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住宅産業(2024年7月)
ZEHの普及に向けて
【執筆】経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー課長 木村 拓也
2050年カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けて、省エネルギーや再生可能エネルギー活用のための取り組みが加速している。国内エネルギー消費量の約15%を占める家庭部門でも、その対策は急務である。優れた省エネ性能を有し再生エネを活用するネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)への期待は高い。ここでは、足元の普及状況やさらなる普及に向けた取り組み、今後のZEHの方向性について紹介する。
我が国のエネルギー政策とZEHについて
20年10月に菅総理大臣(当時)から50年CN目標が示されたことを受けて、第6次エネルギー基本計画では、30年度に6200万キロリットル(原油換算)の省エネを達成することとされている。このうち住宅を含む家庭分野では、約1200万キロリットルの省エネ対策を進めることとされている(図1)。
また、同基本計画では、住宅における省エネや再生エネ活用について、「30年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネ性能の確保を目指す」「50年に住宅・建築物のストック平均でZEH、ネット・ゼロ・エネルギービル(ZEB)基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指す」「30年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されていることを目指す」といった目標を設定し、省エネ法や建築物省エネ法による規制と、補助金・税制などによる導入支援策の両面から、取り組みを進めていくこととしている。
さらに、昨年2月に閣議決定された「グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針」や、その投資促進策である「分野別投資戦略(くらし関連部門)」では、家庭分野における対策の一つとしてZEH(※)が位置づけられている。
【ZEH】
快適な室内環境を保ちつつ、高断熱化や高効率設備により、できる限りの省エネに努め、太陽光発電などによりエネルギーをつくることで、1年間で消費する住宅のエネルギー量が正味(ネット)でおおむねゼロ以下となる住宅(図2)。省エネ性能や再エネの活用割合に応じて3段階のグレードを設定している(『ZEH』/Nearly ZEH/ZEH Oriented)。
普及状況について
近年、新築住宅におけるZEHの普及率は向上しており、22年度の供給実績は8万8943戸であった。このうちZEHシリーズの最高グレードである『ZEH』は、約6万戸(21年度比119%)を占めている。12年からのZEH累積供給実績は43万7833戸に達し、今後のさらなる普及拡大が期待される(図3)。
一方で、事業者別の新築住宅におけるZEHの割合をみると、大手ハウスメーカーでは約7割となる一方、中小工務店では1割未満にとどまっている。中小工務店を含めた業界全体でのZEH供給拡大が強く期待されており、経済産業省でも、供給側の積極的な取り組みを促すとともに、消費者にとってより分かりやすい評価方法の創設などに向けて検討を行っている。
さらなる普及に向けた取り組み
経産省では、補助金によるZEHの導入支援のほかにも、ZEHの知名度向上と普及促進に向けて、学識経験者や関係業界、関係省庁(国土交通省、環境省)により構成されるZEH委員会を開催し、さまざまな施策に取り組んできた。その一例を紹介したい。
○ZEHビルダー/プランナー登録制度
ZEHの担い手を確保し、ZEHの普及を促すため、16年から「ZEHビルダー/プランナー登録制度」を実施している。25年までに毎年供給する住宅の過半数をZEHとすることを宣言した工務店やハウスメーカーなど(6月末時点で5706社が登録)について、毎年の実績の評価・公表を行っている。
○ZEHの認知度向上に向けた広報施策など
ブランド化を通じた認知度向上を図るべく、ZEHマークを作成した。建築物省エネルギー性能表示制度において第三者評価(BELS)を取得する場合にZEHマークの表示を可能(図4)としたほか、ZEHビルダー/プランナー専用のマークも作成している。
今後のZEHの方向性
日本にZEHの概念が取り入れられてから今年で15年となる。この間、住宅を取り巻く環境は大きく変化し、省エネ性能は着実に向上してきた。
冒頭に紹介したとおり、30年度の新築住宅にはZEH水準の、また、50年にはストック平均でZEH水準の省エネ性能の確保が求められていることを踏まえれば、住宅の省エネ化をけん引するカテゴリーの住宅群については、省エネ性能を現在のZEH水準を超えて向上させることが期待される。
また、住宅における太陽光発電設備の設置拡大に向けた取り組みも急務である。経産省では、関係省庁と連携し、足元のZEHの普及状況、建材・機器設備の省エネ性能の向上、各種政府目標、建築物省エネ法による規制などを踏まえ、中長期的なZEHのあるべき姿について、学識経験者、関係業界などとの議論を開始したいと考えている。
最後に
経産省では今回紹介したZEH普及促進のほかにも、高効率給湯器の普及をはじめ住宅などにおける省エネ促進のための取り組みを、関係省庁と連携し、規制と支援の両面から実施している。
50年CNの実現のためには、家庭における省エネ・再生エネ利用の促進が不可欠であり、住宅に携わられる皆さまのご知見とご協力をいただきながら、取り組みを進めたい。