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第55回日本産業技術大賞
日刊工業新聞社主催の「第55回日本産業技術大賞」(審査委員長=松本洋一郎東京大学名誉教授)の受賞4件が決まった。最高位の内閣総理大臣賞には日立製作所の「サステナブルな物流のための配送・倉庫・EV充電の統合計画技術の開発と実用化」が、文部科学大臣賞には川崎重工業の「Kawasaki CO2 Capture(KCC)の開発」が輝いた。審査委員会特別賞には清水建設、産業技術総合研究所の「水素吸蔵合金タンクを用いた都市型オフサイト水素供給システム『Hydro Q―BiC Storage』の開発と実装」と、大林組の「クレーン作業の生産性と安全性向上を支援する次世代運転システム『ORCISM(オーシズム)』」の2件が選定された。日本産業技術大賞は革新的な大型技術、システム技術の開発を奨励するため1972年に創設、わが国の産業社会の発展に貢献した技術成果を毎年表彰している。贈賞式は4月7日11時から東京・大手町の経団連会館で開く。
【内閣総理大臣賞】日立製作所/サステナブルな物流のための配送・倉庫・EV充電の統合計画技術の開発と実用化
日立製作所は物流企業を主な対象に、倉庫や電気自動車(EV)充電設備の状況も踏まえた上で最適な配送計画を立案する技術を開発しサービス提供を始めた。現場の実態に即した実効性の高い計画を策定できる点が売りだ。物流などの現場で培ってきたドメインナレッジ(特定領域の専門知識)を生かして開発した。物流業界が抱える人手不足対策や脱炭素といった課題の解決に貢献する。
現場で使える配送計画立案 持続可能な物流実現
大量の荷物を複数の配送先に、いかに短時間で少ない車両で届けられるか―。物流業界にとって配送業務効率化は古くて新しい課題。その解決のため以前から効率的な車両割り当てや運行経路(配送順)計画を策定するサービスはあった。しかし実際に使用すると想定したほどの効果を発揮しないケースは多い。
多くの制約存在
現場にはより多くの制約があることが、その理由だ。代表例はトラックバース(荷物積降場)。その数や利用可能な時間帯、車型など無視できない。またEVトラックの導入が始まり、使える充電器数、各充電器の利用可能時間なども新たな制約に加わった。
日立が配送・倉庫業務の最適化技術の研究を始めたのは2014年までさかのぼる。そこから22年度までグループ企業だった日立物流(現ロジスティード)との共同研究プロジェクトなどを通じ「実案件で場数を踏み、現場で使える業務計画の立案を実現してきた」と研究開発本部の永原聡士リーダ主任研究員は話す。
こうした取り組みを経て開発したのが「サステナブルな物流のための配送・倉庫・EV充電の統合計画技術」。多様な制約条件を考慮に入れ、現場に即した高精度な配送計画立案を可能にする。
サービス展開としては19年にバースなど倉庫関連の制約に対応した「HDSL」、25年にEV充電関連の制約もカバーする「HDSL―EVMS」の展開を始めた。HDSL―EVMSは、ユーザーが電力会社と交わす契約に沿うようEV充電を制御する機能も有している。
同技術の開発には新たな発想が必要になった。多様な制約条件が加われば配送計画のパターンは飛躍的に増えるからだ。解を探り当てるのは「砂漠でオアシスを探すような作業」(永原リーダ主任研究員)で、従来手法では「現実的な時間で解を見付けることは困難」(同)。
そこで「ヒューリスティック」「数理計画法」と呼ぶ二つの手法を組み合わせた独自アルゴリズムで解決を図った。ヒューリスティックは事前定義したルールに基づき、問題を単純化しおおまかに解を探るのが得意。一方、数理計画法は対象の規模に応じ、解を得るための時間が指数関数的に増加してしまうが、制約条件に当てはまる解を数学的に正しく判定できる。
良いとこ取り
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EV充電も考慮し配送計画を立案する(HDSL-EVMSの画面)
これらの二つの「良いとこ取り」(永原リーダ主任研究員)をした。まず車両積載容量など比較的簡単な制約に限定する形で、荷物の車両・配送順割り当ての最適候補をヒューリスティックルールに準じて評価。その後、評価の高い複数の同候補に対し、複雑な制約条件を満たせるかどうかの判断を数理計画法を使って行う。これらの作業を繰り返し、段階的に配送計画の質を高めていく。
ヒューリスティックでは、どう問題を単純化するかの“枝切り”のセンスが問われる。日立のロジスティクス・リテールソリューション本部サービスソリューション部第一Gの宇山一世主任技師は「当社グループが物流や電力関連事業で培ってきたドメインナレッジが生きた」と説明する。
例えば特定エリア内で東西南北に散らばる複数カ所に配送するケース。最初に東の端にある配送先に届けた場合、しばらくは東側を巡るだろう。2番目に西の端の配送先に行くことは、配送順のパターンとして理論上はあるが、実際の現場を知っていれば起こりえないと分かるので、事前に“剪(せん)枝”できるわけだ。
日立はデジタル資産、AI(人工知能)、ドメインナレッジを掛け合わせたソリューション群「HMAX」の展開を積極化する。HDSL、HDSL―EVMSもHMAXシリーズとして、SaaS(ソフトウエアのサービス提供)型で展開する。HDSLは現在、メーカーや小売り、卸など国内約30社に納入実績があり、車両数の30%低減を実現するなど成果を上げる。HDSL―EVMSは大手運送業1社に提供している。同社の2拠点で展開を始め、26年度は40カ所に増やし、その後、全国展開する予定という。
難題を解決
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リアルタイムに充電状況を把握できるよう支援する(HDSL-EVMSの画面)
物流業界は荷物の小口・多頻度化が進む一方、ドライバー不足が深刻化する。また脱炭素に向け、EVトラック導入が求められるが、充電計画立案の煩雑さが二の足を踏む要因の一つ。HDSLシリーズはこうした難題を解決し持続可能な物流を実現するための助けになる。日本でさらなる拡販を目指すほか、EV化が進む欧州で展開する準備を始めた。
また日立のロジスティクス・リテールソリューション本部サービスソリューション部の大江菊仁部長は「サプライチェーン(供給網)全体を最適化するサービスの展開にも乗り出したい」と発展に意欲をみせる。関連事業で30年度以降、数百億円の売上高を目指す。

