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ライフサイエンス
農薬事業と化学メーカーの取り組み
農薬-インドに照準
機能化学各社が手がける農薬事業は、各社の売上高への貢献が進んでいる。化学農薬大手の住友化学は、農業大国であるフランスやスペインの農薬販売会社を完全子会社化し、欧州で攻勢をかける。こうした農薬事業の再編やM&A(買収・合併)の動きがある一方で、日産化学や日本農薬は自社で開発した製品の普及や拡販などに力を注ぐ。
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日産化学が手がける殺虫剤「グレーシア」
日産化学は除草剤や殺虫剤、植物成長調整剤などさまざまな農薬を手がける。農薬など農業化学品事業の2024年度売上高は、862億円(前年度比5・0%増)で、25年度売上高は920億円(同6・7%増)を見込む。18年に市場へ投入した自社開発の殺虫剤「グレーシア」などの増収が寄与する。
グレーシアは同社の原体「フルキサメタミド」を成分とし、野菜や茶を加害する害虫を防除する殺虫剤だ。効きが速く、幅広い重要害虫に有効で、収量の確保に寄与する。ミツバチへの影響が少ないのも特徴だ。18年に韓国、19年に日本、21年にインドとインドネシアでの市場投入以降、販売する国を増やしている。
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日本農薬が手がける殺虫殺菌剤
「オーケストラロムダンモンカットエアー」
日本農薬は1928年に日本初の農薬専業メーカーとして創立した。以来、自社品比率70%以上を武器に幅広い製品を展開する。24年度の国内農薬販売の売上高は233億円(前年同期比4・0%増)。独自に開発した新規有効成分ベンズピリモキサンを含む殺虫剤「オーケストラ」など、主力の自社開発品の普及・拡販などが作用した。
オーケストラという製品名は、水田で環境生物や防除技術、栽培技術など農作物生産を支える要素が"調和を奏でる"ことに由来する。水稲に被害をもたらすウンカ類などに対して、高い殺虫効果を発揮するという。
農薬事業を展開する化学各社においては、インド市場に照準を合わせる企業も少なくない。日本農薬はインドでの自社販売を強化する。インドで製造することで原価を抑え、収益性の向上につなげる狙いだ。
住友化学は25年4-6月期において、インド市場が堅調だったとした。日産化学は、農薬原体を製造・販売するインド合弁会社を設立した。合弁会社が製造したグレーシアなどの原体を日産化学が購入する。主力となる製品の供給力拡充に向け、体制強化につなげる。
農業・医療の変革後押し
化学大手はデジタル技術を生かして農業や医療の変革を後押しする。化学各社は自社内でIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を導入しているが、化学大手の大半は装置産業のため業務効率化は限定的だ。自社内でのデジタル技術の利活用に限界があるなか、顧客の利便性向上など社外に向けた利活用が中長期的な主戦場となる。デジタル技術が各社の事業構造転換のカギを握りそうだ。
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住友化学のデジタル基盤「ビオンド」のトップ画面
住友化学が2024年に立ち上げた、成分分析を介して天然素材の売り手と買い手をつなぐデジタル基盤「Biondo(ビオンド)」は、この1年間で掲載素材数が1000件を超えた。天然素材の豊富な分析データベースを持ち、売り手と買い手を効率的にマッチングできるのが特徴だ。
素材の売り手は専用ウェブサイトから素材の成分分析を依頼する。住友化学は含まれる機能性成分を明確にして素材検索データベースに登録する。買い手はデータベースから欲しい素材などを検索できる。成分分析・リポートや素材検索などはサービス内容に応じて無料と有料に分かれる。
三菱ガス化学とNEXTAGE(東京都目黒区)は大規模植物工場でのワサビ栽培実用化に向けた技術開発を始めた。日本食の普及などにより海外でのワサビ需要が急伸しており、デジタル技術を生かして安定供給できる生産体制の構築を狙う。三菱ガス化学として、27-29年度の次期中期経営計画期間中に商業化を目指す。
NEXTAGEは誰でも容易に導入できる「わさび栽培モジュール」を提供している。ただ、需要増に合わせた栽培規模の拡大が課題であり、三菱ガス化学と23年から完全人工光下でのワサビ促成栽培分野で共同研究を始めていた。
25年4月に大規模植物工場での技術開発フェーズへ移行した。三菱ガス化学はこれまでレタスなど葉野菜の植物工場を中心に研究開発を進めており、同社の知見も協業に生かしていく。
三井化学はがんなどの遺伝子診断サービスを展開するDNAチップ研究所を買収した。同社の持つ遺伝子解析技術と三井化学のライフサイエンス関連技術を有効活用し、一体運営で新たな検査・診断サービスの創出を目指す。まずは肺がん組織を対象とした遺伝子変異の検査技術「肺がんコンパクトパネル」の次世代品の開発に力を入れる。
富士フイルムはAIを活用して間質性肺疾患の診断を支援する「間質性肺疾患解析ソフトウエア」を開発した。胸部コンピューター断層撮影装置(CT)画像から、異常所見が疑われる領域を性状ごとに分類。それぞれの大きさを算出し、診断を支援する。同機能により間質性肺疾患の診断支援を行うAI医療機器は日本で初めてとなる。
同ソフトウエアは富士フイルムの3次元(3D)画像解析システム「シナプス ヴィンセント」のアプリケーションとして、富士フイルムメディカル(東京都港区)を通じて提供する。胸部CT画像から肺の構造を識別し、肺の各領域における異常所見の大きさや割合を表示し、診断を支援する。また、過去と現在の検査画像を並べて性状別や領域別にデータを表示し、進行状態も確認できる。
間質性肺疾患は早期の発見と治療が重要だが、他の呼吸器疾患との見分けが難しかった。
