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医薬品
希少疾患-治療に新たな選択肢
新薬の実用化で、これまで治療が難しかった疾患に新たな選択肢が生まれる。希少疾患は治療が限られることが多くアンメットメディカルニーズ(未充足の医療ニーズ)が高い領域だ。また、がんは患者数も多く、新たな医薬品の開発が活発だ。近年は新しいモダリティの医薬品の実用化の動きも出てきた。製薬企業は新薬の開発と世界での実用化を進め、患者への貢献を目指す。
ALS/9年ぶり新薬、進行抑える/自宅で治療ー筋肉注射
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ALS治療薬の「ロゼバラミン」(エーザイ提供)
エーザイは2024年11月、筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬として「ロゼバラミン筋注用25ミリグラム(一般名=メコバラミン)」を発売した。ALSの進行を抑制する。同疾患の新薬が発売されるのは9年ぶりで、患者の新たな治療選択肢として大きな期待が寄せられている。新薬の発売に注目が集まる要因の背景には、進行性で根本的な治療法がないというALSという疾患の難しさがある。
ALSは運動ニューロンの障害により筋萎縮と筋力低下が起きる進行性の難治性神経変性疾患。呼吸筋の麻痺による呼吸不全が主たる死亡原因で、人工呼吸器を装着しなければ発症後約2ー5年以内に死に至る。20年度の日本国内の患者数は約1万人で、指定難病とされる重篤な疾患である一方で原因や発症リスクは明らかになっていない。
徳島大学などが行った医師主導治験では、ロゼバラミンを投与した患者において、疾患の進行抑制が見られた。こうした効果に加えて、治療の利便性向上の面からも期待が大きい。ロゼバラミンは筋肉注射による投与ができるため、自宅での治療が可能となる。エーザイの小川智雄執行役員は「通院による治療は大きな負担となっていた。医療者と患者から『こういう薬を待っていた』という反響が大きい」と話す。
ALSは、現在は根本的な治療が難しい疾患だ。しかし、こうした新しい医薬品によって、少しずつ患者の治療選択肢が広がっている。小川執行役員は「薬だけでなく、患者個人に合った『テーラーメイド』の治療を実現していきたい」と力を込める。神経疾患領域で培ったノウハウで、さらなる貢献を目指す。
新型コロナ/次世代型mRNAワクチン/原薬製造から国産化
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Meiji Seika ファルマの新型コロナワクチン「コスタイベ」
Meiji Seikaファルマ(東京都中央区)は、新型コロナウイルス感染症ワクチン「コスタイベ」の供給を始めた。コスタイベはこれまでのモダリティとは異なる次世代型メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンだ。原薬製造から国産化を実現したワクチンとして期待される一方、新たなワクチンを不安視する声もあり、丁寧な対応で理解を呼びかける。
コスタイベは「レプリコンワクチン」と呼ばれる新しいmRNAワクチン。mRNAに、抗原たんぱく質の配列に加えて複製酵素(レプリカーゼ)が一緒にコードされている。分解されやすいmRNAがレプリカーゼによって複製されることで、従来より少ない接種量で中和抗体が維持される仕組みだ。
革新性の高い技術を持ったレプリコンワクチンだが、「mRNAが体内で増幅し続け、ヒトの遺伝情報に影響を及ぼす」といった情報が拡散され、安全性を不安視する声も上がった。
こうした懸念について、感染症学を専門とする順天堂大学の内藤俊夫教授は「mRNAは複製されるが、15日目にはほとんどなくなるというデータがある」と説明する。
新型コロナワクチンは米ファイザーや米モデルナといった海外製品が早期に実用化し、国産ワクチンの開発は後れを取っていた。小林大吉郎社長は「ワクチン開発の遅れはコロナ禍前よりも大きくなっている。安全保障上の自立性のためにも、ワクチンの国内生産が重要だ」と強調する。Meiji Seikaファルマは開発体制に加えてワクチンを原薬製造から製剤化までを国内で一貫する体制を整備。28年にも足柄事業所(神奈川県小田原市)で製造新棟の稼働を予定しており、コスタイベやさらなるワクチンの開発と安定供給に向け、体制強化を続ける。
小林社長は「ワクチンの選択肢を増やし、市販後も透明性をもってデータを公開していきたい」と強調する。新たなモダリティのワクチンとして世界に先駆けて国内で実用化したコスタイベへの正しい理解を得るため、情報発信の取り組みが続く。
胃がん/疾患進行・死亡25%低減/重点戦略品ー世界に販路
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アステラス製薬の胃がん治療薬「ビロイ」
アステラス製薬は24年6月、胃がん治療薬「ビロイ(一般名=ゾルベツキシマブ〈遺伝子組み換え〉)」を日本で発売した。適応症はがん細胞の増殖や転移に関連するたんぱく質「CLDN18・2」が陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がん。臨床試験では、疾患の進行または死亡のリスクを24・9%低減した。同適応症に対してCLDN18・2を標的とした抗体医薬品は世界で初めてで、患者の新たな治療選択肢となりそうだ。
胃がんの初期ステージの症状は他の一般的な胃関連疾患の症状と似ているため、早期の診断が難しい。胃がんは日本で3番目に死亡率の高いがんで、22年は12万6724人が診断された。がんが他の組織や臓器に広がった転移期の患者の5年相対生存率は6・6%で、アンメットメディカルニーズの高いがんとなっている。
アステラス製薬は長年、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の大きな成長とともにがん領域の事業を拡大させてきたが、特許期間満了が迫る。パテントクリフ(特許の崖)を乗り越える持続的な成長を図るため、ビロイは世界に販売地域を広げる重点戦略品として開発が進められてきた医薬品だ。日本において世界で初めて承認取得した後、欧州や米国、中国でも承認を取得しており、さらなる市場拡大が期待される。