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第55回日本産業技術大賞
日刊工業新聞社主催の「第55回日本産業技術大賞」(審査委員長=松本洋一郎東京大学名誉教授)の受賞4件が決まった。最高位の内閣総理大臣賞には日立製作所の「サステナブルな物流のための配送・倉庫・EV充電の統合計画技術の開発と実用化」が、文部科学大臣賞には川崎重工業の「Kawasaki CO2 Capture(KCC)の開発」が輝いた。審査委員会特別賞には清水建設、産業技術総合研究所の「水素吸蔵合金タンクを用いた都市型オフサイト水素供給システム『Hydro Q―BiC Storage』の開発と実装」と、大林組の「クレーン作業の生産性と安全性向上を支援する次世代運転システム『ORCISM(オーシズム)』」の2件が選定された。日本産業技術大賞は革新的な大型技術、システム技術の開発を奨励するため1972年に創設、わが国の産業社会の発展に貢献した技術成果を毎年表彰している。贈賞式は4月7日11時から東京・大手町の経団連会館で開く。
【審査委員会特別賞】清水建設/産業技術総合研究所/大林組
清水建設、産業技術総合研究所/都市型オフサイト水素供給システム「Hydro Q‐BiC Storage」の開発と実装
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向け、水素エネルギーへの注目度が高まっている。太陽光や風力などの再生可能エネルギーから水素を製造すると、利用時に至るまで二酸化炭素(CO2)を排出しないため、エネルギー消費量が大きい都市部では、再生可能エネルギー由来のグリーン水素の活用が、脱炭素化のカギになるとの期待がある。
水素製造・貯蔵コスト低減 吸蔵・放出速度を向上
期待が高まる一方で、水素の利用拡大に向けては、ハードルが残されている。課題の一つが、水素の製造と貯蔵にかかるコストを低減すること。また製造拠点から需要地である都市部へ、効率的かつ安全に輸送する必要がある。
容器に着目
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タンクに内蔵した水素拡散板
こうした課題を解決するためのツールとして、清水建設と産業技術総合研究所の研究グループが着目したのが容器。吸蔵・放出性能に優れ、コスト低減も図れる水素吸蔵合金タンクを用いた都市型オフサイト水素供給システム「Hydro Q―BiC Storage」の開発に共同で取り組んだ。
2016年から清水建設のビルエネルギー管理システム(BEMS)と、産総研による合金研究の知見との融合に取り組み、水素研究の知見を積み上げてきたとはいえ、タンクの開発は両者とも初めて。開発当初は、「依頼先のメーカーに製作を断られることもあった」(産業技術総合研究所エネルギー・環境領域研究企画室兼再生可能エネルギー研究センター水素エネルギー研究チームの遠藤成輝企画主幹)。
同システムのタンクには、さまざまな創意工夫が盛り込まれている。採用したのは、研究グループが開発し特許を取得したオリジナルの水素吸蔵合金。チタンと鉄を主な構成要素としており、高価なレアアース(希土類)を用いていない。水素吸蔵合金の多くは吸放出を繰り返すことで微粉化し着火するため危険物として扱われるのに対し、研究グループが開発した同合金は微粉化が進みにくいのも特徴。危険物に該当しないことを第三者機関の検査で確認済みだ。
専用の熱源不要
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都心の地域熱供給プラントに導入された「Hydro Q‐BiC Storage」
20―60度Cの温度域で水素の吸放出が可能であり、専用の熱源を必要としない。また水素吸蔵合金に貯蔵された水素は建築基準法上の可燃性ガスとしての貯蔵量制約を受けない。このため都市部の建物への導入が容易となる。タンク内部には水素の吸蔵・放出の反応速度を向上させるため、導通性を高めた水素拡散板を組み込んでいる。タンクに水素を導入する際にこれまで採用していたのは、微細な多数の孔がある専用のフィルター管で、コスト増加の一因だった。
管ではなく面的に水素をタンクに導入する水素拡散板には、空調機器などで不純物を除去する際に使用する汎用品を採用。これによりコストの低減とタンク性能の向上の両立を図った。
また水素吸蔵合金から水素を吸放出するためには冷却・加温が欠かせず、タンク内部は熱交換機能を有する必要がある。汎用品の熱交換器を採用することで従来に比べてコストを抑えつつ、さまざまな大きさのタンクの設計を可能とした。
安定運用支える
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水素吸蔵合金タンク -
タンクの内部
このほか、水素吸蔵を促進する高度な熱管理技術と充填プロセス管理・制御を自動化。新開発の高性能タンクと連携し、2時間以内に充填作業(水素輸送車両の停車→輸送した水素充填容器と建物内水素貯蔵装置間の接続→水素充填→接続取り外し→水素輸送車両退場)を完了させる安全・効率的な急速充填オペレーションも確立している。
すでに都内で2件の地域熱供給プラントに同システムを導入しており、水素混焼ボイラーや燃料電池の安定運用を支えている。このうちの1件では、大型の高性能合金タンク(75ノルマル立方メートル×18本、有効水素量1350ノルマル立方メートル)が導入され、都心建物内で1000ノルマル立方メートルを超える大量の水素貯蔵・活用を実現している。
「外部からの引き合いが増えている」。清水建設技術研究所カーボンニュートラル技術センター再生可能エネルギーグループの山根俊博主任研究員が強調するように、都市部建物でのオフサイト水素(郊外から都市部建物へ輸送した水素)活用に向けたソリューションとして注目が高まっている。
