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非破壊検査・計測・診断技術
価値ある安全・安心 提供②
非接触アコースティック・エミッション計測手法の開発と回転体の損傷モニタリングへの応用
【執筆】明治大学 理工学部機械工学科 専任教授 工学博士 松尾 卓摩
空中伝搬超音波を用いて、非接触でアコースティック・エミッション(AE)計測が可能な技術とその応用例を紹介する。
AE法は材料内部で発生する割れや剝離などによって放出される弾性波(AE波)を検出することで、損傷の発生や進行をリアルタイムで監視できる非破壊検査手法である。AE法で用いるセンサーは一般的に圧電素子を採用し、検査対象に接触して計測を行う。
しかし、回転軸のような稼働中の機器にはセンサーを設置できないため、軸受けなどの非可動部にセンサーを設置することになる。この場合、損傷発生場所とセンサー設置位置が離れると、AE波が減衰し、微弱なAE信号を計測できない可能性がある。
筆者らのグループでは空中伝搬超音波探触子と信号処理技術を組み合わせ、非接触でAE信号を計測できるシステムを構築した。
空中伝搬超音波探触子は非接触の超音波計測に用いられるセンサーだが、AEセンサーに比べ感度が低いという課題があった。そこで、材料を伝搬するAE波の波長とセンサーの固有振動数を一致させ、感度を向上させる手法を提案した。
また、外乱や計測装置が発するノイズに対して、複数の信号処理技術によるノイズ低減アルゴリズムを用いてリアルタイムで抑制した。これらの技術により、微弱なAE信号を非接触で高感度に計測できる非接触AE計測システムを実現した。
開発したシステムを用いて、アルミニウム合金製の試験片の回転曲げ疲労試験中にAEをモニタリングした結果、軸受け部に設置したAEセンサーと市販のAE計測装置の組み合わせでは計測できなかったAE信号の検出に成功した。また、開発したシステムで検出されたAE波を解析することで、AEの発生メカニズムやAEで疲労モニタリングが可能な条件を推定することができた。
今後は、検出したAE信号を機械学習によって自動分類する手法を開発し、解析を簡便化する。また、開発したシステムを用いてセンサー設置が困難な条件でのAE計測、飛行ロボット(ドローン)との併用による遠隔AE計測が可能なシステムの開発にも応用する予定だ。
脱炭素社会に向けたアコースティック・エミッション モニタリングの勧め
【執筆】IHI検査計測 研究開発センター フェロー 工学博士 中村 英之
脱炭素社会への変革が進む中、水素やアンモニア関連設備の保全管理におけるアコースティック・エミッション(AE)モニタリングの活用を提案する。
AE試験は損傷や変形の進展に伴い試験対象となる構造物自身から発するAE波(超音波の一種)を計測し、検出されたAE波の特徴、頻度、発生位置などに基づき、試験対象の健全性を評価する技術である。
AE試験は試験対象にAEセンサーを取り付けた後にセンサーを走査する必要がない。計測システムをインターネットに接続することにより、遠隔でのデータ収集や構造物の状態監視などを可能とする。
25年前、米国ではアンモニアタンクにAEセンサーを取り付け、遠隔による状態監視を行い、対象タンクに異常が検知されるとタンクユーザーに通知するモニタリングサービスの会社が設立されている。
一方、現在の日本では脱炭素社会が進む中で、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素やアンモニアを燃料とする発電設備の建設が進められている。水素やアンモニアは万が一、漏洩事故が発生すると爆発や有毒ガス発生の危険があるため、貯蔵設備の大型化に伴い、より安全に配慮した設備の運用と保全管理が必要とされる。
日本では、許容するキズ寸法から検出基準が定められ、定期的な検査により基準を超えるキズがないことで安全を担保するという管理方法が定着している。しかし従来の管理方法では、貯蔵する内容物を移し替えた上で解放検査を実施する必要があり、多大な労力と費用を必要とし、エネルギー単価高騰の要因となる。また近い将来、要員不足から検査員の確保が困難になることも予想される。
これらの課題を解決する方策として、AEによるグローバル診断を行い、構造物全体の損傷リスクを評価した上で、リスクに応じた手当を行うリスクベースの管理方法を提案する。その実現には、関係者が従来の管理手法とは全く異なるグローバル診断の思想を受け入れる柔軟な思考を持つことが肝要となる。