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非破壊検査・計測・診断技術
原子間力顕微鏡と赤外分光法(AFM—IR)を用いたアスファルトの劣化・再生分析
【執筆】 土木研究所 先端材料資源研究センター 上席研究員 百武 壮
舗装リサイクルの質向上に向け、筆者らは再生アスファルトの健全性を少量・短時間で評価できるナノ観測法を開発した。同観測法の活用により、高品質な再生舗装材の開発が加速し、アスファルト舗装の長寿命化や維持管理の効率化、市民生活の安全・快適性向上が期待される。
アスファルトは道路舗装における骨材の接着剤として用いられ、加熱時には液体、冷却時には固体としてふるまう熱可塑性物質だ。日本では1970年代からアスファルト舗装のリサイクルが進められ、再資源化率は現在も99%以上を維持している。
再生技術の発展により、ポリマーなどを含む高機能舗装材の再利用が進む一方、アスファルトの化学的状態は複雑化しており、その劣化や再生過程の理解が重要課題となっている。
土木研究所ではアスファルトの微細構造と化学的変化を非破壊で観察するため、原子間力顕微鏡と赤外分光を融合した「AFM—IR」を導入した。AFM—IRは試料に赤外線を照射しながらナノスケールで表面の凹凸や官能基分布を同時に可視化できる装置で、微量試料で迅速に物性を把握できる。
測定ではアスファルト特有の「bee構造」と呼ばれるしま状の凹凸が観察され、組成には脂肪族炭化水素やワックス成分が関与していることが判明した。また、劣化したアスファルトでは酸化反応によりカルボニル基が増加し、その分布がbee構造付近に集中している様子が可視化された。
さらに、芳香族系と飽和系の異なる再生用添加剤を用いた再生の模擬試験では、添加剤の種類によりbee構造の大きさや分散状態が変化することが明らかとなった。
芳香族系添加剤がアスファルテンの凝集を抑制し、より均一な構造を形成することが確認された。これまで当研究所が仮説として提唱してきた「アスファルトの良い再生と悪い再生のメカニズム」が世界で初めて実際の現象として視覚的に裏付けられた。
AFM—IRの導入により、アスファルトの劣化・再生過程をナノレベルで定量的に評価できる可能性が開かれた。今後は画像解析による定量化や測定条件の最適化を進め、得られたナノ情報を従来の物理試験と結びつけることで、持続的な舗装リサイクルの高度化を目指す。
