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住宅産業(2024年7月)
ハウスメーカー 環境に配慮
大手住宅メーカーが環境に配慮した製品の開発を進め、省エネルギー化を加速させている。一戸建て住宅はZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を標準仕様にする動きが活発化。ZEH率も高水準を維持する。集合住宅はZEH基準の「ZEH-M(マンション)」の提案を強化している。社会背景とともに変化する顧客ニーズに合わせ、各分野で付加価値を向上させた省エネ住宅が普及しつつある。
CO2、10年で38%削減
積水ハウスはZEH基準を満たす一戸建て住宅「グリーンファースト ゼロ」を提供している。発売から10年で、累積販売棟数が8万3000棟を超えた。2023年度の一戸建て住宅のZEH比率は95%で過去最高となった。
一戸建てのほか賃貸住宅「シャーメゾン」や分譲マンション「グランドメゾン」のZEH-Mなど多様な取り組みが進展。23年には顧客の感性を反映した住宅提案事業「ライフニットデザイン」を開始した。中・高級層向けに、個別要望に応じた対応を強化している。
海外事業を含め、同社グループ全体が23年度に販売した新築住宅など製品使用時の二酸化炭素(CO2)排出量「スコープ3カテゴリ11」は、13年度比で38%の削減となった。
50年カーボンニュートラル(温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)実現に向け、30年度までにスコープ3カテゴリ11を同比55%削減するとしている。パリ協定が掲げる削減目標に合わせて、同社グループはGHGの削減目標を昨年更新。サイエンス・ベースド・ターゲッツ(SBT)イニシアチブによる認証を取得した。
ZEH+ 上回る住性能
積水化学工業は23年度に新築した鉄骨系住宅「セキスイハイム」のZEH比率が22年度比で2ポイント上昇し、北海道を除き96%に達した。同社の過去最高水準を7年連続で更新している。
同社は13年からZEH対応住宅を積極的に提案。24年春にはセキスイハイムと木質系住宅「ツーユーホーム」で環境住宅パッケージ「ミライクラス+(プラス)」を投入した。ZEHの上位ランクにあたる自家消費型住宅ZEH+水準を上回る住性能を備える。
同パッケージは大容量の太陽光発電と蓄電池で、エネルギー自給自足率と光熱費削減効果の向上を図り、ZEH+に標準対応する。工場生産による高い施工精度の「あったかしっかり断熱」で断熱等級6相当(外皮平均熱貫流率=UA値0・46以下)の高い断熱性を確保。快適な室内空間を提供している。
大容量化した太陽光発電システム(PV)と蓄電池、効率的に電力をコントロールする家庭用エネルギー管理システム(HEMS)が特徴だ。昼夜とも可能な限り太陽光から作った電力を活用する。蓄電した電力は停電への備えにもなる。
平屋住宅、庭と一体設計
住友林業は平屋住宅「GRAND LIFE(グランドライフ)」を23年秋に改定し、幅広い世代の需要を取り込んでいる。住宅と庭の一体設計など人気項目を改良。平屋の形状を生かし、太陽光発電設備の設置率向上を図る。
人気の5樹種から7色を取りそろえた木質内装をはじめ、独自のビッグフレーム(BF)構法による高い耐震・断熱性能を盛り込んだ最大7・1メートルの大開口を備える。平屋の特性を生かした高天井などを提案し、樹種や色に合った23通りのインテリアスタイルで1戸ごとに住まい全体をコーディネートする。
庭とのつながりを生かした設計では、屋外で過ごす時間を暮らしに取り込む。専任のエクステリア担当者が、同社のウッドデッキなどを使った一体感のある室内と庭を提案、実現する。
同社グループは森林経営や木材・建材の製造・流通、一戸建て住宅、木質バイオマス発電など「木」を軸とした事業をグローバルに展開する。木造住宅は建てる際のCO2排出量が少ない。ZEHや省エネを推進し、今後も排出量削減に注力する。
太陽光-自家消費率を向上
旭化成ホームズは蓄電池を搭載した独自の自家消費型ZEH-M製品「Ecoレジグリッド」を開発。入居者売電型ZEH-Mとの両輪で推進し、賃貸住宅の省エネ化による環境貢献と、太陽光発電の自家消費率向上、電力の需給バランスの安定化を図る。
