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化学産業(2024年4月)
環境省によると国内化学産業は、鉄鋼業界に次ぐ二酸化炭素(CO2)多排出産業と位置付けられており、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成に向けて対応が急務となっている。現在、化学メーカーでは「燃料転換」や「CO2の貯留・回収・利用(CCUS)」「ケミカルリサイクル」「原料転換」などによってカーボンニュートラルの達成を目指している。
2024年04月26日 掲載
国内化学メーカー 市場動向と環境対策
脱炭素で新たなステージ
化学産業は石油からナフサ、さらにその誘導品まで含めると多種多様な化学製品で構成されている。化学製品の中で最も出荷量のあるポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)で構成されるポリオレフィンの市場動向について見ると、21年はコロナ禍による前年の反動需要から若干の持ち直しが見られたものの、22年には原材料価格の高騰や半導体などの部材不足により製造業を中心に需要動向が悪化したため、同年の出荷量は再度減少に転じた。また、PEのうち高密度ポリエチレン(HDPE)市場においては、20年7月にスタートしたレジ袋有料化によるフィルム分野での需要減少の影響も大きい(図)。
矢野経済研究所の23年8月の調査時点における23年以降の出荷量について、半導体不足の解消に伴う自動車生産需要の回復に加え、人流回復による消費の持ち直しやインバウンド需要の増加などから22年を上回る出荷量を見込んでいる。
主要化学メーカーのカーボンニュートラル目標は表1の通りとなる。
化学産業のカーボンニュートラルに向けた取り組みは大きく「燃料転換」「CO2の貯留・回収・利用(CCUS)」「ケミカルリサイクル」「原料転換」に大別できる(表2)。
燃料転換
国内化学産業の川上に位置する企業(石油精製メーカー、総合化学メーカーなど)は、自家石炭火力発電設備やナフサ分解炉などの燃料多量消費型設備を保有し、これらを基盤に事業を展開している。そのため、石油化学メーカーにおけるCO2排出量の多くがエネルギー起源によるもので、脱燃料もしくは燃料転換がCO2排出量の削減において必須となる。
自家石炭火力発電設備とナフサ分解炉については、要求される加熱温度が異なることから転換する燃料の選択肢に違いが生じる。しかしカーボンニュートラルに向けては、燃焼時のCO2排出量だけでなく、燃料製造時に発生するCO2も対象となる。そのため、どちらの設備においてもCO2がゼロになっているものを採用する必要がある。このような観点から、化学メーカーではアンモニアや水素、バイオマス燃料などに段階的に切り替えていくことがオプションとして挙げられる。
CCUS
化学産業では工業プロセス内の化学反応によって排出される非エネルギー起源のCO2も削減対象である。ここで紹介するCO2の資源循環・回収は、いわば不可避のCO2排出をオフセット(相殺)するような手段として位置づけられている。CO2の資源循環にはCO2貯留・回収利用技術となるCO2回収利用(CCU)とCO2回収貯留(CCS)の二つの手法があり、これはCCUSとして総称される場合もある。
CCUは発電所や化学工場などから排出されるCO2を分離・回収し、燃料製造や原料製造に使用する資源として再利用する技術である。
CCUSは発電所や化学工場などから排出されるCO2を分離・回収し、地下層に貯留・圧入する技術である。
ケミカルリサイクル
化学産業では石油を原料にナフサ、基礎化学品、誘導品という過程を経て、最終的にプラスチックをはじめとした石油化学製品が製造されている。化学産業の川下では廃プラスチックを選別、洗浄、粉砕、溶融といったプロセスを通じて新しいプラスチック製品として再利用するマテリアルリサイクルが進んでいる。
一方、化学産業の川上に位置する化学メーカーの多くは、廃プラスチック・廃棄物などに化学的な処理を行い、原料に戻してから再利用するケミカルリサイクルの研究開発を進めている。ケミカルリサイクルはプラスチックの資源循環を実現するだけでなく、マテリアルリサイクルとは異なり、バージン品質(石油由来)のリサイクルとしてナフサ、モノマーを製造できることで近年注目されている。
原料転換
原料転換においては“ナフサ(石油)由来からの移行”がターゲットとなる。現状、ナフサ転換における選択肢としては、リサイクルナフサの使用または、動物油脂や植物油、廃食油から製造する持続可能な航空燃料(SAF)の副産物であるバイオナフサの使用である。リサイクルナフサはケミカルリサイクルの油化手法で廃プラスチックを熱分解し、熱分解油をナフサ分解炉で精製することで、廃プラスチック由来のナフサを製造できる。
バイオナフサに関しては、日本では現状30年時点のSAF使用量について資源エネルギー庁が「国内エアラインによる燃料使用量の10%を持続可能な航空燃料に置き換える」という目標を設定している。このため、石油精製メーカーではSAFの国内製造および供給を目指して取り組んでいる。現時点ではバイオナフサのほとんどを輸入しているものの、国内バイオナフサの生産体制の構築に動きつつある。
【執筆者】
青木 万葉氏
矢野経済研究所インダストリアルテクノロジーユニット 上級研究員
2018年に矢野経済研究所に入社後、主にプラスチックを中心に、鉄鋼、アルミニウム、化学産業など、各種素材産業や同産業界の資源循環やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に関する分野の調査、分析業務を担当している。