-
業種・地域から探す
続きの記事
大分県座談会2025
「新生・シリコンアイランド九州」の発展に向けて、いよいよ半導体生産を通じたサプライチェーン(供給網)の活性化が動き出す。熊本県菊陽町に進出した半導体受託製造(ファウンドリー)の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の第1工場が2024年末に量産を開始した。第2工場は27年末の稼働を目指しており、その経済波及効果は域内外の投資活動意欲を高めている。大分県も半導体関連産業が集積、振興策に力を入れている。そこで今回、佐藤知事をはじめ九州の半導体関連産業をけん引する代表や識者などによる座談会を開き、意見交換してもらった。
投資を呼び込む課題や方策
人材の確保・育成 地域一丸で取り組み
九州経済調査協会常務理事兼事業開発部長
岡野 秀之 氏
―TSMCの進出以来、九州では半導体関連の大型投資が続いています。九州全域の経済波及効果は2021―30年までの10年間で23兆円規模になるとの推計もあります。大分県内に関連投資を呼び込むための課題や方策について伺います。岡野常務理事から九州の概況を伺えますか。
岡野 21年に政府が示した「半導体・デジタル産業戦略」と半導体産業政策の重点化により九州では200件以上の投資が発生。投資額は6兆円を超えています。デバイス製造のみならず、装置や材料などの幅広い業種で大手企業の新増設が相次ぎ、研究開発拠点や人材育成拠点への投資も進んでいます。
九州・沖縄・山口の地銀13行の連携体「Q―BASS(キューベース)」の情報からも、地場企業の100社程度で、1000億円超の投資を把握しています。投資先は主に装置関連の部材や物流関係、メンテナンス、廃棄物の処理関係といったサポーティング産業などで、裏を返せばサプライチェーンやバリューチェーンがしっかり地域で構築されてきているといえます。
課題は人材の確保と育成です。理系人材だけでなく文系でもいろいろな形で半導体産業にかかわれます。半導体のユーザー側になると社会課題解決に技術を応用できる人材が必要です。そうした点で九州は九州半導体人材育成等コンソーシアムをはじめ、大学や工業高等専門学校、工業高校などが、全国的に見ても積極的に人材育成に取り組んでいます。
産業高度化へTSMCと連携を
一方で大分県の半導体産業をもっと高度化するには、やはりTSMCとの連携が必要です。さきほど大分県の強みでも触れましたが、今後成長する先端パッケージ市場に向けて、FIGやデンケン、日出ハイテックなどの県内企業が次世代サービスなどに挑戦し、幅広い関係者との連携・情報交換に取り組んでいただきたいです。
またデバイス製造のみならず、装置・材料、設計・ツール、デジタルサービス・デジタル機器などユーザー企業の新しいビジネス創出に向けたイノベーションを後押しし、バリューチェーンの強化も大事です。
台湾で企業誘致活動を初開催
―半導体関連の投資について、大分県の現状はいかがですか。
佐藤 県内では22年以降だけでも400億円を超える投資が実行・計画されています。半導体と自動車関連の両方で企業立地が進んでいます。また台湾企業の誘致は24年に、初めて台湾で企業誘致セミナーを行いました。本県の産業集積の魅力や産業用地、中九州横断道路の整備などをPR。工業用地についても台湾の半導体関連企業から進出に関する問い合わせを受けています。
大規模産業用地開発は喫緊の課題です。県内全域で調査を実施。83か所、1102ヘクタールの候補地を市町村が選定しました。大規模候補地には県が一括してインフラの状況や開発コストなどの調査を進めています。それ以外の候補地は市町村が実施する調査や開発にかかる費用を、県が3年間限定で補助率や上限額を引き上げて集中的に支援し、産業用地整備を加速していきます。
次代担う技術人材の育成推進
大分県LSIクラスター形成推進会議
企画委員長(スズキ社長) 鈴木 清己 氏
鈴木 投資を呼び込むには半導体に知見のある技術人材が地元にいることが不可欠です。大分県LSIクラスター形成推進会議では大分大学や高専、工業高校において、次代を担う若い技術人材の育成を進めています。10社を超える半導体関連企業の現役技術者が関連講座の講師を務めています。「学生や教職員の満足度も高く、進路にも好影響を与えている」と学校側から聞いています。
今後は対象とする教育機関を拡大します。小中学生を対象とした実験講座の実施なども積極的に行い、グローバル人材が豊富なAPUと連携を図ります。学び直しでも推進会議設立当初から初任者向け講座を実施するほか、経営者向けなど段階ごとの研修機会も提供してきました。
このほか会員企業の研究開発や災害などへの対応力・回復力も、投資を呼び込む強みになります。推進会議では19年に「災害時における相互協力に関する合意書」を取りまとめ、相互扶助で会員自ら援助を行うように努める体制を整えました。24年には岩手、三重両県と協定を締結し災害時の応援体制をつくりました。
内外ビジネススクールと連携
―グローバル人材の育成について、米山学長に伺います。
米山 APUは世界のビジネススクールと連携しています。現在TSMCをはじめとした台湾の半導体企業の役員などを多く輩出している陽明交通大学と連携を進めており、半導体分野でのマネジメント人材の育成を進めています。
具体的にはAPUのビジネススクールで学ぶ学生・大学院生が一定期間、陽明交通大学に滞在します。陽明交通大学が持つTSMC認定のプログラムのうち、文系学生が受講できるコンテンツを選定。半導体の基礎知識や工程を学ぶプログラム開発を進めています。
一方国内では九州工業大学と国際化を進めています。九工大との連携は文部科学省の「大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業」にも採択。両大学で教育・研究・正課外活動など幅広い分野で連携しながらグローバル人材・技術人材を育成します。
25年度は推進会議の会員企業にご協力いただいて、APUでマネジメントを学んでいる学生向けに「半導体国際ビジネス人材向け実践学習」というプログラムを行います。大学で半導体について基本的な知識を付けた後に、前工程や後工程、原材料、設計システムなどのさまざまな会社を訪問して現地学習させていただきます。
台湾でも台北・新竹・高雄の企業に訪問を計画しています。ますますグローバル化する日本の半導体産業に向けて、グローバル人材を育成するAPUが新たに貢献する道が開け、大学としても発展を期待しています。
供給網強化、九州全体で最適化を
―九州で製造拠点を持つ立場から、山口社長はいかがですか。
山口 当社は、大分県では大分市と国東市に工場があります。ソニーセミコンダクタソリューションズグループは「テクノロジーの力で人に感動を、社会に豊かさをもたらす」ことがミッションです。この達成には理系も文系も関係ありません。多様性のある人材を求めていますので、APUのポテンシャルに期待しています。
同時に工場自体もスマートファクトリー化が進み、求める人材も大きく様変わりしています。それに応じた教育体制も整えているところです。工場運営でもっとも重要な点は、工場を中心としたサプライチェーンの集積です。
ただ実現にはハードルが高いため、九州全体でサプライチェーンをつくる形が理想的だと考えています。半導体は経済規模が問われる産業です。大分県には部材や物流などメーカーが立地しています。九州全体を一つのマーケットとしてとらえ、逆に九州各所から技術を持った企業を大分に呼び込むこともできます。したがって九州全体で物事を考え、企業ごとに最適化を図り、地域課題は産学官が一体となって取り組むことを期待しています。