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埼玉県西部地区 ビジネス交流セミナー
埼玉産業人クラブ西部支部は川越商工会議所、日刊工業新聞社と「埼玉県西部地区ビジネス交流セミナー」を7月16日に川越市内で開いた。テーマは「経営環境の変化に対応する事業承継のポイント」。埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者の石川峰生氏が基調講演したほか、県内企業3社の社長が企業プレゼンテーションを実施した。会場には企業経営者や支援機関の担当者ら約90人が参加。企業の事業承継について熱心に耳を傾けていた。
パネル討論会
【出席者】
二ノ宮製作所社長 二ノ宮 紀子 氏
サンテックス社長 齊藤 英一郎 氏
野火止製作所社長 川上 広晃 氏
(司会)埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者 石川 峰生 氏
石川氏 事業承継をめぐる課題についてお聞きします。二ノ宮社長が事業を承継した当時は、どのような課題がありましたか。バトンを渡す先代に望むことはありますか。
二ノ宮氏 当時は何しろ業績が悪く、小手先の対応ではどうにもならない状況だった。社員も浮足立っていたので、まずはこれから目指す方向をビジョンとして示し、課題を皆で出し合った。そうした課題を一つずつ解決していく中で、皆の力が一つになった。先代に望むのは、元気で側にいてくれることだ。渡すと決めたら早くバトンを渡して、その後も元気で側にいてくれればいい。ただし、事業には口をはさまないでもらいたい。
齊藤氏 事業を承継した時に、先代の兄弟4人がこの会社にいたので、これらの叔父(伯父)といかにうまくやっていくかが課題だった。続いて入社した義理の姉や弟とも、けんかをしないよう心がけた。叔父(伯父)らの元にあった株式の集約にも十数年の年月がかかり、大変苦労した。
川上氏 わが社も赤字のどん底だった。そこで率先して営業にいそしんだところ、従業員もそんな姿を見て付いてきてくれた。兄がもともとこの会社に勤めていて、私は兄の誘いで入社した。父亡き後に弟が入社し、その父との意見の対立が元で一度は会社を辞めた兄もその後戻ってきて、3兄弟がそろった。この過程で次男の私が社長を継ぐことになったが、私が社長としての行動を実践する中で兄も、私に任せていいかなという気持ちへ徐々に変わっていったようだ。
石川氏 自身の考えをしっかり示し、自ら率先して動くことで、従業員や親族らの理解を得ることが重要だと感じました。続いて承継後の取り組みについてお聞きします。
齊藤氏 サンテックスは一般建設業の許可を、2020年に取得した。1965年の創業から10年間は、機械工具の販売業を営んでいたが、当時は埼玉県内に多くの同業者がひしめき、このままだと厳しいと判断して75年頃に工場自動化(FA)・制御機器の取り扱いを始めた。さらにわが社の顧客は半数がエンジニアリング会社や装置メーカー、残る半数がそのユーザーである製造業者という構成なので、わが社は両者の間に入って、製品を供給できる立場にある。一般建設業の資格を得たのは、このような仕事をするためだ。
川上氏 長いスパンで目標を達成して報酬につなげるため、目標管理の仕組みを今年導入した。会社の目標に沿って従業員個々の目標を設定し、結果を報酬に反映させる。目標達成に向けて、努力を積み重ねてくれるだろうと期待している。水にかかわる新規事業を始めたことも、大きな一歩だ。下請けからの脱却に、従業員一人一人が当事者意識を持って取り組み、時代に合ったビジネスとして発展させていきたい。
二ノ宮氏 お客さまを変え、より付加価値が高い仕事をしようと苦心し、失敗もたくさん経験する中で、同じ金属の筐体(きょうたい)でも、需要家の業界によって対価が2倍にも3倍にもなることに気づいた。この点を踏まえて、自分たちの得意分野を見つけようと努力を重ねたことが、今につながったと思う。ただ、失敗ばかりだと社員が萎縮してしまい、仕事の面白みも薄れるので「失敗おめでとう」とエールを送り、その経験を次に生かすよう促している。今も宇宙線を検出する装置など、いろいろな仕事に楽しみながら挑戦している。
石川氏 これまでの取り組みを、次の事業承継も視野に入れて、どう発展させていくお考えですか。
川上氏 まだ社長に就任したばかりでイメージしづらいが、実子が継ぐとしても、それまでには時間がかかりそうなので、M&A(合併・買収)を含めていろいろな可能性を探る必要があると思う。
齊藤氏 私の場合も実子が会社を継げる年代になるまでは、しばらく時間がかかる。人手不足や国内製造業の縮小が続いている点も踏まえると、場合によってはM&Aを検討せざるを得ないだろう。
二ノ宮氏 先代の血縁者が後継者になった場合、悪気なくわがままや甘えを許してしまいがちだ。社員たちの目は厳しい。そうならぬよう、同じ会社の第三者に、バトンを渡す側と受け取る側の間に入ってもらうことで、ほどよい距離感ができ、互いへの遠慮や礼儀が生まれると思う。会社をきちんと継いでもらうために必要なことだ。
石川氏 事業承継の選択肢に、正解はないと言われます。それぞれ最良の道を、じっくり考えるべきだと思います。最後に事業を承継する側、バトンを渡す側それぞれへのメッセージをお願いします。
二ノ宮氏 先代はなるべく元気なうちに、バトンを渡してあげるのが望ましい。後継者は安心してバトンを受け取れる。ただ、口ははさまず、黙って側にいてあげてほしい。一方で、バトンを受け取った側は、取締役会などで先代にきちんと会社の現状を報告することが大切。会社がどのような状態かが先代にも伝わり、互いへの思いやりも生まれる。
齊藤氏 事業承継は何かと時間がかかる大変な作業だ。引き継ぐなら覚悟した上で、なるべく早くバトンを受け取った方がいい。
川上氏 バトンを受け取るには当然、覚悟が必要だ。会社は自分1人のものではない。従業員の生活がそこにかかっていることを、忘れてはならない。渡す側も会社の情報を、分かりやすくオープンに示す必要がある。そうすれば円滑に進む。
石川氏 事業を引き継ぐ側は覚悟を決め、それを行動で示して、従業員の信任を得る必要があると思います。また、事業承継は渡す方と受け取る方のどちらにとっても、覚悟を決めたら早い方がいいと感じました。さらに渡す側は財務をはじめとする会社の内容を、後継者に明確に示す必要があります。3人の貴重なメッセージを、ぜひ参考にしてもらいたいと思います。
主催者あいさつ/埼玉産業人クラブ西部支部長・川越商工会議所会頭(武州ガス社長) 原 敏成 氏
2024年度の埼玉県西部地区ビジネス交流セミナーでは「事業承継」をテーマに、埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者の石川峰生さまに基調講演をしていただきます。
中小企業庁によると25年までに中小企業や小規模事業者の経営者の約64%、およそ245万人が70歳を超すと見込まれ、このうち127万人が後継者をまだ決めていないそうです。帝国データバンクの調査では、家族や親類を後継者にしようと考えている経営者よりも、非同族を後継者にするつもりの経営者が多いとのことです。
講師の石川さまは事業承継に関する相談に数多く応じてきた経験があり、皆さんの参考になると思います。基調講演に続く企業プレゼンテーションとパネル討論では、埼玉県西部地区で特徴的な取り組みを実践している企業3社の方に登壇していただきます。こちらも身近な事例として参考になるでしょう。本日のセミナーが、有意義なものになることを期待します。