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住宅産業
光や風を取り入れプライバシーを確保/中庭のある家
【執筆】テラジマアーキテクツCEO/一級建築士 深澤 彰司
【プロフィル】東京理科大学卒業。建築家としてシンプルモダンや和モダンといった同社の代表的なテイストを確立。これまでに手がけた住宅は400棟以上。
家づくりを考える際、中庭はプライバシーを保ちながらも、自然光や風を取り入れ、快適な暮らしを実現する重要な要素となる。特に住宅密集地では、外部との距離が近く、採光や通風、外からの視線に悩むことも多い。その場合は中庭があれば家全体が明るく風通しの良い空間になり、家族が安心してリラックスできるプライベートな外部空間を作り出すことができる。ここでは中庭のメリットや種類、実例を交えながら、その魅力を伝える。
なぜ中庭をすすめるのか
「光が入る明るい家にしたい」「開放的な家にしたい」という要望を叶える手段として有効なのが、中庭だ。中庭とは、建物に囲まれたプライベートな庭を指す。
住宅における中庭には、大きく二つの機能がある。「採光・通風」と「くつろぎ」だ。居住空間に自然光や風を取り入れるとともに、プライバシーを確保しながら外部空間を楽しむことができる。
そもそもなぜ、庭をつくるのか。建築基準法により敷地に対し建物を建てられる面積の割合(=建ぺい率)が定められており、一定の面積を空地にしなければならない。一般的にその空地を建物と前面道路の間に配置し、駐車場や庭にすることが多い。
この場合、道路に面しているため子どもを遊ばせる場所としてはあまり適さない。家の中から庭の景色を眺めようにも、カーテンを開けると外から丸見えになってしまう。また住宅密集地では隣家との距離が非常に近いため、窓から光や風が入りにくい。よほど恵まれた敷地条件でない限り、採光・通風とプライバシーの確保を両立することは難しい。
一方、建物に囲まれた庭には周囲からの視線が届かない。中庭に向けた窓なら気兼ねなく開けられ、一日中カーテンレスで過ごすことも可能だ。
空気の入れ替えは健康的な生活に欠かせない。換気せず古い空気のままでいると、ウイルスや汚れが室内に滞留し、感染症やアレルギーのリスクが高まる。加えて近年の住宅は気密性が高いため湿気が逃げにくく、結露やカビが発生しやすい環境だ。換気によって新鮮な空気を取り込むことは、住む人の健康を守るだけでなく、家を長持ちさせることにもなるのだ。
住まいに日当たりの良さを求め、より多く、より大きな窓を、と考える人は多い。しかし窓があっても隣家に日差しを遮られたり、視線を気にしてカーテンを閉めていたりすると、明るさが足りず昼間でも照明が必要になってしまう。
中庭なら周囲の影響を受けず真上からしっかりと日が入り、庭の壁で乱反射した光が室内まで届く。直射日光よりも柔らかな光で、季節を問わずに安定した明るさを確保できる。中庭に向けた窓で十分な採光が確保できれば、外側に向けた窓はほとんど必要ない。
外部からの侵入者対策にもなり、防犯性を高められる。一戸建てのセキュリティーを心配される人にも、中庭はおすすめだ。
プライベートな庭なら、さまざまな用途に使える。実際に中庭のある家に住む施主に聞くと、それぞれのライフスタイルに合わせて楽しんでいる。
ある家では、一年中中庭を使いたいという思いから、雨や夏の日差しを避けられるようスペースの半分に屋根を付けた。キャンドルを焚きゆったりとティータイムを楽しんだり、飼い犬が日なたぼっこをしたりしているそうだ。
また小さな子どもがいる家では、キャンプ用のテーブルとイスを出して青空の下でのランチや、夏場は友達を呼んでプール遊びをしているという。子どもが道路に飛び出てしまう心配もなく、安心して外で遊ばせることができると好評だ。
遮音性の高さも、中庭ならではのメリットである。道路を走る車の音や人の声が建物で遮られ、静かな庭で光と風を感じながらくつろぐことができる。反対に室内や中庭の音は上に抜けるため、生活音で周囲に迷惑をかけにくい。
思う存分外の空間を楽しむことができ、コロナ禍で外出が制限されていた時期は中庭をつくって良かった、という声が特に多く聞かれた。
中庭の種類