都市部建物における化石燃料依存からの脱却を加速し、CO2排出量削減に直接貢献する同システムは、産業の発展で大きな役割を担いそうだ。安全かつ手軽な水素貯蔵・利用を可能にすることで、建物内での燃料電池や水素ボイラーの活用など従来は困難だった分野で新たな需要が生まれ、水素の製造、輸送、利用にかかわるサプライチェーン(供給網)全体の活性化につながる可能性がある。
水素吸蔵合金やタンク製造、充填設備、運用サービスといった関連技術の開発を後押しする効果も見込まれている。CO2を排出しないグリーン水素を活用した熱製造に対する需要が今後さらに増えていくことが予想されることを見据え、両者は熱供給施設や生産施設への同システムの導入提案に一段と力を注ぎ、カーボンニュートラル社会の実現への寄与を目指す。
大林組/クレーン作業の生産性と安全性向上を支援する次世代運転システム「ORCISM(オーシズム)」
「危険な作業ができないクレーン」―。大林組が開発した「ORCISM(オーシズム)」は、デジタル技術の活用によってクレーン運用上のリスクの未然防止を図るとともに、未熟練者の技能補完にも役立つ運転支援システムだ。
技術・技能伝承
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遠隔操作室でのデジタルツインを用いた自動運転の指示状況
担い手不足や技能者の高齢化が急速に進む建設業界。さまざまな作業で安全性確保や省人化による生産性向上、未熟練者への技術・技能の伝承が重要なテーマとなっている。クレーン作業も例外ではない。複数のクレーンを同時に稼働させることがある建設現場で万が一操作ミスがあった場合、大きな災害につながりかねない。
特に都市部や大規模インフラ工事の現場では、限られたスペースの中でさまざまな種類の装置が同時に運用するケースがある。現場の安全性を確保する上で、「若年層のオペレーターでもミスすることなく、揚重作業ができるような支援技術を開発したい」(大林組東日本ロボティクスセンター運営管理部メカトロニクス課の松野千映氏)との思いがシステム開発に取り組む起点となった。
オーシズムでは、まず施工現場における「人・モノ・作業」の情報を収集。これらをデジタル化した上で、現実空間と同期させたデジタル空間(デジタルツイン)を構築、活用している。
デジタルツイン構築には、最新のセンシング技術を活用してクレーンの位置や動作、つり荷の種類や姿勢など、クレーンと周辺環境をデジタル空間にリアルタイムで正確に再現する必要がある。このため各種の高精度センサーや全球測位衛星システム(GNSS)情報に補正情報を加えるRTK測位方式の採用によりデジタルツインを高精度化した。
オーシズムを構成する技術は三つ。クレーン作業の安全性向上を支援する「クレーンマシンガイダンス」、技能補完と省人化を可能にする「クレーンマシンコントロール」、生産性向上とセキュリティーの確保を担う「クレーンマシンマネジメント」だ。
接触・衝突防止
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周辺マッピングによりリアルタイムでデジタルツイン化
クレーンマシンガイダンスでは、クレーン同士や障害物との衝突防止・越境防止エリアの設定などをデジタルツイン上で可視化できる。これらのエリアの接触を検知した場合、アラートを発することで接触・衝突事故の防止につながる。
デジタルツインには、現実空間の情報をリアルタイムでデジタル空間に反映させることや、デジタル空間上に再現したクレーンモデルの動作を現実空間に反映させる機能がある。クレーンマシンコントロールでこれらの機能を活用することによって、安全性の向上や施工品質の維持、オペレーターの技能補完や省人化といった効果を引き出せる。
またクレーンマシンマネジメントは、稼働状況の可視化、自動点検と故障予測、オペレーター認証、周辺環境のマッピング、施工計画のシミュレーションなど多くの機能を持つ。クレーンの稼働データをリアルタイムで取得し、可視化することで運転状況の監視が容易となり、運用管理を効率化。デジタル化した熟練オペレーターの運転技術の蓄積・分析によって、技能補完技術の高度化につながる。
相互連携が可能
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東日本ロボティクスセンターに設置した実証フィールドのタワークレーンのデジタルツイン -
東日本ロボティクスセンターに設置した実証フィールドのタワークレーン
これらの技術に関しては、単独で運用するだけでなく、「相互に連携させることが可能」(雑賀俊雄東日本ロボティクスセンター施工技術部長)。デジタルツイン上で統合的に管理・制御することにより、デジタルツイン上でクレーンとクレーン周辺の障害物の接近を検知し、フィジカル空間でアラートを発せられる。デジタルツイン上でつり荷の揺れを常時監視し、状況に応じてフィジカル空間でクレーンを減速停止させることも可能だ。
デジタルツインを中核とする統合運用により、これまで数多くの建設現場で運用実績を積み上げてきた。例えば山岳トンネル工事現場のバッチャープラントにおいて天井クレーン作業を自動化しており、累計万回・1万2000時間以上の運転実績を有する。
また「海外でもニーズがある」(同)と話すように、シンガポールの現場では各種センシング技術を使ってデジタルツインを構築。日本国内から現場への遠隔監視サポートを行うことによって、安全性や品質の確保に寄与した。今後は建設業界だけでなく、製造や物流、プラントなどクレーンによる揚重作業がある業界への横展開も期待される。
社内では、オーシズム開発を機に東日本ロボティクスセンター(埼玉県川越市)内に実証フィールドを開設。大型建造物を建設する際に使われる720㌧㍍級と、360㌧㍍級のタワークレーン2基、クレーンの周辺環境をデジタルツインで再現する遠隔操作室を設置している。
建設業界では就業者の減少に伴い、未熟練者が作業に従事する機会の増加が予想され、デジタル技術が担う役割が一段と重要性を帯びている。同社は実証フィールドを活用しながら、クレーン作業に関する安全性向上、省人化、技能補完や生産性向上に向けた技術開発に取り組み、完成度をさらに高めていく考えだ。
