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製薬産業
この1年あまり、製薬、ヘルスケア産業をめぐる政府の動きはめまぐるしかった。国際競争力の強化に向けて政策資源を集中的に投じる方針が相次いで打ち出され、首相官邸で行われた会議では「第二の開国」との言葉が飛び交ったほどだ。創薬力の向上に向けては創業まもないスタートアップへの支援強化に軸足を置く姿勢も鮮明になった。一連の方針は今後、具体化に向けて動き出す。
イノベーション創出 わが国の成長けん引 世界有数の「創薬力」
ごあいさつ
日本製薬団体連合会 会長
(エーザイ代表執行役) 岡田 安史
国民の命と健康を守り、経済成長や安全保障といった国家の存続と発展の礎となるのは、とりもなおさず科学技術力であり、ライフサイエンスはそのど真ん中に位置する最重要分野です。目覚ましい技術革新に加えて、高齢化の進展や健康意識の高まりも相まって、世界の医薬品市場は年率3―6%の成長を続けています。日本の主要製薬企業の海外売上高比率は70%近くとなり、知的財産を保有する日本での納税額も増加しています。医薬品産業には国民の健康寿命の延伸を支え、国家の経済成長を牽引(けんいん)する基幹産業としての期待が寄せられています。
日本は世界有数の新薬創出国であり、これまでスタチン、抗PD―1抗体、抗アミロイドβ抗体などに代表される画期的新薬を創出してきました。現在はiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療研究において国際的に高い論文数シェアを誇っています。また日本が得意とする低分子創薬では、低分子化合物と他の技術基盤を組み合わせることで、抗体薬物複合体(ADC)や核酸修飾薬といった従来とは異なるアプローチによる新薬が登場しています。今後もイノベーションを創出し続けていくためには、強みとなる創薬技術をさらに磨き上げていくことが重要であり、国家戦略の下で産学官が一体となり研究開発を推進していく必要があります。
COVID―19のパンデミックの中、世界でワクチン争奪戦が繰り広げられたように、医薬品は経済安全保障上も極めて重要な財です。新たなモダリティーが登場し、医薬品の開発プロセスは高度化・複雑化していますが、我々の産業はグローバルレベルでバリューチェーンを構築し、有事においても安定供給を確保しなければなりません。
医薬品産業のビジネスモデルが国境を越えて水平分業化する中、日本の誇る人材が多様化する世界と協調し、連携し、そしてリーダーシップを発揮していくことが科学技術立国日本の再興に向けた一里塚になるものと思います。
国民の健康を支えるべく、足元の供給不安を速やかに解消して高品質の医薬品を安定的に供給するとともに、人口減少社会にあっても次代を担う人材が集い、日本に光明を見いだす魅力的な産業となるように全力を尽くしてまいります。
世界見据え施策強化/政府構想会議 海外人材・投資を誘致
製薬企業幹部や研究者をメンバーとする政府の構想会議が5月下旬に取りまとめた新たな戦略方針。新薬の研究から実用化まで支援する体制構築に向け、治験施設の整備や薬事規制の見直しを進めることや、海外の人材や投資を積極的に呼び込むことを柱に据えた。
戦略のベースとなる構想会議の中間とりまとめでは、「日本は世界的に用いられる新薬をいくつも生み出してきた創薬力を持つ数少ない国のひとつで、これは世界に誇るべきもの」とした上で、こうした力を今後も維持、発展させることは「日本が経済成長を遂げる上で極めて重要」とした。
とりわけ重視するのは研究開発から製品化、獲得した資金で次の創薬につなげる「創薬エコシステム」の構築だ。その中核となる人材の確保や育成に取り組むほか、スタートアップや大学の資金調達も後押しする。希少疾患に対する研究開発も官民で推進する方針も示した。
内閣官房の担当者は一連の戦略について「製薬産業への支援にとどまらず、日本の産業競争力強化に向けて政策を発展させる意味合いがある」と意義を語る。
スタートアップ集中支援/厚労省が新機軸
政府全体の動きとは別に、厚生労働省でもヘルスケア産業をめぐる新機軸が打ち出された。塩崎彰久大臣政務官をトップとするプロジェクトチーム(PT)は、ヘルスケアの産業特性に着目した政策パッケージを示した。難易度の高い創薬や医療機器開発を後押しする新たな補助金の枠組み構築や、規制や診療報酬改定など企業からの要望に対応し施策に反映する一元的な窓口設置などが盛り込まれた。
新たな補助金の枠組みは、段階的に設定された目標をクリアするごとに追加で資金支援が受けられるマイルストーン型が念頭にある。革新的な医療機器開発を後押しするため、では臨床知見の獲得に協力医療機関への支援も手厚くするとした。
医療系ベンチャー支援事業「MEDISO(メディソ)」も機能強化する。人材、資金ともに充実させ、継続的な支援につなげるため予算も複数年度化する方針が示された。一連の取り組みについて武見敬三厚生労働相は「時代は大きな変革期にあり、未来社会を想定した施策が必須」と語り、実現に意欲を示す。
感染症対応をめぐっても新たな動きがみられる。司令塔となる新機構が2025年4月に発足することが正式に決まり、組織体制の整備をはじめ準備が加速する。
新機構「国立健康危機管理研究機構(略称=JIHS、ジース)」は、「国立感染症研究所」と「国立国際医療研究センター」を統合する形で発足するもので、米疾病対策センター(CDC)にたとえて「日本版CDC」とも称される。感染症に関する情報を集約し、感染状況の早期把握につなげるほか、ワクチンや治療薬の研究開発も後押しする。