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オシロスコープ
高機能モデル 続々投入
オシロスコープは産業のマザーツールの一つで「見えない電気信号」を観察し、電気信号の時間的な変化を波形表示する基本の電気測定器。自動車・車載、大学などの教育機関での研究や実験、授業などで、オシロは幅広く活用されている。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向けてパワーエレクトロニクス市場などで注目される。
新幹線 N700S 小型・軽量化
オシロスコープは広帯域化や波形の視認性、操作性の向上が図られ、ノイズに埋もれた信号や、たまにしか発生しない間歇(かんけつ)的な信号を捕捉するなど、エレクトロニクス産業の発展とともに進化している。特に省エネルギーに貢献する高効率なモーターやインバーターの開発が、オシロ需要をけん引している。
炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのパワー半導体、これらを搭載したインバーターをはじめとする電力変換・電源回路において、デバイスのON/OFFスイッチングの実動作信号の詳細な波形観測や高度な解析要求が高まっている。
パワー半導体はエレクトロニクス化が進む電動車(xEV)分野だけでなく、東海道新幹線の新型車両N700Sでは床下の駆動システム(コンバーター・インバーター)に採用され、小型・軽量化を実現している。
三相インバーターでは、電圧と電流を同時に計測するには六つの入力チャンネル(6チャンネル)が必要とされる。センサーやノイズなどの信号も計測するとなると多くのチャンネルが必要。また、インバーターには上部(ハイサイド)と下部(ローサイド)にそれぞれ3個(合計6個)のパワー半導体(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ、IGBT)が内蔵されており、これらのゲート信号を同時に計測のできるオシロが求められている。
汎用オシロ 根強い需要
こうした背景の中、主要メーカーは多チャンネル化を図り8チャンネルのオシロを投入し、パワー半導体などの研究や開発を支えている。特にこれらオシロには、12ビットADコンバーター(アナログデジタル変換器)が搭載され、垂直軸で12ビットの高い分解能を実現。垂直分解能は8ビットオシロと比べて、約16倍となる解像度で微少な信号変化を詳細に表示する。
オシロはこれまでも、デジタル信号のプロトコル解析が可能なミックスド・シグナル・オシロ(MSO)や、高周波(RF)計測機能、信号発生機能の内蔵や独自ASIC(特定用途向けIC)の搭載、中央演算処理装置(CPU)の高性能化に伴う操作性向上など、高機能化したモデルが投入されている。
一方で、4チャンネルの汎用オシロの用途は幅広く、計測目的に合わせたユーザーから引き合いが高まっている。岩崎通信機は8チャンネルオシロだけでなく、2024年度は4チャンネルの汎用的なオシロも需要が高まり「研究開発や生産、学校教育など幅広い需要があった。シンプルな操作性と波形を観測するというニーズがけん引した」と分析する。
USBを介してパソコン(PC)で計測するPCベースなどが投入され、フィールドでの測定や研究開発、学校の授業で活躍している。PCベースオシロについて東洋計測器(東京都千代田区)は「開発や設計の環境と相性が高い。サンプリングオシロといった広帯域を計測できるニーズがあり、コストメリットだけでない需要がある」と強調する。
国内堅調 101億円 25年度販売1・8%増
こうした中、日本電気計測器工業会(JEMIMA)によると24年度のオシロの国内売り上げは前年度比2・3%増の99億円を見込み、25年度は24年度見込み比1・8%増の101億円を予想する。オシロの成長ドライバーであるパワエレやxEVの開発投資の継続、脱炭素化に向けた技術開発でオシロなどの計測器の需要が伸長すると見通す。
オリックス・レンテック(東京都品川区)は「パワエレ分野における開発は継続する」と見込み、パワエレ需要の取り込みに注力する。マックシステムズ(名古屋市中区)は「xEVはバッテリー充電システムやモーター制御など複雑な電子回路が搭載され、高精度で耐久性のあるオシロやプローブの要求が高まっている」という。
また、JEMIMAは28年度のオシロ国内売り上げを106億円と捉え、緩やかながら100億円規模を維持するとしている。
岩崎通信機はSiCやGaN、インバーター、モーターにおけるエネルギー効率改善に向けた開発は活発として、詳細な波形の観測と解析に最適な垂直分解能12ビット・8チャンネルオシロの提案を強める。
ローデ・シュワルツ・ジャパンの24年オシロの売り上げは前年比30%を超える伸び率を示した。25年はパワエレ関連の開拓に加え 強みの通信分野では車載イーサネットの解析市場を狙う。
リゴルジャパンは、垂直分解能12ビット・8チャンネルオシロを24年に発売し、パワエレ分野における波形観測ニーズの取り込みを図る。また、初夏にはハイエンドの4チャンネルモデルの投入を予定しており、レーザー分野へ提案する。
PCベースのピコテクノロジー(PicoTechnology)は、高周波計測の需要により、サンプリングオシロが好調に推移。特にレーザーや量子コンピューター関連のRF計測のニーズがけん引している。
プローブ/パワー半導体 計測の主役
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パワエレではプローブが主役に(半導体の国内最大級展示会「セミコンジャパン」=2024年12月)
エンジニアが要求する信号を正しく測定するには、「プローブ」や「オシロスコープと測定ポイントの接続(プロービング)」が重要な要素となる。オシロとプローブは計測における両輪として欠かせないツールとなっている。
SiCやGaNなどは、大容量・大電流化が加速しており、光絶縁(アイソレーション)プローブなどが求められている。SiCやGaNにおいてスイッチングの信号測定にはオシロのチャンネル数、高分解能といった性能や機能に加え、広帯域・高電圧差動信号を正確に計測する必要がある。
岩崎通信機は「プローブはパワーエレクトロニクス分野では、測定器の主役になっている」と強調する。
同社は光電流センサー「OpECS(オペックス)」を、24年4月下旬に発売。基板実装されたパワー半導体のボンディングワイヤなどの信号計測ができ、動線を切断することなく電流を計測する。
ローデ・シュワルツ・ジャパンは、温度安定度に優れた光絶縁プローブ「R&S RT―ZISO」を提案している。長時間の計測でも安定した計測が可能で、パワエレ分野のエンジニアから関心を集めている。イベントやセミナーを通じて、さらなる訴求を展開する。
リゴルジャパンは垂直分解能12ビット・8チャンネルオシロの発売と同時に、最大周波数帯域が1ギガヘルツの光絶縁プローブ「PIA1000シリーズ」をラインアップした。コストメリットを生かし、パワー半導体などパワエレ分野にオシロとともにPRする。
こうした主要メーカーの動きに比例して、販売商社では日本電計が「24年度はパワエレ分野で光絶縁プローブの需要がみられた」と言う。国華電機(大阪市北区)は「プローブの先端までが重要な測定器。ユーザーニーズに合わせたプローブのサポートを行う」としている。
九州計測器(福岡市博多区)は「24年は主要メーカーから光絶縁や光センサーが投入され、ユーザーからの問い合わせが増加している」と話す。