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エネルギー産業
石油・資源開発/CCS・低炭素燃料に挑む
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現へ、石油・天然ガス業界でもその挑戦が始まっている。資源開発会社は油ガス田で培った知見を生かし、二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)事業を先導。これに利用(U)を加えたCCUSへの展開も試みる。石油製品の領域では合成燃料の開発やバイオエタノールの普及に持続可能な航空燃料(SAF)の実用化も始まり、低炭素化への道筋が明らかになりつつある。
CCS/CO2回収・貯留 展開
CCSで先行する欧米諸国を追って、日本もようやく経済産業省が2023年度に先進的事業7件、24年度には9件(いずれも海外案件含む)を指定し、バリューチェーン全体への支援を手厚くするなど実施段階に移ってきた。26年度中には最初の事業が最終投資決定される見通し。30年までに年間貯留量600万—1200万トンの確保にめどを付け、50年時点で約1・2億—2・4億トンの貯留量実現が一つの目安となる。
中でも有望なのが北海道の「苫小牧地域CCS事業」。出光興産の製油所と北海道電力の発電所から出るCO2をパイプラインで石油資源開発が受け入れ、地下の深部塩水層に年間約150万—200万トン貯留する。16—19年に石油資源開発も参画し、国が初めてCCSの大規模実証を行った実績があり、地元の理解度や関心が高く、事業を進めやすいのも強みだ。
また「東新潟地域CCS事業」は新潟港東エリアの化学・製紙工場や発電所から出るCO2を既存の油ガス田に年間で約140万トン貯留することを目指す。同地域は古くから油ガス田が多く操業しており、石油資源開発も東新潟ガス田などを稼働中。地下の調査データが豊富な上、ガスの需給調整のため、一部のガス田で天然ガスの地下貯蔵を実施しており、そうした知見も生かされそうだ。
同時に水素・アンモニア製造
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今夏にも本格稼働するINPEXのブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証プラント
一方、CCSと水素・アンモニア製造を一体で行うプロジェクトも始まった。INPEXが新潟県柏崎市で実証中の「ブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証試験」は、近隣のガス田で掘削した天然ガスを水素に転換。その際に発生するCO2を既に生産を終えたガス田の貯留層へ圧入し固定貯蔵する。この結果、水素はカーボンフリーのブルー水素となり、水素発電設備を通じて新潟県内に電力を供給。さらにブルー水素の一部からアンモニアを製造し、化学原料として同県内のユーザーに供給する。
すでに6月上旬、水素製造プラントの試運転を開始しており、今夏中に本格稼働に入る。CO2の圧入では枯渇したガス田における資源の増進回収効果(EGR)の確認も行う予定。CCUSの可能性も探る計画となっている。
低炭素燃料/万博—バスに合成燃料
再生可能エネルギー由来のグリーン水素と工場などから排出されるCO2を原料に製造する合成燃料。既存のガソリン車やディーゼル車、給油所や油槽所などのインフラをそのまま活用できることや、化石燃料と同等のエネルギー密度を持つことから、カーボンニュートラルに向けた選択肢の一つに挙げられる。
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営業車両の運行に合成燃料を使用するのは初めて(日野自動車、西日本ジェイアールバスとの共同事業)
商用化の目標は30年代前半。その未来を先取りする実験場が大阪・関西万博だ。大阪駅と会場を結ぶシャトルバスにENEOSの合成燃料が商用車として初めて使われている。また、会場内の移動用として自動車メーカー5社が提供したガソリン車にもENEOSの合成燃料が使われ「デモ走行」している。
もう一つの道筋がバイオエタノール。政府のアクションプランでは、28年度に先行地域でバイオエタノールを10%混合したガソリンの供給開始を目指す。30年度には広く10%混合ガソリンを普及させ、40年度には20%まで引き上げる。バイオエタノールをめぐっては、日米関税交渉でも米国からの輸入拡大が日本側のカードの1枚になっており、国の普及施策と外商政策が一致する可能性もある。
航空—国産SAF実用化
航空分野では一足早く廃食用油を原料とした国産SAFの実用化が始まった。5月1日、日本航空の旅客便がSAFを初めて給油し、関西国際空港を飛び立った。23日には独DHLエクスプレスの定期貨物便がSAFの供給を受け、中部国際空港を初めて離陸した。
SAFの普及拡大に向けては22年に官民協議会が立ち上がり、傘下のワーキンググループで諸課題の解決策を協議。さらに新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金」や政府の「GX経済移行債」による資金支援も行われている。