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非破壊検査・計測・診断技術
価値ある安全・安心 提供①
非破壊的強度保証に向かう夢
【執筆】島根大学 材料エネルギー学部 学部長 工学博士 三原 毅
非破壊検査(NDI)業界でも人工知能(AI)の活用が検討されているが、現状NDIは多くの部材で強度保証や残存寿命評価につなげる体制にない。経年損傷インフラの長期使用ニーズの増加に合わせ、関係各位で損傷部材の非破壊強度保証に向かうチャンスなのかもしれない。
生成AI、ChatGPT(チャットGPT)が注目され、NDI業界もAIが仕事を変えるのか注目されている。AIは人間の仕事を補助することから利用が始まった。信頼が重要となるNDI分野でも、検査員や評価者の補佐役といった活用が期待されている。
現状の検査をAIにどう教えるか考えた場合、生産ライン、施工、経年部材において、各種NDI技術で検出が求められている〝欠陥サイズ〟に、部材強度の保証につながる合理的根拠がない点が問題となる。
原子力発電部材などでは、破壊力学の設計と非破壊計測で損傷部材の残存寿命や強度を評価できる。しかし、多くの部材では図の通り今もなお材料力学での設計に依存し、施工時や定期検査時などの検査基準も「板厚の3分の1以上の長さ欠陥検出時に部材は交換あるいは補修」といった強度の裏づけのない極めて安全側の評価基準で運用される例がほとんどである。
そのため、実用部材は本来の材料の持つ強度をはるかに下回る条件で使われ、多くの部材は十分な強度を持った状態のまま廃棄される。だが、それでもNDI技術は実機部材の健全性を担保する最後の番人であり、安全側の保守基準と共に重大事故を防止する責務を果たしている。
一方で、現在は経済的に立て直し困難な老朽化インフラが、特に地方で顕在化している。老朽化部材の強度を保証しながらこれらを健全に使い続けるには、破壊力学などによる損傷材の強度評価に加え、信頼性の高い非破壊定量検査法の整備が不可欠だ。
これらの評価技術の実用は一朝一夕では実現できないが、設計者、使用者、検査技術者、自治体が連携して、ゴールを見据えながら検討を始める必要がある。この老朽化インフラの定量的保守では、NDI計測の高い信頼性が必須だ。新技術の研究やAI利用の推進も必要である。
加えて、計測ミスが事故につながる責任は検査技術者が負うこととセットで、社会的ステータスが向上すること、そして社会インフラの延命にNDI業界が不可欠と認知される未来を期待している。
外観検査のAIのための学習データ生成技術
【執筆】中京大学 工学部 教授 工学博士 青木 公也
近年、外観検査の自動化に人工知能(AI)技術が盛んに適用されている。ただし、製造現場でAIの学習に必要な検査画像をいかに準備するかが課題になっている。ここでは質の良い学習データを大量に簡単に生成する方法を紹介する。
図は鋳肌に発生した打痕画像だが、一方は合成画像である。近年、AI技術による外観検査の自動化が精力的に進められている。しかし、AIの運用には事前の学習工程が必要であり、そのことが自動化の阻害要因となり得る。
データセットは「量」も重要だが、開発・テストの時間は有限なため、それ以上に「質」が重要だ。想定される良品・不良品の画像を網羅的にそろえる必要がある。
一般的な画像認識AIにはデータ拡張機能がある。サンプル画像が不足する場合、手に入った画像を基に枚数を水増しする。サンプル画像に対して、幾何学変換やフィルタ処理を施し、新たな画像とする。ただし、不定形の欠陥像を含む検査画像に適用した場合、欠陥・部品の本質的な構造が考慮されていないため、その製造ラインでは撮像され得ない画像が生成される問題がある。
例えば欠陥像のサイズを変更しようと拡大すると、その素地も拡大され、特有の素地模様が本来ではあり得ない状態に変形する。また、鋳肌や鍛造肌は良品でもさまざまであり、これを表現することができない。
これに対して筆者の研究グループでは、検査画像を人工的に合成する手法の研究を続けている。
図はテクスチャー合成を使った手法だ。「テクスチャー」とは、元々は「織物の織り方や質感」という意味だが、ここでは「材料を撮像した画像における表面の様子・特徴」のことを言う。外観検査AIのデータ拡張では、製造現場や工業製品特有の課題に対応する必要がある。
また、新しい製品や製造工程に対して常に学習データセットの更新が必要であり、アノテーション(注意を与える)作業の負荷が大きい。これらの課題に対して、学習データ生成技術は解決策になり得ると考えられる。