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医薬品
新薬最前線 患者に新たな選択肢
製薬各社は革新性の高い医薬品で医療へ貢献する。新薬の実用化に加え、治療の利便性を向上する技術によって患者や家族の負担を軽減する動きも出てきた。希少疾患は治療法が限られることが多く、アンメットメディカルニーズ(未充足の医療ニーズ)が高い領域だ。また、がんは患者数も多く、新たな医薬品の開発が活発だ。新薬の登場は、これまで治療が難しかった疾患に新たな選択肢を提供し、患者へ貢献していく。
アルツハイマー病/週イチ注射 「15秒」
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エーザイの「レケンビアイクリック」
エーザイは、米バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病(AD)治療薬「レケンビ(一般名レカネマブ)」について、2025年10月に皮下注射製剤の「レケンビアイクリック」を米国で発売した。維持療法において週に一度、約15秒で投与でき、在宅での治療も可能となる。従来の点滴による投与は医療機関への通院や投与に約1時間かかるなど患者や家族、医療機関への負担が大きかったが、レケンビアイクリックによって双方の負担軽減が期待される。
さらに、米国では初期投与から皮下注射の使用を可能とする申請が米国食品医薬品局(FDA)に受理され、5月にも審査結果が出る見通しだ。エーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は「いよいよ全ての治療時期をアイクリックで投与できるという体制が間近に迫っている」と強調する。エーザイは日本でも25年11月にレケンビの皮下注射製剤の申請を行っており、治療にかかる負担軽減を通じてAD治療へ貢献する。
今後重要となるのが、ADの診断だ。レケンビによる治療の対象となるかどうかの確認には、陽電子放射断層撮影(PET)検査や脳脊髄液(CSF)検査により、脳内にアミロイドベータ(β)が蓄積していることを調べる必要がある。しかしPET検査は高額で、CFS検査は侵襲性が高いという課題がある。
現在検討が進むのが、血液検査によるAD診断だ。侵襲性が低い血液検査によってアミロイドβ蓄積の状況を予測できれば診断のスピードが上がり、治療の迅速化にもつながる。AD治療はレケンビの登場により、病気の原因に働きかけるという新たなステージへと進んだ。皮下注射製剤や血液による診断支援により、早期発見や早期治療の好循環の実現が可能となる。
希少疾患/未踏領域に新たな治療薬
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武田薬品工業の「リブマーリ」
武田薬品工業は近年、希少疾患領域での新薬開発に力を入れている。同社は25年6月、遺伝性疾患のアラジール症候群(ALGS)と進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)の胆汁うっ滞に伴うそう痒(よう)の治療薬として、「リブマーリ」を発売した。同疾患に伴うそう痒に対する治療薬は日本初で、新たな治療選択肢として期待される。
ALGSは、食物の消化や吸収を助ける「胆汁」の流れが滞って肝臓の中に胆汁がたまり、最終的には進行性の肝機能障害を引き起こす。またPFICは、肝細胞の胆汁を分泌する能力が低下し、肝細胞内に胆汁の蓄積が起こることにより、進行性の肝疾患に至る。どちらも遺伝性の希少疾患で、「小児慢性特定疾病」や「指定難病」に指定されている。これらの疾患に伴う激しいそう痒は、患者の夜間の不眠や生活の質(QOL)低下の原因となっていた。
リブマーリは経口投与が可能な医薬品で、小腸で胆汁の再吸収を行う「回腸胆汁酸トランスポーター(IBAT)」を阻害する。これにより胆汁は肝臓に戻らず排泄され、肝臓での胆汁うっ滞を改善する。
希少疾患領域は、一製品あたりの対象患者数は少ないものの競合品や参入する企業も少なく、またアンメットメディカルニーズが極めて高いという特徴がある。
武田薬品工業は得意とする消化器やがん領域で安定的に成長しながら、遺伝性血管性浮腫(HAE)治療薬「タクザイロ」などを含む希少疾患領域、さらに血漿(けっしょう)分画製剤といった領域を事業の柱と位置づけ、革新的な医薬品の創出や開発に力を注ぐ。
がん領域/胃がん薬 世界で存在感増す
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アステラス製薬の「ビロイ」
アステラス製薬はがん領域において世界市場での存在感を高めている。24年には「ビロイ(一般名ゾルベツキシマブ〈遺伝子組み換え〉)」ががん領域の製品に加わり、主力の抗がん剤「イクスタンジ」や「パドセブ」「ゾスパタ」と並んでグローバルで大きく成長する。
ビロイは、胃がん細胞の表面に発現する膜貫通型たんぱく質「CLDN18・2」を標的とした、世界初の抗体医薬品だ。抗原となるたんぱく質を調べる検査の浸透が進んだことで、売上高も想定を上回り好調に推移している。
アステラス製薬の岡村直樹社長はビロイの成長について「臨床試験では副作用のため使いにくいというイメージを持たれていたが、国内の医療者の取り組みのおかげで薬本来の力が発揮できた。こうしたノウハウをグローバルで共有し、想定以上の成長につながった」と説明する。医師や看護師、薬剤師による緻密な投与管理で投与中止を減らすことが可能となり、より多くの患者の治療に長く使われるようになったことが、ビロイの成長につながった。
アステラス製薬のがん領域事業はこれまで、イクスタンジがけん引してきた。同薬は24年度には9123億円を売り上げ、ピークを迎える。イクスタンジは27年に特許切れが迫る中、ビロイといった次なる製品が成長し、医療に新たな価値をもたらしている。ビロイは現在、膵がんなどを対象とした臨床試験も実施されており、がん領域で大きな存在感を示す製品へと成長が期待される。
