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半導体産業
AI投資 急成長を読み解く
【執筆】ボストン コンサルティング グループ(BCG) マネージング・ディレクター&シニア・パートナー 小柴 優一
三菱電機を経て2001年にBCG入社。テクノロジー、産業材、自動車産業を中心に、成長戦略の策定・実行支援など多くのプロジェクトを手がける。
半導体市場は空前の勢いで成長している。世界半導体貿易統計(WSTS)は、2026年の世界半導体市場が1・5兆ドルを超えると予測している。この成長をけん引しているのがAI(人工知能)投資であることは間違いないが、その急成長をどう読み解けばよいのか。ここでは、半導体市場の成長メカニズムと、半導体および周辺で進む技術革新を概観したい。
フィジカルAI成長加速
半導体市場は10年ごとにグローバルスケールの新しいアプリケーションが生まれ、それらが重層的に積み上がる「ストック型」の構造で成長してきた。1980―90年代のパソコン、2000年代のモバイル・スマートフォン、10年代のデータセンター(DC)に続き、20年代は生成AIをはじめとするAIの学習・推論需要が市場をけん引している。今後は、ロボットや自動車など現実世界で動くフィジカルAIが積み重なり成長をさらに加速させると考えられる。
ただし、過去の市場成長と今回はパターンが大きく異なる。市場を「数量×単価」で分解すると、過去は主に数量の増加が寄与してきた。一方、AI向け半導体では、従来と比べて桁違いに高い単価が市場を押し上げている。逆に言えば、こうした単価上昇が見込みづらい自動車などのアプリケーションでは、引き続き数量成長への依存度が高く、AIほど急速な市場拡大にはなりにくい。
先端ニッチ市場 日本企業健闘
AI向け半導体は性能向上への要求が尽きず、最先端ロジック、メモリー、パッケージ、通信、電力の各領域で技術革新を同時に促している。ロジックでは回路線幅2ナノメートル世代が量産段階に入りつつあり、トランジスタ構造もFinFET(フィン型電界効果トランジスタ)から、より電流制御が精密なナノシート型GAA(ゲート・オール・アラウンド)へ進化している。
メモリーでは大量のデータを高速に供給するHBM(広帯域メモリー)と呼ばれる多層スタック型DRAMの需要が急拡大し、GPU(画像処理半導体)、CPU(中央演算処理装置)、HBMを高密度に接続するアドバンスドパッケージ(先進後工程)技術も急速に進化している。こうした性能向上に伴い、製造装置やプロセス材料にも継続的な革新が求められ、多数の先端ニッチ市場が拡大している。この領域では、日本企業が重要な供給の要を握る例も少なくない。
地政学リスク対応 供給網強化も
AI半導体を大量に使用するDCでは、データ通信と電力供給が大きなボトルネックになっている。DCにはサーバーを格納するラックが多数並んでいるが、そのラック間では光ファイバー通信の需要が拡大し、ラック内やボードレベルでも高速電気信号によるデータ転送が限界に近づく中、GPUの近傍に光エンジンを統合するCPO(Co—Packaged Optics)の技術が浸透し始めている。また電力インフラへの投資も加速しており、電力を効率的に使うための冷却技術や、SiC(炭化ケイ素)などエネルギー効率の高いパワー半導体の採用も広がっている。
一方で、先端半導体を支えるサプライチェーン(供給網)はグローバルに広がり、網の目のように入り組んでいるため、地政学リスクの影響も受けやすい。例えば、ホルムズ海峡の封鎖を受け、いずれも半導体製造に不可欠な素材であるナフサやヘリウムの供給不足が懸念された。微細加工、材料、ガス、装置、物流のいずれかが滞っても供給に影響が出るため、供給網の強靱(きょうじん)性も重要な論点となる。
自社技術の位置付けがカギ
こうした技術革新の波は、自動車、産業機械、ロボットなどにも徐々に波及している。特に自動車市場における電気自動車(EV)市場は足元で減速感があるものの、将来的なSDV(ソフトウエア定義車両)化に伴い、車両のE/Eアーキテクチャー(電気・電子システム構造)がAIシステムに近い構成へ進化していくと考えられる。パワー半導体についても、SiCやGaN(窒化ガリウム)など新しい材料への需要が加速する可能性が高い。
半導体は常に進化し続けている。短期的にはシリコンサイクルと呼ばれる需給のアップダウンを伴うものの、計算需要、データ量、電力効率への要求は中長期で増え続ける。日本企業にとっても、最先端ロジック、メモリー、材料、基板、実装、光通信、電力・冷却といった多様な領域で事業機会が広がっている。重要なのは、個別部材の強みにとどまらず、AI時代の半導体エコシステム全体の中で、自社の技術をどこに位置付けるかを見極めることである。
