企業がカーボンニュートラルの取り組みを強化する中、クレジットの価格は高騰。コスト増分は販売価格に上乗せするが、今後も価格高騰は続くと想定され、顧客へ丁寧に説明できるかどうかが重要になる。
LPガス業界の競合各社も同様の展開をしている。ただ岩谷のように自社で創出したクレジットを活用するのは珍しい。浅井健治エネルギー本部産業エネルギー部長は「技術力を生かし、独自に需要開拓できるのが当社の強みだ」と分析する。
岩谷は資本業務提携したコスモエネルギーホールディングス(HD)と、持続可能な航空燃料(SAF)製造に伴うLPガスの製造・販売を検討し始めた。またCO2と水素でLPガスを合成する「グリーンLPガス」の研究開発を以前から続けている。こうした取り組みも含め業界のカーボンニュートラル推進をリードする考えだ。