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住宅産業
共働き家族が心地よく暮らせる住まいづくり
【執筆】旭化成ホームズ LONGLIFE総合研究所 伊藤 香織
【プロフィル】入社以来、生活者の暮らしに根ざしたソフト研究のほか、共働き家族向け商品や収納開発などを行う。現在はシニアライフ研究、ミドルライフ研究など、ロングライフに資する住まいやサービスを研究・開発。
共働き家族向けの住宅は1980年代終わりから家事の合理化、家族コミュニケーションを中心に、多くの提案がされてきた。平成、令和と時代や働き方、価値観の変化に合わせ、その内容は進化を続けている。現在の共働き家族は夫婦での家事シェア、在宅ワークスペース、家族で過ごす時間を求めるだけでなく、自分らしく過ごす一人の時間など「仕事も家庭も“自分も”充実」を実現できるような心地よい住まいを求めている。
増え続ける共働き世帯
令和の今、共働き家族が大半を占めており、男女とも働くことは当たり前になっている。
かつては専業主婦世帯が多数派であり、共働き世帯は少数派であった。しかしその後共働き世帯が急速に増えていき、総務省の労働力調査によると、2023年度の共働き世帯数は専業主婦世帯数の約2・5倍にもなる(図1)。
80年代終わり頃では先駆的であった「夫婦が共に働く家族」がやがて主流になることを予見し、35年間継続的に研究と提案を重ねてきた当研究所として、その今昔のポイントを振り返る。
共働き第一世代/再就職型
80年代は男女雇用機会均等法施行など、男女共生社会に向けて動き始めた時代である。当時の共働き家族は、子どもに手がかからなくなってからパートタイムで再就職するケースが主流で、フルタイムでの就業継続は制度的にも整っておらず、社会風潮としても難しい時代だった。「家事は女性の仕事」という認識が根強く残っていた。
この時代の住宅で解決すべき重要な課題は「家事合理化・省力化」と「家族(母子)コミュニケーション」の二つである。
一つ目の家事合理化・省力化の解決策として、キッチンの隣りに洗面・洗濯室やユーティリティー(家事室)を配置し、家事動線を短くした間取りを提案し、調理や洗濯などの家事を行うための移動とそれに伴うストレスを減らした。同時にその動線上に適材適所の収納が設けられていることも必要となる。
二つ目の家族(母子)コミュニケーションの方策としては、吊り戸棚のないオープンなキッチンを提案した。キッチンの背面には、流しの中が見えないような手元が立ち上がった収納があり、かつカウンターは子どもの手が届く高さにした。その結果、キッチンに立つ母とダイニングに座る子どもの視線が自然につながり、コミュニケーションが取りやすくなった。
共働き第二世代/就業継続型
少子化の流れを受け、男女ともに子育てや介護をしながら働き続けることができる社会を目指し、2010年には改正育児・介護休業法が施行された。短時間勤務制度が義務化され、産休・育休制度も普及し、女性がフルタイムで就業継続できるようになった。
当時30代を迎えた共働き家族は中、高校での家庭科(生活科)共修世代で、家事や育児に抵抗のない男性が増え、「家事は内容によって得意な方がやれば良い」と考える夫婦も見られるようになった。そこで住宅に求められたのは、家事がシェアしやすいこと。一方で男性、女性にかかわらず、皆が皆家事が得意なわけではない。そのため誰もが家事や育児をしやすいことが重要となった。
共働き家族のために開発されたマルチアイランドキッチンは、シンクとコンロを分けることで広いカウンタースペースが生まれ、複数人での作業がしやすいキッチンである。またシンクがアイランド型で回遊性があり、左右どちらからでもキッチンに入りやすい。
また衣類を管理しやすくする集中収納デイリークローゼットは、自分のモノを各自でしまえて、自己管理がしやすい。学校や保育園、幼稚園の道具が1カ所にあるので、夫も子どもたちの朝の身支度を手伝いやすい。また普段一緒に住んでいない祖父母なども同様に、一目でどこに何があるかが分かりやすいというメリットもある。
共働き第三世代/就業継続型2・0
働き方改革関連法施行やコロナ禍を経て、在宅ワークやフレックスタイムなど多様な働き方が定着してきた。また23年度の民間企業の育休取得率は初めて3割台にのぼった。
もはや夫婦での家事シェアは基本スタイルとなり、「仕事と家庭の両立」ではなく、仕事も家庭も“自分も”充実が求められるようになった(図2)。
共働き家族は日々の忙しい中でも家族の笑顔を眺めたり、丁寧にコーヒーを入れたり、自分の好きな時間を大切にする暮らしを求めている。そのため、これまで提案してきたような家事効率化を実現する住宅の工夫やアイデアだけでは物足りず、心のゆとりや自分らしさをもたらす空間・インテリアをも重視する。
例えばくつろぎを楽しむリビングが挙げられる。家族で一緒に過ごす、あるいは一人の時にソファでくつろぐなど、リビングは自分の好きな時間を深める空間である。そしてリビングの延長として外部空間を楽しめるアウトドアリビングでは、天気が良い日には、リモートワークをしたり、休日には家族でブランチやミニキャンプをしたり、ペットと遊んだりなど、日々の暮らしに彩りをもたらしてくれる。
そして在宅ワークスペースも、今では欠かせない空間となった。理想では、リビング・ダイニング・キッチン(LDK)と個室の2カ所を設定できると、夫婦が同時に在宅ワークするとしても、それぞれ気兼ねなく使える。
LDK付近の在宅ワークスペースは開放的な空間で、ながら家事がしやすく、子どもの様子もうかがえるので、特に女性が好む。これに対し、個室や書斎は落ち着いてこもれる空間で、他の家族がいても音を気にせずに集中して仕事ができるため、男性が好む傾向にある。
共働き家族の住まいは、誰もが暮らしやすい住まい
35年を俯瞰すると、当初は働く妻を応援するために共働き家族向けの住まいを提案したが、働き方や家事・育児の関わり方など、時代の流れや暮らしの変化に合わせて進化し、今では誰もが暮らしやすい、心地よい住まいとして、スタンダードになった。
今後はモノのインターネット(IoT)やサービスの進化など、また新たな住まいとして進化していくであろうが、どんな時代になっても家族が笑顔で、そして自分らしく過ごせる住まいを提供していきたい。