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ライフサイエンス
アンメットメディカルニーズに挑む ヘルスケア
製薬企業はがんやこれまで治療が難しかった希少疾患など、アンメットメディカルニーズ(未充足の治療ニーズ)が高い疾患領域をターゲットに新薬創出へ挑む。近年は抗体技術が向上し、製薬企業は革新性の高い治療薬の実用化に成功している。こうした医薬品の世界での好調が、製薬企業の持続的な成長につながっている。
PNH
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中外製薬「ピアスカイ」
中外製薬は2024年、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療薬として「ピアスカイ」を国内で発売した。ピアスカイは中外製薬独自の抗体技術を活用して開発したリサイクリング抗体の医薬品で、1分子の抗体が繰り返し抗原に結合するため、一般的な抗体に比べて効果を長時間発揮できるのが特徴だ。
PNHは後天的に遺伝子に変異が生じて起きる造血幹細胞疾患で、日本では指定難病となっている。破壊された赤血球が尿として排出される「ヘモグロビン尿」や血栓症などPNH特有の溶血による症状と、再生不良性貧血といった造血不全症状のほか、慢性腎臓などの合併症を発症することもある。
ピアスカイは、既存の医薬品による治療が難しいタイプのPNH患者にも有効とされるほか、4週に1回の皮下投与のため患者の負担も軽減する。筑波大学の小原直教授は「PNHは長期間の治療が必要となる疾患で、通院は大きな負担となる。皮下注射による投与は点滴が難しい患者にとってもメリットとなる」と説明する。また、体重が40キログラムを超えている患者であれば投与において年齢に制限はないといった特徴があり、これまで治療が難しかった患者への新たな選択肢として期待される。
新しい技術を活用した新薬は期待が大きい一方で、慎重に治療方針を決めたいというニーズも高く、情報提供の重要性も増す。情報提供の利便性向上のため、中外製薬は医師や薬剤師向けのデータベース(DB)「副作用DBツール」を刷新した。簡単な操作で医薬品の副作用や患者の情報、症状が起きやすい時期などを分かりやすく表示し、医薬品の安全性情報の提供を工夫する。医師や薬剤師への情報提供を強化することで、治療における意思決定や副作用への対応の迅速性向上につなげる。
ADC
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第一三共「エンハーツ」
製薬企業による開発が活発ながん領域で注目が高まるモダリティー(治療手段)が、抗体薬物複合体(ADC)だ。ADCは抗体と低分子化合物を結合させた抗がん剤で、がん組織の分子に抗体が結合してがん細胞を狙って攻撃する。そのため、副作用を抑えながら高い治療効果が期待され、世界の製薬企業が開発に力を入れる。
国内発のADCで大きく成長するのは、第一三共が開発、販売する乳がんなどの治療薬「エンハーツ」だ。同薬は19年に米国で初めて承認され、日本や欧州、中国など販売地域を世界に広げている。
第一三共のADCの成長の背景には、海外のメガファーマ(巨大製薬企業)との提携戦略がある。同社はエンハーツの開発と販売において英アストラゼネカと提携を締結。こうした提携は、開発費の効率化や販売網のリソースを有効に活用できるといったメリットがあり、グローバルで事業を行う製薬企業の戦略として主流となりつつある。がん領域の事業にノウハウがあり欧州でのビジネスに強いアストラゼネカとの提携により、第一三共はがん領域事業の本格化を図ってきた。
エンハーツの24年度の売上高は前年度比約40%増の5528億円で、同社の売上高の約3割を占めるまで成長した。エンハーツに続くADCの開発も順調だ。第一三共は今年、同社のADCプラットフォーム(基盤)の医薬品としてエンハーツに続いて2番目となるADCの抗がん剤「ダトロウェイ」を発売した。
第一三共は30年までに世界のがん領域での売上高でグローバルトップ10入りを目指すという目標を掲げる。成長を遂げるエンハーツやダトロウェイに加え、米製薬大手メルクと提携して開発を進めるADCの実用化で、持続的な成長につなげる。
