-
業種・地域から探す
続きの記事
東北産業特集
世界を目指せ 東北スタートアップ群
東北から世界を目指してー。中小企業基盤整備機構東北本部(仙台市青葉区)は、盛岡市のいわて県民情報交流センターアイーナで、革新的技術を持つディープテック系スタートアップ支援に特化したピッチイベント「aTOP(エートップ)2025in岩手」を2月13日に開いた。今回が3回目となる中小機構のピッチイベントになる。これまでの開催は仙台が会場だったが、今回初めて岩手・盛岡での開催となった。東北の地で事業パートナーとの出会いの場を広げるため新たな展開が進み始めた。
aTOP2025in岩手 ピッチイベント
-
岩手・盛岡で初開催となったディープテック系ピッチイベント「aTOP」
今回盛岡会場に登壇したのは、ZAICO(山形県米沢市)、いおう化学研究所(盛岡市)、UTヘルステック(福島市)、ジェネスティア(秋田市)、アイラト(仙台市青葉区)の5社。東北各地の国立大学の推薦もあった。会場全体では自治体、各支援機関など約100人が参加した。
冒頭にあいさつした中小機構の坂本英輔理事は「(aTOPが)東北におけるスタートアップ支援交流の場にしていきたい」と東北全体への浸透に意気込みを示した。
各社に対する連携先の提案など、メンターとなるベンチャーキャピタルとしては、サムライインキュベート、スパークル、UntroD Capital Japan、東北大学ベンチャーパートナーズ、環境エネルギー投資、アクシル・キャピタル・アドバイザーズ、みらい創造機構の7社が参加した。メンター各社からは、新たな連携先のあり方や用途別の事業戦略、広報戦略など各種の助言があった。
基調講演では東北大学ベンチャーパートナーズの樋口哲郎社長が盛岡でのピッチイベントの意味を熱く説いた。
「盛岡の位置は東京から新幹線でおよそ2時間。それは京都と同じ距離感でもある。飛行機で海外からやって来る人からすればそれほど遠くは感じられない。ある意味でスタートアップもそう」と述べた。「グローバルで考えて見るべきではないか」と発想の転換を呼びかけた。
最後に樋口氏は「『知の成果』の活用には、起業家とリスクマネーの存在。事業会社、大学の連携に、政策の後押しが必要」とし、人材育成など課題解決による東北の一層の成長に期待を込めた。
各社の取り組み
[ZAICO]モノの情報をインフラに
-
ZAICO 田村 壽英 社長
「モノの情報をインフラにしていきたい」ー。ZAICO(山形県米沢市)の田村壽英社長は、自社の事業紹介をこう締めくくった。同社は、テクノロジーを用いた在庫管理の省力化・完全自動化により、「在庫管理をする人をなくす」ことを目指している。
同社は、モノの情報を取得し、整理し、提供することで、社会の効率を良くするクラウド在庫管理システム「zaico」を展開している。同システムは、製造業・小売卸売業・クリニックなど在庫管理が不可欠な現場を中心に多くのユーザーを抱えている。強みは、誰でも簡単に使えるUI(ユーザーインターフェース)のほか最新のAI(人工知能)やIoTセンサーを活用した「自動化システム」である点を強調する。
田村社長は「モノの情報を、集め、整え、提供し、社会の効率を良くしていきたい」と資金調達で投資家・金融機関とのつながりを求めた。
[いおう化学研究所]分子接合剤 独自技術強み
-
いおう化学研究所 森 克仁 社長
「当社はオリジナルの接合剤(分子接合剤)を研究・開発・販売する会社」ー。岩手大学発ベンチャーとして2007年に創業した、いおう化学研究所(盛岡市)の森克仁社長は端的に事業概要を説明した。
協業するパートナーとして、半導体分野・メディカル分野の専門商社などの紹介を求めた。
従来の接着技術は、一般に表面を粗化して表面積を大きくすることで接合力を確保していた。しかし、粗化の効果がみられる材料が限られていることなどが課題としてあった。同社独自の分子接合技術は、表面を粗化せず、ナノレベルの分子で異種材料を共有結合により接合するのが特色。難接着材料にも対応可能としている。
森社長は「オリジナルの分子接合剤の開発・販売をメインとした事業構造に転換していきたい」とし、新たな協業による飛躍への道筋を示した。
[UTヘルステック]病院と患者 アプリでつなぐ
-
UTヘルステック 織部 一弥 社長
2022年設立のUTヘルステック(福島市、織部一弥社長)は、病院と患者の距離を縮めるソフトウエアの開発を進めている。遠隔管理による入院、外来に次ぐ第三のソリューションの社会実装に取り組んでいる。織部社長は「資金調達が課題になっている」とし、今後実施予定の探索的臨床試験に向けた投資を呼びかけた。
同社によると、遠隔リハビリテーションのアプリケーションは多く存在。ただ保険適用されたものはなく、保険が適用されるアプリ開発を目指している。2023年には最初の特許を取得。医療機関、弁理士とともにタッグを組んで知的財産戦略にも取り組んでいる。病院へ通わずに患者自身の健康が管理され、医師によるサポートが受けられる環境の構築を描く。
織部社長は「ソフトウエアと医療現場の連動を促したい」とし、アプリでつなぐ質の良い医療を届けていく姿勢を示した。
[ジェネスティア]抗老化ワクチンの開発目指す
-
ジェネスティア 嘉陽 毅 社長
2016年設立の秋田大学発ベンチヤーのジェネスティア(秋田市)。今回のaTOPに嘉陽毅社長はオンラインでの参加となった。テーマは、健康食品の「見えない効果」を細胞レベルで「見える効果」にー。健康食品を与えたマウスの抗老化作用効果の検証をベースとした科学的情報提供サービスを手がける。
登壇の狙いとして嘉陽社長は「当社のサービスを必要とする顧客の探索、共同研究パートナーの探索」を示した。マウスの飼育からマイクロアレイ遺伝子発現解析を行い、科学的データの提供をワンストップで行うことができるのが同社の強み。
今後の方向性として、宇宙ステーションの無重量生活の筋肉萎縮を防ぐ宇宙食の開発、抗老化作用を持つ食品の遺伝子データに基づいた抗老化ワクチンの開発も掲げる。嘉陽社長は「各方面へのアプローチを広げていきたい」と強調した。
アイラト 放射線治療計画AI活用
-
アイラト 池田 龍太郎 技術営業部長
医療AI(人工知能)を用いた、がんに対する放射線治療計画支援サービスの社会実装に取り組む東北大学発スタートアップのアイラト(仙台市青葉区)。登壇した池田龍太郎技術営業部長は「『放射線治療ですべての患者を救う』の実現を目指している」とし、自社サービスの利用を呼びかけた。
がん治療×AI。独自技術シーズとして同社は、AIによる最適な放射線治療計画生成技術とAIによる放射線治療計画の安全性予測技術を持つ。開発を行っているAIソフトは腫瘍や正常組織の輪郭抽出、治療計画立案、安全性検証を全自動で進め、従来約6時間の業務を約20分に短縮可能という。
放射線治療現場の過重労働などの課題解決につなげ、日本を世界で最も優れた放射線治療の国にし、世界をリードしていくことを目標に掲げる。医師や医療スタッフの働き方改革の促進も期待される。