-
業種・地域から探す
続きの記事
住宅産業
住宅産業の動向と住宅メーカーの取り組み
【執筆】みずほ銀行 産業調査部 社会インフラチーム シニアアナリスト 福嶋 正芳
【プロフィル】2006年4月、みずほ銀行に入行。中小企業、大企業に向けた営業やみずほフィナンシャルグループ戦略企画部を経て、21年7月から現職。アナリストとして不動産、住宅、住宅設備・建材業界を担当する。
人口減少や高齢化の進展に加え、インフレ進行により土地や建築費が上昇しており、住宅取得意欲を減退させている。また、ライフスタイルの変化に加え、金融政策や住宅政策動向の変化も著しい。このような外部環境の中で、住宅産業はどのような戦略によって顧客ニーズに応えようとしているのか、主に住宅メーカーに焦点を当てながら住宅産業の動向と取り組みの方向性について解説する。
住宅産業に影響を与える外部環境
国内の住宅市場では、新設住宅着工戸数の減速感が強まっている。2024年も全体で80万戸割れの可能性が高まっているが、これはコロナ禍で需要が大きく停滞した20年の81・5万戸をも下回る水準である(図)。特に注文住宅や分譲住宅を中心とする一戸建て住宅の減少幅が大きく、住宅需要の減少トレンドが継続している。
その背景には、日本全体として人口減少や高齢化の進行に伴い、30-40歳代の住宅一次取得者が減少していることに加え、インフレの影響を受けて土地や建築費が上昇し、住宅取得意欲を減退させていることが要因と考えられる。
特に建築費は、住宅資材の高騰のみならず、大工などの賃金上昇や労働時間の上限規制を受けた工事の長期化なども建築費上昇の一因となっており、価格上昇の短期的な終息は見込みにくい状況と言える。また今後は、日銀の金融政策変更を受けた住宅ローン金利上昇も、住宅市場に影響を与える可能性があろう。
23年時点の統計データによると、日本全体で約900万戸の空き家が存在しており、その適正な維持管理に加え、リノベーションや早期解体による最有効利用が官民で模索されている。住宅政策の観点では、50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向けて、住宅・建築物の省エネルギー政策が強化されており、特にネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)をはじめとする省エネ性能の高い住宅取得サポートなどが打ち出され、住宅ローン減税も含め良質で安全な住宅ストック形成に向けた政策を進めている。
顧客サイドも、実質賃金の変化に加え、職住近接や働き方の変化、少子化による世帯構成の変化、自然災害対応などを踏まえ、住宅に求めるニーズが多様化している。
住宅メーカーなどの戦略
こうした外部環境の変化を踏まえ、住宅メーカーは顧客ニーズの多様化を受けた対応力を強化している。
特に最近動きが目立つのは、価格を抑えつつモデルプランをベースに効率的な家づくりを実現する規格住宅やセミオーダー住宅の強化だ。住宅メーカーは、これまでの多くの住宅施工実績から顧客ニーズを汲み取り、複数のモデルプランを作成して提案する。多様化する顧客ニーズと住宅メーカーの提案効率向上との両立を図ったアプローチと言える。住宅メーカーによっては、質の高い分譲住宅も含めラインアップを強化し、予算に応じた相談対応力を強化している。
一方で、フルオーダーメードを希望する顧客には、高い設計・提案力を有する建築士やデザイナー、インテリアコーディネーターなどによる理想の住まい方を具現化する提案力の強化や、高断熱な木造住宅の強化、太陽光発電や蓄電池、全館空調などを駆使した快適な住空間提案の強化など、各社の特性を生かした提案力に磨きをかけている。
環境面では、特に分譲住宅や賃貸住宅は今年4月から省エネ性能ラベルの表示が努力義務化されたことで、住宅の省エネ性能の横比較が可能となったほか、目安光熱費が可視化されるようになった。
注文住宅は同制度の対象外ではあるが、足元の光熱費上昇を受けて省エネへの関心は一層高まっている。省エネ性能の高い建材・設備の導入による光熱費などの削減を含めたライフサイクルベースでのコストメリット提案は、家づくりにおける参考になるだろう。
またリフォーム・リノベーションも、政府の補助制度などを追い風に開口部などの断熱リフォーム提案や自社施工物件などを買い取りしてリノベーションした住宅販売を強化している。
中古住宅を検討する際は、住宅の修繕履歴や定期点検の実施、一定の耐震性の保持などの査定をクリアした「安心R住宅」ラベルに注目することも選択肢だろう。中でも大手住宅メーカーは中古住宅流通活性化を目指して協議会を設立し、一定条件をクリアした優良物件に「スムストック」という認定を行っており、中古住宅購入時の一助となろう。
住宅取得に向けて
今後も、インフレの進行に伴い土地や建築費の上昇が継続することで、住宅価格は上昇基調が続く可能性がある中、住宅メーカーもさまざまな工夫で顧客からの要請に応える努力を行っている。
住宅政策も、引き続き良質で安全な住宅ストック拡大に向けた制度導入などが続くことが予想される。
国や自治体独自の補助・優遇制度を上手に活用しつつ、安全安心で快適な暮らしを実現する住宅取得ができることを願いたい。