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製薬産業
政府は医薬品産業を基幹産業に位置付け、日本を「創薬の地」とすべく厚生労働省や経済産業省などの省庁横断で取り組みを進める。医薬品を巡っては、海外で承認されている新薬が日本では承認されない「ドラッグラグ」、海外で利用されている医薬品が日本では開発されていない「ドラッグロス」などの課題がある。こうした課題の解決と並行して、国内外から創薬スタートアップへの民間投資を呼び込み、創薬力向上につなげる。
情報発信-社会の健康に貢献 疾患啓発
製薬企業は患者や生活者を適切な医療につなげるため、疾患啓発活動に取り組む。疾患への適切な対処には、予防の必要性を理解することや症状を見逃さないことが重要だ。製薬企業は疾患への理解を深める活動を通じて、社会の健康へ貢献する。さらに医薬品卸企業は医薬品をより早く効率的に供給する体制を整える。医療関連企業の取り組みが、日本の医療を支える。
感染症/ワクチン接種 普及
Meiji Seika ファルマ(東京都中央区、永里敏秋社長)は、ワクチン接種の普及に取り組む。感染症の流行や感染時の重症化を防ぐ上で、ワクチン接種は有効な手段だ。同社は新型コロナワクチン「コスタイベ」といったワクチン開発に加え、国内でのワクチン生産や安定供給にも力を入れる。
一方で日本におけるインフルエンザや新型コロナのワクチン接種率は伸び悩む。例えば、2024年度に厚生労働省は新型コロナワクチンを3000万回分確保したが、実際に接種されたのは700万回程度に留まった。
こうした中、Meiji Seika ファルマはワクチン接種についてアンケートを実施。インフルエンザや新型コロナのワクチン接種に対して医師や生活者がどのような意識や要望を持っているのかを調査した。調査の結果、一般生活者の6割、また医師の9割がワクチン接種に対して対話を望んでいることが明らかになった。一方で実際に対話を実施したのは3割だったという。生活者は「医師からアドバイスがあれば接種したい」と考えているのに対し、医師側は「希望がない限り積極的には接種を推奨しない」という姿勢が強く、対話につながっていないことが見えてきた。
田前雅也執行役員は「日本は過去の経験から、世界と比べてもワクチンに対して慎重な姿勢が強い」とした上で、「生活者が実は接種へのアドバイスを求めていることを医師に伝え、対話につなげられるよう働きかけたい」と説明する。
コロナ禍ではワクチンへの理解が浸透するより前に接種が先行し、その後SNSなどで不安な声も拡散された。メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンのような新たなモダリティー(治療手段)は実用化から日が浅く、作用の仕組みや副反応への不安に対する地道な情報発信が今後さらに重要となる。
婦人科/学校にノート3万部
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持田製薬は婦人科や生理の情報を盛り込んだノートを提供する
持田製薬は婦人科領域の疾患啓発に取り組む。月経で悩みを抱える女性は多いが、周囲への相談や医療へのアクセスのハードルは高い。特に若年層でその傾向は強く、症状の見過ごしや放置が起きやすい。症状の中には子宮内膜症といった疾患が隠れていることもあり、早期発見と治療のためにも受診が重要だ。また経済産業省によれば月経に伴う心身の不調によって発生する経済損失は年間約6000万円にのぼるとされ、社会へのインパクトも大きく対策が急務だ。
持田製薬は24年10月に疾患啓発推進室を立ち上げ、10-20代を対象に婦人科の適切な受診や検査を促す活動を行っている。疾患啓発推進室の野中雅子主事は「月経の痛みや出血量が多いといった症状も『自分の生理はこういうもの』と認識され、医療につながらないことが多い」と説明する。
同社は若い人向けに、月経に伴う症状を広く知ってもらうための活動を行う。女子高生向けに生理と婦人科の情報を盛り込んだノートを作成し、3万部を学校に提供した。婦人科への受診には何が必要かといった内容を盛り込み、受診について正しく知ってもらうことが目的だ。またドラッグストアでのデジタルサイネージ(電子看板)を使った情報発信やSNSの活用などを行い、婦人科領域の不調や疾患について触れる機会を増やすことにも取り組む。
野中主事は「月経に関する症状の中には、不妊の原因にもなる疾患が隠れていることもある。痛みの感じ方は個人差があるが、我慢せずに専門医へ相談することも選択肢の一つ」と説明する。今後は若年層だけでなく、その保護者や男性にも症状や疾患に対する理解を深めることに取り組んでいく。
流通/製剤、包装・出荷を一貫
東邦ホールディングス(HD)は、医薬品流通で新たな取り組みを始める。同グループ傘下の共創未来ファーマは、首都圏の要となる医薬品の大規模高機能物流センター「TBCダイナベース」(東京都大田区)内に「羽田パッケージングセンター」を開設。海外から輸入したバイアル製剤の検査から包装、出荷までを一貫して行う拠点として、今秋にも稼働予定だ。
バイアル製剤とは、ガラスやプラスチック製の容器に保存された医薬品で、ワクチンやバイオ医薬品などで幅広く用いられる。
羽田パッケージングセンターでは、バイアル製剤の検査からフィルム包装、出荷といった工程を一貫して行う設備を整える。バイアル製剤中の異物の有無やバイアルの破損など、機械を活用して高精度で検査するほか、保護容器の装着やラベルのフィルム包装なども自動で行う。
主にターゲットとなるのは、今後日本で製品を流通したいと考える海外ベンチャーだ。海外から輸入したバイアル製剤の検査や包装ができる拠点は地方にあることが多い。一方で、羽田パッケージングセンターは羽田空港と半径5キロメートル圏内に位置しており、顧客が集中する首都圏にも近い。
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共創未来ファーマの羽田パッケージセンターはバイアル製剤の検査や包装、出荷を一貫して行う
共創未来ファーマの熊田泰之社長は、「輸送距離が長ければ温度管理や振動への対策など品質管理にもコストがかかる」と説明する。その上で、「ベンチャーなどでは品質管理が難しい抗体や細胞医薬品などモダリティーの医薬品の開発が増えており、羽田パッケージングセンターは今後日本での事業を目指す企業からのニーズに応える拠点として期待している」と説明する。
日本では、海外ですでに使用される医薬品が国内で承認を得るまでに長い時間を要する「ドラッグラグ」や、開発すら着手できない「ドラッグロス」への対応が求められている。開発環境の改善とサプライチェーンの整備で課題解決につなげる。
