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製薬産業
政府は医薬品産業を基幹産業に位置付け、日本を「創薬の地」とすべく厚生労働省や経済産業省などの省庁横断で取り組みを進める。医薬品を巡っては、海外で承認されている新薬が日本では承認されない「ドラッグラグ」、海外で利用されている医薬品が日本では開発されていない「ドラッグロス」などの課題がある。こうした課題の解決と並行して、国内外から創薬スタートアップへの民間投資を呼び込み、創薬力向上につなげる。
革新的な医薬品に挑む 新薬最前線
製薬企業による医薬品開発により、年々治療選択肢が増えている。しかし、従来の治療では十分な効果が得られず、アンメットメディカルニーズ(未充足の医療ニーズ)が高い領域はまだ残されている。こうした治療ニーズに対応するため、製薬企業はさらに革新的な医薬品開発に挑む。新薬の開発と適切な治療につなげる取り組みで、患者へ貢献する。
COPD/新薬、10年ぶり発売
サノフィ(東京都新宿区)は3月、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する治療薬として「デュピクセント(一般名デュピルマブ)」の製造販売承認事項一部変更承認を取得した。デュピクセントは2018年に中等症から重症のアトピー性皮膚炎治療薬として初めて日本で承認された医薬品で、今回新たにCOPDの治療薬として適応が拡大した。
COPDは気管支の慢性炎症や肺胞の破壊により呼吸機能が不可逆的に低下し、進行すると日常生活にも大きな支障をきたす呼吸器疾患で、世界の死因第4位を占めるという。症状への不安に加え、急性増悪により入退院を繰り返すなど患者の負担も大きい。また進行性で致命的な呼吸器疾患であるにもかかわらず、10年以上新薬が発売されていない。
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COPD治療について説明する奈良県立医科大学の室繁郎教授
COPDの治療は、一般的に気管支を拡張する長時間作用性β2刺激薬「LABA」や長時間作用性抗コリン薬「LAMA」、炎症を抑える「ICS」が用いられる。しかし、長年COPDの治療にあたってきた奈良県立医科大学の室繁郎教授は、「治療においてはできるだけ増悪させないことが重要だが、3剤を使っていても約半数が増悪するというデータもある。また、すでに3剤を使っている患者の病状が進行すると治療も難しい」と説明する。
デュピクセントは炎症に関連するたんぱく質の作用を阻害する医薬品で、COPDに対して初めて承認された生物学的製剤だ。中等度または重度のCOPD患者を対象にした臨床試験では、デュピクセントを投与した患者群では対象群の患者と比較して入院などの増悪発現率が低下した。
COPDの潜在患者は530万人とされる一方で、治療を受ける患者は36万人に留まる。室教授は「既存治療で効果不十分な患者に新たな選択肢ができた。今受けている治療の効果が不十分と感じたら、主治医と相談してほしい」と強調する。
リンパ種/新たな治療選択肢
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中外製薬の「ルンスミオ」
中外製薬は3月、血液がんの一種「濾胞性リンパ腫」の治療薬として二重特異性抗体「ルンスミオ(一般名モスネツズマブ)」を発売した。同薬は過去に少なくとも二つの標準治療を実施して無効、または治療後に再発した患者を対象とした治療薬だ。ルンスミオ単剤治療は、高い完全奏効割合と持続的な寛解が期待できる新たな治療選択肢として期待される。
濾胞性リンパ腫とは、白血球のひとつ「リンパ球」のうちBリンパ球ががん化して発生するリンパ腫の一種で、日本では年間約9000人が濾胞性リンパ腫と診断されているという。進行は比較的緩やかだが、多くの症例で再発を繰り返し、再発を重ねるごとに治療効果が低下することがあり、新たな治療法が求められていた。
ルンスミオは腫瘍細胞であるB細胞上にある分子「CD20」と、がん細胞を攻撃するT細胞の「CD3」の二つの抗原を標的とした二重特異性抗体。ルンスミオがB細胞上のCD20に結合しながらT細胞を活性化して引き寄せることで、B細胞を破壊する。
がん研究会有明病院の丸山大院長補佐はルンスミオの特徴について「二重特異性抗体は半減期が長く、持続投与を必要としなくなったというメリットがある」と説明する。
また「ルンスミオは再発濾胞性リンパ腫の三次治療以降に対して、基本的には全て適応になる。三次治療以降はアンメットメディカルニーズが非常に高く、同薬が選択される可能性が高い」(丸山院長補佐)と強調する。
ルンスミオは世界カ国以上で承認され、また臨床試験でも高い完全奏功割合と持続的な寛解データが示されている。治療が難しかった再発を繰り返す濾胞性リンパ腫の治療の新たな選択肢として、日本でも広がっていきそうだ。
認知症/40ヵ国で承認取得
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エーザイの「レケンビ」
エーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病(AD)治療薬「レケンビ(一般名レカネマブ)」が米国において世界で初めて正式承認を取得してから2年が経過した。現在は米国に加え日本や中国、さらに欧州など計40カ国以上で承認取得するなど世界で実用化が広がる。
レケンビは早期のAD型認知症患者を対象とした治療薬で、既存の医薬品とは異なり脳内に蓄積して病気の原因になるとみられるたんぱく質「アミロイドベータ(β)」を除去する効果が期待される。臨床試験では疾患の進行を平均約3年遅らせると推定される。
25年度のレケンビの売上高は前年度比400億円増の443億円と大きく成長し、さらに24年度の売上高は765億円を見込む。内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は「ブロックバスターへの道を着実に歩んでいる。グローバルな承認取得や投与法の進化、さらに治療開始時期を早めるための臨床試験も進んでいる」と今後のさらなる成長に自信を見せる。
エーザイは認知症領域をリードしてきた製薬企業だ。1997年に米国などで抗認知症薬「アリセプト」を発売し、日本では99年から使われ、次の新薬開発も進む。
エーザイは認知症治療薬の開発に加えて、予防や早期発見支援の取り組みも強化する。エーザイは5月、SaaS(サービスとしてのソフトウエア)型高齢者見守りサービスを提供するエコナビスタを子会社化。高齢者施設向けの見守りシステム「ライフリズムナビ+Dr.」の販路拡大に加え、エコナビスタの認知症予測AI(人工知能)とエーザイの脳の健康チェックツール「のうKNOW」を活用した疾患リスクの可視化や早期受診の道筋の構築などに取り組んでいく。
認知症は高齢化社会の進行に伴い治療ニーズも高まる。医薬品の進化に加えて適切に対処していく包括的な取り組みも重要となる。
