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化学産業(2024年4月)
環境省によると国内化学産業は、鉄鋼業界に次ぐ二酸化炭素(CO2)多排出産業と位置付けられており、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成に向けて対応が急務となっている。現在、化学メーカーでは「燃料転換」や「CO2の貯留・回収・利用(CCUS)」「ケミカルリサイクル」「原料転換」などによってカーボンニュートラルの達成を目指している。
2024年04月26日 掲載
機能性材料
EV―軽量化 食品―高性能化
化学メーカーは引き続き競争力強化に向けた機能性材料の開発や事業展開に力を入れている。特に需要獲得に向けた動きが活発なのは、自動車分野だ。電気自動車(EV)シフトに伴う関連材料の体制強化や、軽量化などの需要の取り込みを目指す。食品向けなどを含め、各社は付加価値の高い機能性材料の展開をさらに加速させそうだ。
電動車/リチウム電池向け増産体制
電池関係は設備投資が活発化している。旭化成はリチウムイオン電池(LiB)向け湿式セパレーターの塗工能力を増強する。日本や米国、韓国の計3工場で生産体制を整備。EVなど車載用途を中心に成長が見込まれるLiB用セパレーターの旺盛な需要に対応する。
クレハは、いわき事業所(福島県いわき市)のフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)生産設備を増強する。新設備の生産能力は年8000トンを見込み、2025年度末に完成予定。EV化によりLiB用バインダー(接着剤)でPVDF需要が拡大しており、主力拠点の供給体制を強化する。
EV向けなどでは新たな材料の採用や、需要を取り込むための動きがある。レゾナックのLiB用バインダー「ポリゾールLBシリーズ」はプライムアースEVエナジー(静岡県湖西市)のLiB向け部材として初めて採用された。同LiBはトヨタ自動車の一部のハイブリッド車(HV)に搭載される。
レゾナックのポリマー設計や電池評価技術などを活用し、バインダーの組成・粒子構造を最適化した性能が評価された。
東ソーのポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂は、EV向け電動駆動装置「eアクスル」に採用された。同社が持つ金属接合の強みが生かされた格好だ。
EVの航続距離の向上などに貢献する素材も期待の分野だ。住友化学はガラス繊維(GF)や炭素繊維(CF)の長繊維で強化した液晶ポリマー(LCP)で需要を開拓する。GF長繊維を複合したLCPは耐熱性や流動性を保ちつつ、高い衝撃吸収性能を持つ点が特徴だ。CF長繊維LCPは高い剛性が強みとする。航続距離の向上につながる金属代替による軽量化を実現しつつ、耐熱性や耐衝撃性を併せ持つ素材として訴求する考えだ。
東レはガラス並みの透明性と太陽からの赤外線に対する高い遮熱性を備えたフィルムを開発した。EVなどに適用することで冷房消費電力抑制やエネルギー削減に伴う航続距離向上、車内の快適性向上を実現する。
岩通ケミカルクロス(東京都杉並区)は、ヒーターやライトなど自動車部品に採用が期待される新技術「電気印刷」を提案し、電気印刷を活用できる分野を広げている。電気印刷はフィルムに回路パターンを印刷し、電気回路をつくる。フィルムに印刷板を重ね、電圧を加えて印刷し、独自開発したトナーを使って回路を現像。フィルムを変形させた後に銅めっき処理を行う。銅回路を断線させることなく、曲面にも電気回路を作れる。
医薬品・食品/新工場続々―進む高機能化
医薬品や食品向け素材でも供給体制の強化に取り組む動きがある。
三菱ケミカルグループは高機能乳化剤「シュガーエステル」に力を入れている。シュガーエステルは多様な食感などを実現できる点が評価され、ケーキやチョコレートなどに幅広く採用されている。九州事業所(北九州市八幡西区)に年産能力2000トンの新工場を立ち上げ、26年3月には同1100トンの新ラインを追加し、稼働する予定。シュガーエステルを生産する東海事業所(三重県四日市市)だけでなく、事業継続計画(BCP)対応を含めた供給体制を強化する。
旭化成は医薬品や健康食品の賦形剤に使われる結晶セルロース「セオラス」の生産体制を強化する。高機能グレードの需要が高まる中、東海工場(宮崎県延岡市)に加え、水島製造所(岡山県倉敷市)でセオラス第2工場(水島工場)が稼働した。生産現場では、デジタル変革(DX)を生かした効率化や人材育成に取り組む。