中庭は建物と庭の配置によって大きく三つのパターンがある。敷地を真上から見たときの建物の形状が呼称になっている。
⚫ロの字型
建物がロの字の形で、中の開いている部分が中庭となる。四方から囲まれているため、完全なプライベート空間にできるが、より広い敷地が必要となる。
⚫コの字型
建物がコの字の形で、三方から中庭を囲む。一辺は開かれているが、そこに壁を建てればロの字型同様にプライバシーを確保できる。壁の代わりにルーバーを建てればより風通しが良くなる。
⚫L字型
建物がLの形で、二方から中庭を囲む。コの字型と同じく、開かれている二辺に壁やルーバーを建てれば、プライバシーを確保できる。
他に、光庭や坪庭と呼ばれる庭がある。中庭と同じく建物の内側に設けられるが、その面積は小さく、外に出て過ごすには適さない。またそれぞれの目的は、採光や鑑賞に特化している。敷地が狭くあまり大きな庭はつくれないが、効率的に光を取り入れ景色を楽しみたい場合に有効だ。
敷地条件、住む人のライフスタイル、庭をどのように活用したいか。これらの要素によって、最適な庭の形は三者三様である。
建てる際のポイント
中庭のある家を建てる際には、いくつか注意したいポイントがある。
⚫敷地の広さが必要
採光・通風を十分にできる中庭をつくるためには、ある程度敷地の広さが必要になる。中庭をつくるのが難しい場合は、バルコニーを壁で囲い周囲から遮断することで、中庭と同様の機能を持たせられる。
⚫建築コストがかさむ
シンプルな四角形の家と比較すると、中庭を囲む壁が増えるため、その分コストがかかる。タイルやウッドデッキを敷くなど、快適に過ごせる環境を整えるためのコストも発生する。
⚫メンテナンスの手間や費用がかかる
中庭は外部空間でありながら壁で囲まれているため、雨水が溜まらないよう排水設備が必要になる。定期的に清掃もしなければならない。長く住めば外壁塗装が必要になるが、その際に建物の外側だけでなく中庭も塗装をするため、その分の費用が追加となる。
要望や敷地によっては、中庭が最適解でない場合もある。中庭をつくるために必要な部屋数を削ったり、生活動線が悪くなったりしてはいけない。海を望む高台や、緑豊かな空地に面した土地なら、眺められる位置に庭をつくり借景を楽しむのも良い。
中庭ありきではなく、暮らしやすく、より豊かな時間を過ごせるようプランニングする必要がある。
中庭のある家の実例
【事例1】ロの字型・景色を擁する回廊の家
緑を眺めながらくつろげる家にしたいとの要望から、建物の内側に複数の庭をつくった。バスルームの隣はリゾート感あふれる庭、和室の隣は和の風情ある庭と、それぞれにテーマを設けた。玄関ホールの前にはメインの中庭が広がり、その奥のLDKまで視線が抜ける。帰宅しこの景色に迎えられる度、心が癒されているそうだ。
【事例2】コの字型・北側に中庭のある家
奥さまの料理教室を兼ねた邸宅。多くの生徒が集まっても圧迫感のないよう天井高3・4メートルを確保し、庭に向けて大きな窓を設けた。床の高さや素材を合わせて、キッチン・ダイニングと中庭がつながる明るく開放的な空間にした。家族との夕食、客人とのランチやティータイムが、より一層豊かな時間になったという。
【事例3】コの字型・中庭とバルコニーがある家
2階バルコニーから中庭へ、光と風が通り抜けるよう空間をつなげた。四方を建物に囲まれた住宅密集地のため、バルコニーは植栽やルーバー、すりガラスを使ってプライバシーを確保。開放感がありながらも、外部からの視線を気にすることなくリラックスして過ごすことができる。
【事例4】L字型・開放と閉鎖 内に開く家
バルコニーと庭を囲むように隣地との間に壁を建て、完全なプライベート空間にした。
リビングとつながるバルコニーにはベンチを造作し、第二のくつろぎの場になっている。
中庭でBBQを楽しみ、バルコニーでお酒を片手に語らう。元々来客の多かった施主だが、この家に住んでから外に食事に出る機会が減り、より一層賑やかになったという。
まとめ
中庭があることで、周囲の目を気にせずに家の中に自然光や風を取り込み、心地よい暮らしが実現できる。家族や友人との大切な時間をより豊かなものにするため、中庭のある家を検討してみてはいかがだろうか。