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製薬産業
政府は医薬品産業を基幹産業に位置付け、日本を「創薬の地」とすべく厚生労働省や経済産業省などの省庁横断で取り組みを進める。医薬品を巡っては、海外で承認されている新薬が日本では承認されない「ドラッグラグ」、海外で利用されている医薬品が日本では開発されていない「ドラッグロス」などの課題がある。こうした課題の解決と並行して、国内外から創薬スタートアップへの民間投資を呼び込み、創薬力向上につなげる。
医療の未来と新しい価値築く
ごあいさつ
日本製薬工業協会 会長
宮柱 明日香
今年5月に日本製薬工業協会の会長に就任しました。はじめに、これまで日本の医薬品産業の発展に尽力してこられた皆さまの多大なる貢献に敬意を表するとともに、私にこの重責を担う機会を与えていただいたことに深く感謝申し上げます。
製薬企業の使命は最先端の科学技術を活用し、より有効性が高く、安全性が担保された新薬の開発を目指し、必要とする患者さんに迅速かつ安定的に届けることです。革新的な医薬品の創出は、単に新たな治療手段を提供するだけでなく、医療コストの適正化や患者さんの生活の質(QOL)向上にも寄与します。近年、がん、希少疾患、認知症などの分野で画期的な新薬が次々と登場しており、私たちはこれらの研究開発をさらに加速させることを目指しています。
医薬品の社会的価値や産業としての可能性は、国の成長戦略においても重要視されています。国内市場の活性化に加え、海外展開を通じて日本の高度な創薬技術を世界に広めていくことは、経済全体の持続的な発展にも資するものです。特にアジアを中心とした新興国市場の成長に伴い、日本の製薬企業がこれらの地域で存在感を高める意義は今後さらに大きくなると考えています。
製薬協の産業ビジョンの中核には、患者視点に立った「Co-creation(共創)」の考え方があり、「患者・市民参加型創薬」の実現、また創薬の枠を超えて、国民の皆さんが長く健康に暮らせる持続可能な社会の実現を目指しています。そのためには、医療データやAI(人工知能)の利活用による医療デジタル変革(DX)の推進も不可欠です。私たちは患者さん、行政、医療関係者、アカデミアをはじめとする多様なステークホルダー(利害関係者)との対話を重ね、社会に対する新しい価値を共に創造することで、日本の医療をより良い方向へ導いてまいります。
私たち製薬企業が目指すべき最終的なゴールは、すべての日本国民が健康で豊かな人生を送ることができる社会の実現です。持続可能な社会保障制度の確立に向けて製薬産業のイノベーションをさらに推進し、日本の医療と経済の発展に貢献してまいります。
日本「創薬の地」に/官民協議会 投資・人材呼び込み
政府は2023-24年に「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」を開催した。同会議の中間取りまとめでは、①我が国の創薬力の強化②国民に最新の医薬品を迅速に届ける③投資とイノベーションの循環が持続する社会システムの構築-の3点を戦略目標として掲げた。
この戦略に基づき、25年6月に政府関係者と国内外の製薬会社、ベンチャーキャピタル(VC)などで構成する官民協議会「創薬力向上のための官民協議会」を初開催した。
出席した石破茂首相は「ドラッグラグ・ロスの解消やわが国の医薬品産業の国際競争力の強化に向け、この官民協議会は非常に重要なものとなる」と述べた。また、参加した国内外の製薬企業やVCに対し「日本を創薬の地とするため、継続的な投資を検討いただきたい」と要請した。同協議会を通じて、投資のほかインキュベーション施設や研究開発人材などを呼び込みたい考えだ。
同協議会の下に関係省庁と有識者、業界団体で構成する作業部会を設置し、9月上旬から具体策について議論を始める。構想会議で取りまとめた三つの戦略目標に沿って議論し、創薬関連の制度の改善案を検討する。26年度薬価改定への反映を念頭に、当初は③を中心に議論を進め、今秋をめどに議論を取りまとめて中央社会保険医療協議会に提出する。その後①、②について議論し、26年5月開催予定の同協議会に全体の取りまとめを提出する予定だ。
創薬エコシステム/スタートアップ支援
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政府は厚労省、経産省など省庁連携で取り組みを進める
(第1回医薬品開発協議会、感染症協議会=6月2日)
医薬品の研究開発には膨大な投資が必要となるが、日本は海外に比べて創薬に特化したVCが少なく、製薬会社への投資規模も海外に比べて少ない。政府は創薬スタートアップに対する民間投資額を28年までに23年比で倍増させる目標を掲げる。国内外の大手製薬会社やVCとの連携を強化し、創薬スタートアップが生まれ、革新的な新薬の研究開発が活発化する「創薬エコシステム」の構築を目指す。
国内市場が縮小する中、医薬品や医療機器の輸出にも力を入れる。中でも市場が大きい米国への輸出拡大に向け、経産省は25年度から米国などの海外展開を見据えた医療機器の研究開発に特化した支援を始めた。
中小・スタートアップを対象に、ソフトウエア医療機器(SaMD)や治療機器などの非臨床、治験・臨床研究に経費の3分の2を補助する。また、専門家による現地の規制や許認可への対応などの伴走支援、スタートアップ支援事業を行う海外のアクセラレーターの紹介などを行い、企業の成長を継ぎ目なく支援する。大手とスタートアップの連携も推進し、オープンイノベーションによる製品開発と海外展開を後押しする。
