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住宅産業(2024年4月)
いま注目を浴びる平屋
現在、私たちのライフスタイルや暮らし方は多様化している。都市部では高層化が進み、タワーマンションが建つ。一方、コロナ禍以降在宅勤務が普及し、地方や郊外の自然豊かな環境で一戸建てを建てるケースが増えている。家にいる時間が長くなることで、自分なりのこだわりを持って家づくりする人が増えた。その一戸建ての中でも今、平屋づくり住宅の人気が高まっている。ここでは平屋の魅力について、事例を含めて紹介する。
なぜ平屋が魅力的なのか
平屋の魅力は一番に、外部とのつながりを感じられ、自然を身近に感じ楽しめるところだ。すぐに庭へ出られて、ガーデニングや家庭菜園、ペットのドッグラン、子どもたちのプール遊び、テラスでバーベキューなど、外でさまざまなライフスタイルを楽しめる。
庭にハンモックを吊るしてくつろいだり、縁側やテラスで食事を楽しんだりと、外で過ごす時間は、とても気持ちが良い。さらに建物の一部に、ガレージやサウナなどを設け、趣味を楽しむような個性的な家にもできる。
では平屋の日常生活は、どうだろう。
2階がないということは、階段での上下移動がないため、高齢者や小さな子どもに優しい。平面的な動線となり家事の効率も良くなる。洗濯物を持って2階に上がる必要もない。
高齢の方から、子どもが自立した後2階の部屋は全く使わなくなり、今は物置になっているという話をよく聞く。そのような話からも、平屋が理想的な終の棲家とも言える。上下階での分離がなくなり、程よい距離で家族の気配を感じることができ、家族のだんらんも増える。
また平屋は構造的にも有利になる。2階の床が載らないことで建物が軽くなり、耐震性も上がる。柱のない大きな部屋や開口部を作ること、屋根空間を活用して天井を高くすることもできる。
建物の高さが高くなると、より大きな風圧力を受けるが、平屋は台風などの暴風にも強くなる。災害時には、すぐに屋外に避難できる。
さらにメンテナンス費用を抑えられるメリットもある。建物を維持するには、必ずメンテナンスが必要である。平屋は建物が低く、外壁や屋根の修繕などの際に、大きな足場を組まなくても塗装などの工事ができる。日常のメンテナンスとして、窓ガラスを拭くのも楽である。
設備面では、2階に水回りがなく、下階への水漏れの被害がない。配管清掃などもシンプルになる。
建てる際のポイント(注意点)
実際に平屋を建てる際には、何点か注意するべきポイントがある。
●広い敷地が必要
まず、2階建ての家に比べて、より広い敷地面積が必要になる。地域ごとに法律で建ぺい率、容積率が定められており、敷地に対する建物の面積に上限が決められている。
例えば平屋の場合、建ぺい率が50%であれば、敷地の半分までしか家を建てられないことになる。
●コストがかかる傾向
古くからの日本の建物の特徴として、美しい屋根がある。平屋でも大きな屋根を掛けて、高温多湿の日本の気候から建物を守るのが理想的だと思う。大きな屋根が外壁や窓の汚れを防ぎ、季節の日の光の調整も行ってくれる。
しかしコスト面からすると、平屋の場合、屋根と基礎の面積が広くなり建物の単価が高くなる傾向がある。
●間取りに配慮
平屋は敷地条件で南の間口が取れない場合、北側へ部屋を設けることになり、日当たりや通風が悪くなるケースがある。採光や通風のために開口部を設け、部屋の間取りに配慮する必要がある。そのような際は、2階がないため天井に天窓を設け、光や通風を確保する解決法もある。
●プライバシーや防犯に配慮
またプライバシーや防犯にも気を配りたい。平屋は道路や隣家からの視線が届きやすく、日常生活でのプライバシーを守りにくい部分がある。
建物をL字やコの字に工夫して配置することや、窓の位置やサイズを考えて設計する必要がある。
平屋のパターン設計例
●中庭のある平屋(コの字型)
都市の住宅街に建てられた、中庭のあるコの字型の平屋(写真1)。周囲には駐車場やアパート、店舗がある敷地環境で、音やプライバシーの問題を解決するため、中庭を設け内側に開くプランとした。
建物で庭を囲み、室内に入ると中央にプライベートな空間である中庭が広がる。中庭を介して主要な部屋をお互いに望むことができ、程よい距離感と安心感をもたらす。中庭では子どもと犬が一緒に駆け回り、家族だけの心地よい場所となっている。
●三角屋根の終の棲家
写真2は夫婦で暮らす終の棲家、コンパクトな平屋の住まい。
住まいの中心となるLDKは屋根なりに天井を高くし、開放感のある空間とした。その三角屋根が、外観のアクセントになっている。天窓から光を取り入れたダイニングから、広いデッキスペース、庭へと続き、外部とのつながりがある。
●ガレージを眺める平屋(L字型)
郊外の自然豊かな住宅地に建つ、ガレージを眺める中庭のあるL字型の平屋の家(写真3)。
広い敷地面積を生かした平屋のプランで、リビングから中庭を介してガレージを眺めるコンセプト。用途地域的に単独で車庫の建築が可能なため、ガレージを別棟で計画した。互いの建物の関係を生かし、プライバシーを確保する中庭を設けた。
●自然を眺める平屋
東京・多摩の山並みを眺める南傾斜の広い敷地に建つ平屋(写真4)。ロケーションを生かし、外観は大地を這うようなおおらかなデザインとした。内部は全ての部屋から山々を望め、自然を感じられる。
屋根空間を生かし、住まいを守るように大きな切り妻の屋根をかけた。豊かな自然環境の中で、四季を感じながらのびやかに過ごせる家である。
◇ ◇
庭があると掃除や芝刈りなどのメンテナンスが必要になる。しかし屋外に出るだけで、気持ちが良く、いい気分転換になる。
春になると花が咲き、新緑や秋の紅葉、花壇の小さな自然でさえも、四季を感じることができ、その美しさは不思議と飽きることがない。
高度な情報化社会になればこそ、自然と共に暮らす平屋の住宅を求める人が、今後も増えていくのではないか。
【執筆】望月 新
【プロフィル】
1973年生まれ。各設計事務所を経て、2008年より望月建築アトリエ代表。住宅設計をメインに設計活動を行い、機能的で美しい建築デザインを心がける。