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非破壊検査・計測・診断技術
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超音波を用いたライニング下の剝離腐食検出試験技術
【執筆】非破壊検査 技術本部 安全工学研究所 研究員 半田 さくら
薬品タンクなどでは母材の腐食防止のため機器内部に施工されたライニング(表面処理)の健全性確認が求められる。超音波を用いて効率的に実施できるライニング下の剝離腐食検出試験技術(以下、剝離腐食試験)を紹介する。
化学プラントの薬品タンクや原子力発電所の海水系配管といった腐食性のある流体を扱う機器では、耐食性のあるポリエチレンやゴムなどのライニング材が機器内面に施工されていることが多い。ひとたびライニングが損傷すると、母材の腐食が急激に進行するため、ライニングの異常部を早期に発見することは機器の安全性確保のために非常に重要である。
ライニングの健全性確認は目視検査によって行われているが、検査員が機器に入槽する必要がある。これは酸欠や被液のリスクを伴い、検査費用のほかに機器の開放や内部洗浄といった付帯工事費用がかかるなどのデメリットがあった。
剝離腐食試験は、超音波を多重反射させたエコーを用いてライニングの健全箇所や剝離箇所における超音波の反射特性の違い(音圧反射率)に着目し、機器外側からライニングの健全性を確認する手法である。
一般的な超音波探傷では1-2回程度の底面反射エコーに注目するが、剝離腐食試験では10-30回程度(ライニング材の種類や表面状態などにより異なる)の超音波エコーに注目し、エコーの高さや形状などを元にライニングの状態を判断する。
剝離腐食試験は機器へ入槽する必要がないため安全面に優れ、開放や清掃などの付帯工事費用が削減できるほか、機器の運転停止の必要がないことなど、コスト面においても優れている。
また、剥離箇所にブリスター(ライニングの膨れ)がない場合は目視検査による検出は困難だが、剝離腐食試験はブリスター形成前の層状の剝離箇所も検出可能なため、早期発見に寄与できる。使用機材に関しても、特殊な探傷器や探触子は必要なく、一般的な超音波探傷器で実施することができ、導入に際してハードルが低いこともメリットである。
剝離腐食試験は開発以来多くの現場で適用されており、今後も機器の安全運転の一翼を担うことが期待される。
サブテラヘルツ波によるコンクリート中の鉄筋の可視化、腐食度評価技術
【執筆】芝浦工業大学 建築学部建築学科 教授 工学博士 濱崎 仁
未開の電磁波と言われるギガヘルツからテラヘルツ領域の電磁波を利用したコンクリート中の鉄筋の可視化、腐食度評価技術について、筆者の研究例から紹介する。
テラヘルツ波とは、周波数が0・1テラー10テラヘルツ程度の電磁波で、紙やプラスチックなどの非極性物質に対する透過性が高く、水などの極性物質に対する吸収性が高い特徴がある。また、金属に対しては高い反射性を持つ。
テラヘルツ波の特徴を持ち、コンクリートへの透過性を重視した数ギガー100ギガヘルツ(0・1テラヘルツ)程度の周波数領域の電磁波をサブテラヘルツ波と定義し、その活用方法について研究が進められている。この周波数領域の電磁波は、その波長からミリ波とも呼ばれ、近年では自動車の衝突回避や自動運転のためのセンサーにも用いられている。
コンクリート中の鉄筋の位置やかぶり厚さを推定する技術としては、電磁波レーダー法、電磁誘導法などがあり、実用化・標準化も行われている。
一方で、鉄筋の腐食程度を定量的に評価する方法は、鉄筋をはつり出して質量減少率を測定するしかない。自然電位法や分極抵抗法などの電気化学的手法では、鉄筋の腐食化傾向や腐食速度を推定するにとどまる。
そこで、サブテラヘルツ波の透過性と金属に対する反射性を利用して鉄筋の腐食度を定量的に推定するための研究が進められている。
図はコンクリート中に埋設した腐食度の異なる鉄筋からのサブテラヘルツ波の差分反射強度(反射強度の測定値から表面反射成分を減じたもの)のコンター図である。図中の破線位置が鉄筋位置であり、図の右側ほど鉄筋の腐食量が大きい。
腐食が進行するほど鉄筋からの反射強度が小さくなる。これまで、丸鋼でかぶり厚さ50ミリメートル、異形鉄筋でかぶり厚さ30ミリメートル程度までの腐食度を評価できることが確認されている。
ここで紹介した鉄筋腐食度の評価のほか、コンクリート中の水分や塩化物量により、特定の周波数成分の反射・吸収特性が変化することも確認されており、コンクリート構造物の非破壊・非接触評価の新たな手法として期待される技術である。