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埼玉県西部地区 ビジネス交流セミナー
埼玉産業人クラブ西部支部は川越商工会議所、日刊工業新聞社と「埼玉県西部地区ビジネス交流セミナー」を7月16日に川越市内で開いた。テーマは「経営環境の変化に対応する事業承継のポイント」。埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者の石川峰生氏が基調講演したほか、県内企業3社の社長が企業プレゼンテーションを実施した。会場には企業経営者や支援機関の担当者ら約90人が参加。企業の事業承継について熱心に耳を傾けていた。
基調講演
埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者 石川 峰生 氏
持続的な成長へ体制構築
企業・法人はうまくやれば事業を永続できるが、経営する社長は生身の人間で必ず誰かに交代しなければならない。事業承継は必ずどの企業にも訪れる経営課題と言える。
事業承継は中小企業が後継者を決めて続けていくこと。社長や従業員の家族、取引先も含めて生活できる状態にすることが大事。社長がいなくなった途端に事業継続の危機になる会社は、後継者をすぐに出せず廃業のリスクにもなりかねない。
事業承継は中小企業や小規模事業者にとって本質的な課題。規模が小さい事業者ほど深刻な問題。地域にとって必要かつ重要な役割を果たしているにもかかわらず、多くの中小企業が課題を抱えている。
事業承継で大事なことが二つある。一つは企業の持続的な成長。もう一つは続ける体制の構築。後継者の確保・育成を後回しにしないことが大切だ。
事業承継に必要な視点は、いつ、誰に、何を、どのように引き継ぐのを整理すること。いつ代わるかは社長以外は決められない。ただ取り組みが早ければさまざまな選択肢を検討できる。遅くなるほど選択の幅は狭まる。経営者が60歳になったら事業承継に向けた準備を始めようと言われている。
後継者を誰に決めるかは、まずは親族、親族にいなれば社内の役員や従業員、次に社外の第三者―の順で検討するのが一般的だ。誰が経営者になるべきかについては、会社を取り巻く利害関係者の満足度を一番高くできる人に引き継ぐことが望ましい。最も会社の価値を上げられる人が良い。事業承継の選択肢に正解はない。選んだ選択肢を正解にしていけば良い。
後継者のやる気を重視
中小企業白書によると後継者の選定理由は「経営者としての自覚・当事者意識を備えていたため」が最多だった。まず本人のやる気を重視する。実務経験や経営者としての知識・スキル習得がそれに続く。また後継者決定企業でも約3割が「後継者の経営能力」が事業承継の際に問題になりそうだと考えており、後継者教育が重要な課題となる。
後継者教育はどんな取り組みが良かったかという調査では、自社事業の技術・ノウハウについての社内教育、同業者への集まりの参加、取引先への顔つなぎ、経営についての社内教育―が多く行われている。後継者の準備期間中の取り組みは、親族内承継の場合、自社事業の技術・ノウハウを学ぶ、自社の経営環境・財務内容の理解、自社の経営に携わり、経営に関する哲学や手法を学ぶなどの回答が多い。取引先との顔合わせ、金融機関とのあいさつ・引き継ぎも重視される。後継者への承継時に苦労した点は、親族内承継では取引先との関係維持、後継者を補佐する人材の確保が多かった。
何を承継するかについては、経営権と事業用資産の承継は必須となる。会社の見えにくい強みの承継は最も重要。経営理念や信用など今まで会社が続けられた一番肝心な部分をしっかり引き継ぐ必要がある。
自社の強みや弱み、機会や脅威、他社との差別化のポイントを整理する。そして自社の強みを生かして弱みを克服し、今後の価値の源泉を整理する。現経営者と後継者が「見える化」と「対話」を通じて知的資産を承継する。これまで会社が継続できた理由と会社の将来像を現経営者と後継者が共有することが求められる。
事業継承計画 1人で作らない
円滑な事業承継を実現するためには五つのステップを経ることが重要となる。第1に必要性に気付く。第2に会社や経営状態の見える化。第3は課題の磨き上げ。第4は事業承継計画の策定。第5は事業承継の実行。社外へ引き継ぐ場合はマッチングを実施してM&A(合併・買収)などを実行する。一番の目的は会社を成長させること。事業承継はあくまで手段となる。
先代から急きょ引き継いだ後継者は、会社の経営理念や会社の沿革、現状について話を直接聞きたかったという声が多い。一方で承継後の先代の過干渉も課題になる。支援機関や専門家を交えることで「親子間の対話」を「大人同士の会話」へ変えていくことが大切になる。
見える化の一つとして事業承継計画を作ることも重要だが、ポイントは1人で作らないこと。今の社長が1人で作っても絵に描いた餅になり、後継者だけが作っても理解を得られない可能性がある。センターでも事業承継計画の策定支援を行っていて3回目まで無料となっている。計画を作って共通認識を持って進めることが重要だ。最大の事業承継対策は企業価値を高める取り組みを普段から行うことだと言える。
創業時は、その時の経営環境に合わせて経営戦略を策定していくが、時の経過とともに、経営環境と経営戦略に乖離が生じていることが多い。経営環境が大きく変化する時代に企業が成長を続けるためには、環境変化に合わせて事業を再構築していくことが必要になる。長年、事業を継続し続けている老舗企業では、多くが「伝統の承継」「技術の承継」など、さまざまな経営資源を承継しながらも環境の変化にしなやかに対応している。後継者教育をはじめとした事業承継対策を進めるに当たっても、事業承継を契機とした経営革新を進めるに当たっても、リスクを許容したり、後継者への信認といった現経営者の役割が非常に重要になる。