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医薬品(2024年2月)
創薬力の強化や新たな感染症に備えた対応など、オールジャパンの取り組みが始動しつつある。イノベーションの原動力となる創薬エコシステムの構築に向けた民間の動きに歩調を合わせ、政府も成長戦略として推進すべく施策検討を急ぐ。世界有数の創薬国、世界一の病床大国である日本がその優位性を最大限に発揮し、国民が享受できる環境整備へ新たな潮流が生まれつつある。
創薬エコシステム
スタートアップ成長後押し
2023年末。首相官邸で開かれた「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」。村井英樹官房副長官が座長を務め、研究者や製薬企業幹部らが出席した。国民の医薬品へのアクセス確保や、国の創薬力強化に向けた方策を議論する。
日本は世界屈指の新薬創出国とされる一方で、近年の創薬スタイルは世界的に変化を遂げている。新薬のモダリティ(製造する際の基盤技術)は低分子から抗体医療・核酸医薬などに移行し、この結果、創薬スタイルもかつてのように自社で全て完結するビジネスモデルに替わり、開発早期から複数のプレーヤーと連携する「創薬エコシステム」に軸足が置かれつつある。こうした潮流を捉え、日本は強みである低分子の創薬力を維持しつつ、新たなモダリティの創薬力を早急に育成することが求められている。
創薬エコシステムは、すでに米国シリコンバレーや英国ロンドンなどで成果を上げつつあるが日本ではこれからで、市場の特性や産業集積の実情を踏まえ、実現に向けて国も施策検討を加速させる。
厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」も創薬力の強化策として、創薬エコシステムの構築を掲げる。武見敬三厚労相は、とりわけこの課題に大きな関心を示しており、23年秋の大臣就任直後の日刊工業新聞社などとのインタビューでは、日本の創薬力強化へ向けスタートアップの成長を後押しするエコシステムの構築を重視する意向を表明。革新的な医薬品の研究開発を行うスタートアップをアカデミアや行政、投資家、大企業が連携して支える環境整備を通じて、国際競争力の向上につなげる考えを示した。
年明けからは厚労省でヘルスケア分野のスタートアップの支援策の検討も始まった。医療DX(デジタル変革)や医療機器などの分野で、世界を舞台に活躍する企業を輩出することを目指す。
開発投資循環、確立急ぐ/イノベーション適切に評価
創薬エコシステムの機能を発揮するには、日本が世界中から技術や人的資源、資本を呼び込める魅力的な市場であることが欠かせない。それにはイノベーションの成果が適切に評価されることが前提となる。海外で使用されている薬が日本で入手できない「ドラッグ・ロス」は、国民の医薬品へのアクセス確保に直結する喫緊の課題である。
厚労相の諮問機関である中央社会保険医療協議会の部会では、ドラッグ・ロスに陥っている医薬品は86品目としている。うち39品目は日本ではその病気に関する既存薬がないことが報告された。24年度薬価改定は一定のイノベーション評価がなされ、「ドラッグ・ロス」「ドラッグ・ラグ(遅延)」の解消の一歩として進展が見られたが、取り組みはなお途上にある。開発投資を早期に回収し、得られた収益を中長期的な視点で再投資に充てる―。こうした循環を生み出す土壌を整え、革新的新薬への患者アクセス向上につながることが期待される。
「日本版CDC」設立準備/新たな感染症に備え
国内で新型コロナウイルスの感染が初めて確認されてから1月で4年が経過した。感染症法上の位置づけは5類に変更され、季節性インフルエンザなど他の感染症と同様の扱いに移行。国は患者や医療機関への公費での支援を縮小し、社会経済はかつての姿を取り戻しつつある。だが、感染の脅威が消えたわけではない。新型コロナウイルスは次々と変化を繰り返しながら流行を続け、現在は、オミクロン株の1種で「JN.1」と呼ばれる変異ウイルスが世界的に増加している。
コロナ禍は世界一の病床大国である日本でも医療が逼迫(ひっぱく)し、国産ワクチンの投入も遅れるといった構造的な課題も浮き彫りにした。これら教訓を踏まえ、新たな感染症の流行に備え、対応の司令塔となる専門家組織の設立準備も進む。米疾病対策センターCDCをモデルにした「日本版CDC」である。
1月末、「国立健康危機管理研究機構」の準備委員会の初会合が開かれた。同組織は「国立国際医療研究センター」と「国立感染症研究所」を統合し、25年度以降の設立を目指している。感染症への迅速な初動対応に加え、ワクチンや治療薬の早期開発につなげる狙いだ。平時・有事を問わず指揮命令系統の一貫性が図られた組織体系の設計や、国内外の組織とのネットワーク構築のあり方について検討を進めることにしている。