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大分県座談会2025
「新生・シリコンアイランド九州」の発展に向けて、いよいよ半導体生産を通じたサプライチェーン(供給網)の活性化が動き出す。熊本県菊陽町に進出した半導体受託製造(ファウンドリー)の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の第1工場が2024年末に量産を開始した。第2工場は27年末の稼働を目指しており、その経済波及効果は域内外の投資活動意欲を高めている。大分県も半導体関連産業が集積、振興策に力を入れている。そこで今回、佐藤知事をはじめ九州の半導体関連産業をけん引する代表や識者などによる座談会を開き、意見交換してもらった。
産業発展への提言/未来へつなぐイノベーション 重要
半導体関連産業を振興
―大分県、ならびに九州の半導体関連産業を、さらに発展させていくための、あるべき姿や提言をいただきます。
鈴木 半導体産業の振興を九州全体で考える際には、大分県の強みは何かをしっかり考えることが大事だと思います。少子高齢化の進展により、今後九州全体の人口は、さらに減少していくことが予測されています。半導体産業を振興することで、その下支えができればと考えています。
オール九州でエコシステム構築
九州は県境を越えた横の連携が非常に強い地域です。九州半導体人材育成等コンソーシアムは、新生・シリコンアイランド九州の構築に向けて、産学官が一体となって人材の確保・育成に取り組みます。サプライチェーンの強靱化は、九州半導体・デジタルイノベーション協議会(シーク)が中心的な役割を果たしています。まさに「オール九州」で、地域全体の効率と競争力を高めています。
またシークが推進するデジタル産業はバリューチェーンを構築するエコシステムの形成を目指しています。例えば各地域の道路網や大分港をはじめとする港湾、さらに空港などを有機的に連携させた効率的な物流インフラの構築に向けた検討を進めています。九州のどの地域に立地しても、また九州内のどこから物流が流入しても、大分県内だけでなく、九州全域、さらには日本全域に自社製品をタイムリーに届ける体制づくりを考えています。
佐藤 鈴木社長から紹介いただいた大分港は九州の一番東側にあり瀬戸内海の結節点です。四国にも半導体関連企業は立地しています。将来九州と本州を結ぶルートに「豊予海峡ルート」が加われれば関西や中国、四国地方との人流・物流が拡大します。同時に中九州横断道路で熊本県までつながる“半導体の道”ができれは、企業活動にとって大きなメリットになると思います。引き続き国や関係機関などへ働きかけていきます。
また人材育成については、これからは海外からエンジニアなどが増えてくると思います。インターナショナルスクールの整備と一緒に、これからの教育の在り方を考える必要があります。一方で生活面を支えるコミュニティーも大事です。本県は温泉観光地や豊かな自然、食も含めて住みやすい環境が特徴です。国内ではビジネスができる移住先としても選ばれており、余暇やレジャーを楽しむ環境があることを発信して国内外からの投資を呼び込みたいと思います。特に地元企業は人材不足なだけに、もっとAPU学生の活躍の場もつくりたいです。
学生就職、地元企業へ定着を促進
―今後九州内外の半導体関連企業でAPU学生が活躍する姿が期待されます。
立命館アジア太平洋大学学長
米山 裕 氏
米山 APUの学生は日本でもっと学びたいと思っており、日本企業に就職を希望する学生が多いです。これまで情報量が多い東京の企業に就職するケースが見受けられましたが、就業体験とか企業訪問を経験して九州企業の魅力がわかれば地元定着が進むのではないか、と思います。国際学生たちも九州・大分に対する愛着はあります。半導体産業に注目が集まるこの機会に、ぜひ皆さんと連携して人材を育てていきたいと思います。
またAPUでは2000年の開学以来、台湾から800人近い学生を受け入れています。08年には台湾校友会を設置。登録者数は約350人です。APUの1期生は40歳代半ばになっており、台湾経済界の中心で活躍する層も増えています。APUのこうしたネットワークを活用し半導体をはじめとした大分県の経済ともつながる機会を創っていけると考えています。
以前、TSMCと陽明交通大を訪問した際も、TSMCでブリーフィングした担当社員はAPUの卒業生でした。そうした人的ネットワークも生かしていきたいです。
一方、佐藤知事からお話があったインターナショナルスクールについては、具体的な検討が進むことを期待しています。初等中等教育の国際化は可能な限り取り組みたいです。学校法人立命館が所有するノウハウを生かせると思います。
リーダーシップの発揮を期待
―シーク会長としてはどうですか。
九州半導体・デジタルイノベーション協議会会長(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング社長)
山口 宜洋 氏
山口 鈴木社長にシークの活動を紹介いただきましたが、改めてバリューチェーンを持続的にどう成長させていくかが一番大事だと思います。大分県LSIクラスター形成推進会議をモデルケースとして、各地でそういった半導体を中心とするクラスターを形成。そのネットワークで九州全体のグランドデザインが描ければいいと考えています。大分県にはぜひ、リーダーシップを発揮していただきたいです。
あわせて地域に半導体産業が根付くもう一つのポイントは、環境保全だと思います。我々は半導体をつくっていますが、半導体を活用したソリューションの出口戦略は、カーボンニュートラルを実現するグリーンイノベーションです。今後成長が期待できるマーケットだと思いますので、環境保全で広がる輪をエコシステムにつなげていきたいと思います。
世界からニーズのくみ上げを
岡野 九州は半世紀にわたりシリコンアイランドとして半導体の生産拠点化を進めてきました。その過程で徐々に産業の幅が広がるとともにけん引するアンカー企業も重層化しました。研究開発機能や事業所の権限も高まり、九州のエコシステムは強化されてきたと思います。
そうした中で、大分で形成されている信頼のエコシステムの力をさらに生かすべく、今後はデジタル変革(DX)による企業間のシームレスな分業体制の構築や次世代のビジネス創出、海外ビジネスの強化などに取り組んではいかがかでしょうか。目指すは世界からニーズをくみ上げ、課題解決できるエコシステムの形成だと思います。
安心元気に暮らせる社会づくりを
―半導体のバリューチェーンを持続的にどう成長させていくかには、エコシステムの形成がポイントのようです。最後に知事に感想を伺って締めたいと思います。
将来に向けてさまざまな意見が交換された
佐藤 誰もが安心して元気に活躍して暮らせる社会づくりを目指しています。それにはイノベーションが果たす役割が重要です。今後実用化に入る技術には「空飛ぶクルマ」や米国で実用化している無人タクシーなどがあります。コア技術は全て半導体なだけに、これからも世の中を変えていく半導体が、その役割を果たすため、自治体としても社会実装の場づくりに取り組みます。近い将来、空飛ぶクルマが別府湾の上空を飛ぶ、大分市内を無人タクシーが走る社会を実現するため、今後もエコシステムの一員として責任を果たしていきたいです。
―本日はありがとうございました。