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医薬品(2024年2月)
創薬力の強化や新たな感染症に備えた対応など、オールジャパンの取り組みが始動しつつある。イノベーションの原動力となる創薬エコシステムの構築に向けた民間の動きに歩調を合わせ、政府も成長戦略として推進すべく施策検討を急ぐ。世界有数の創薬国、世界一の病床大国である日本がその優位性を最大限に発揮し、国民が享受できる環境整備へ新たな潮流が生まれつつある。
疾患啓発・安定供給への取り組み
医薬品メーカーは国内の医療を支えるため、さまざまな挑戦を続ける。医療に欠かすことができない医薬品だが、近年は供給不安の課題が浮上する。また、希少疾患や小児患者を対象とした治療薬は限られており、治療選択肢をいかに提供するかも解決が求められる。医療を安心して受けられる体制を構築するため、製薬企業は疾患の啓発や医薬品の開発、また安定した製造体制の構築に取り組む。
抗菌剤―安定供給体制 構築急ぐ/原薬 国産化、岐阜に製造拠点
MeijiSeikaファルマ(東京都中央区、小林大吉郎社長)は、抗菌剤の国内生産に挑む。ペニシリン系抗生物質の出発原料「6―APA」について、同社岐阜工場において2025年にも国内で大量生産できる体制を構築する。大量生産が可能な設備に加え、生産効率化の技術導入に取り組むなど、抗菌剤の国産製造拠点として生まれ変わる。
MeijiSeikaファルマの岐阜工場は現在抗菌剤の生産拠点として稼働しているが、1994年までは6―APAを生産していた。しかし、海外の安価な原薬や製品の流通で国産製品の収益性は低下し、抗菌剤生産や開発は衰退した。
医療に欠かすことができない抗菌剤だが、現在は原薬のほぼ100%を中国からの輸入に依存している。
経済安全保障の観点からも国内で抗菌剤を製造できる体制構築が急務だ。政府も抗菌剤を特定重要物資に指定するなど見直しを進める。
MeijiSeikaファルマの新たな計画では、既存の設備や当時の技術者のノウハウを生かしつつ、数百億円規模を投じて、最大で国内消費量を賄える規模の6―APA生産能力構築を目指す。人工知能(AI)やゲノム解析といった手法の活用に加え、新たな解析技術の開発にも乗り出すなど、より高効率な生産体制を作り上げる。
政府による制度見直しに加え、企業の技術開発や投資で抗菌剤の原薬の国産化に取り組み、抗菌剤の安定供給の実現を目指す。
小児患者―より患者に合った治療/子どもの学校生活 有意義に
杏林製薬は過活動膀胱(ぼうこう)治療薬「ベオーバ」について、小児を対象とした臨床試験を進める。過活動膀胱とは、昼間の尿失禁や我慢できないほどの強い尿意といった症状が見られる疾患。小児では15―20%に症状があるとされる。しかし、国内では小児への適応がある医薬品はないのが現状だ。治療選択肢を増やし、より患者に合った治療ができるよう開発に取り組む。
小児の過活動膀胱の治療には、決まった時間にトイレへ行くことや、膀胱の過剰な収縮を抑える「抗コリン薬」の使用が治療のガイドラインに示されている。しかし抗コリン薬は小児の適応はなく、また使用した場合も患者によっては便秘の副作用が起きることがある。過活動膀胱の原因の一つに便秘による膀胱の圧迫があり、患者によっては抗コリン薬による治療が合わない場合もある。
杏林製薬が小児を対象に開発を進めるベオーバは、膀胱に尿をためる機能を改善する作用を持つ。現在、安全性を確認する第1相臨床試験を実施中だ。開発部の野村貴久課長は「臨床試験の参加基準を満たす患者を集めるのは簡単ではない。小児を対象とした試験は難しいチャレンジだが、小児患者のためにしっかりエビデンスを構築したい」と強調する。
強い尿意や尿失禁は、子どもの学校生活に大きな不安をもたらす。受けられる治療の選択肢が増えることで小児の過活動膀胱患者の生活の質(QOL)改善が期待され、有意義な学校生活を送ることにもつながる。
疾患啓発―周囲のサポート体制重要/治療の継続・社会生活維持カギ
英製薬企業グラクソスミスクラインは全身性エリテマトーデス(SLE)の疾患啓発に力を入れる。市民公開講座を開き、ライフステージごとに疾患とどう向き合っていくかについて疾患への理解を呼びかける。
SLEとは、免疫機能の異常により起こる自己免疫性疾患の一種で、顔にチョウのような形の湿疹ができるなど皮膚に特徴的な病変が起きる。他にも発熱や倦怠(けんたい)感、また関節の痛みなど多様な症状のほか、身体に自覚しにくい影響があらわれることがある。SLEは完治が難しく治療が長期化するため、進学や就労、妊娠や出産などのライフイベントに影響を及ぼすことも多いという。
例えば、18歳未満で発症する「思春期SLE」では、疲労や抑うつといった症状や、薬との付き合い方、日常生活や将来への不安、家族や友人などの関係に苦悩を抱くという。こうした不安にいかに向き合っていくがが重要だ。鹿児島大学の武井修治名誉教授は「思春期は心身共に著しい成長の時期。患者に対して、治療の継続と社会生活維持へのサポートが重要だ」と訴える。
また妊娠・出産を希望する患者は、治療や薬を調整するといった準備が必要となる。胎児への影響や合併症のリスクを減らすために時間をかけて薬を変更することで、より安全な妊娠と出産を目指す。またパートナーも一緒に医師の話を聞くことで理解を深め、周囲のサポート体制を築くことも重要だ。
治療が難しいSLEだが、疾患啓発を通じ、患者だけでなく家族や周囲の人も理解を深め、病気と向き合って行くことがQOL向上につながる。