入居者売電型ZEH-Mの賃貸住宅では、日中の太陽光発電が過剰となり電力の需給バランスが課題とされてきた。Ecoレジグリッドは旭化成ホームズが建築主から自社の「ヘーベルメゾン」の屋根などを30年間借り、太陽光発電設備と蓄電池を設置。旭化成とグループ会社の電力売買事業「ヘーベル電気」を経由し、入居者と同社グループに電力を供給する。
入居者は発電した電気を使いながら、災害など停電時には蓄電池の電力を活用できる。建築主は、設備の初期投資や管理費をかけずに環境価値の高い賃貸住宅を保有できる仕組みだ。
入居者売電型と自家消費型を掛け合わせた同社の仕組みは、東京都環境局から23年度「東京エコビルダーズアワード」において2部門で受賞した。
断熱仕様-気候応じ3段階
大和ハウス工業はZEH対応の一戸建て住宅「xevoΣ(ジーヴォシグマ)」を主力製品として提案している。天井や外壁、床に断熱対策を施し、窓には複層ガラスを標準採用。地域の気候に応じて選べる3段階の断熱仕様を取りそろえている。
独自の外壁システム「外張り断熱通気外壁」で外壁パネルフレームを覆う高密度グラスウールボード、外壁パネル内に配置する高性能グラスウール、内壁に配置する高性能グラスウールの3層で構造体を包んでいる。
熱伝導率の高い鉄骨部分が外気温を屋内に伝えることで断熱性能を低下させる現象「ヒートブリッジ(熱橋)」には、3層の断熱材と熱橋補強断熱材で対策を講じている。通気層工法による壁体内結露対策で、高い耐久性と環境性能を両立させている。
同社は30年度までに原則ZEH100%を目指しており、主力製品から徐々にZEH水準の標準化を進めてきた。太陽光発電を原則全棟に搭載する提案や高効率給湯器、省エネ機器、窓への複層ガラスの設置に注力している。
景観協定-自治体と提携
ポラスグループ(埼玉県越谷市)の中央住宅(同越谷市)は、全25棟がZEH基準の性能や設備を備えた分譲住宅プロジェクト「ときの環 草加松原」を開発した。
同住宅は埼玉県草加市で初となる景観協定を締結。国の名勝に指定されている「おくのほそ道の風景地 草加松原」に代表される街のグリーンと、環境負荷を低減するクリーンな住まいが調和する「グリーンでクリーンな環(チェーン)」を育む分譲住宅だ。
同グループの「ポラス暮し科学研究所」が開発したオリジナル蓄熱式床暖房システム「ぽかリッチ」など高効率の設備機器を備えるほか、太陽光発電設備の設置や高断熱仕様の建物により、標準的な住まい(25年基準)と比較して年間の光熱費が約60%削減できる試算だ。
ポラスグループでは16年ごろから全社的にZEH対応住宅を積極的に開発・販売してきた。同研究所の野田将樹住環境Gグループ長は「エネルギーコストの高騰を背景に少しでも光熱費を抑えたいニーズが増えている。省エネ住宅の普及をさらに進めていきたい」としている。
夏の暑さ対策-換気棟 提案/元旦ビューティ工業
木造住宅は水分や湿気により腐朽・劣化するため、内部への雨の侵入を防ぐ必要がある。そのため屋根は重要な役割を持つ。屋根材には金属屋根、スレート、瓦など複数ある。それぞれの特性を考慮した上で慎重に選びたい。
近年では自然災害の激甚化を受け、金属屋根の有用性が見直されている。軽いため耐震性が高く、経年劣化が起きにくい。
元旦ビューティ工業は金属屋根の開発から製造、施工まで手がける。同社広報室の山形英子室長は「一般的なスレート屋根は10年経過すると点検・補修が必要なのに対し、金属屋根は40-50年塗装が不要」と話す。
同社は住宅のほか大型建築も手がけており、屋根部材を成形する工場設備が充実している。曲げ加工で金属に負担をかけないよう、「ロール成形時に、細かく少しずつ折っていく」(山形室長)という。また「ビスで屋根を固定するのではなく、嵌合(かんごう)して組み合わせる。経年劣化でビスが緩んだり、そこから漏水することがほぼない」と山形室長は話す。屋根の下に入れる断熱材は厚く、大型建築向けの仕様で性能が高いのが特徴だ。
同社は夏の日射熱の対策として、換気棟を提案する。
換気棟は屋根の頂部に取り付け、天井と屋根の間(小屋裏)を換気する部材。夏は小屋裏にこもる熱気を排出するため冷房効率が上がる。冬は結露の発生を抑え、木材の腐食やカビの発生を防ぐ。
同社が大型物件に適用している技術を転用し、住宅用換気棟を開発した。同社の換気棟はルーバーが上向きになっており、空気を排出しやすい。棟内部の換気口がルーバーより高い位置にあるため、ルーバーが上向きでも水が浸入しない構造となっている。電気を使わず、自然の風力で熱気や湿気を排出する。新築だけでなく、リフォーム時にも取り付けできる。