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住宅産業(2024年4月)
政策動向と支援策
住宅の省エネルギー化の動きが加速している。環境省によると、住宅など建築物の使用による二酸化炭素(CO2)の排出量は、国内の排出量全体の約3分の1を占めている。そのため、住宅の省エネ性能の向上は、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現のためにも重要な課題となっている。国も住宅の省エネ化を進めるため、規制の強化と併せてさまざまな支援策を講じている。ここでは住宅の省エネ化の方向性と具体的な支援策の内容について解説する。
住宅の省エネ化推進のロードマップ
地球温暖化対策が叫ばれる中、2020年10月、政府は国際公約として、50年までにCNを達成するという「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。それ以降、住宅の省エネ化の動きにも拍車がかかっている。
25年4月以降、全ての新築住宅が現行の省エネ基準に適合することが義務付けられた。さらに30年度には、より省エネ性能の高いZEH水準が新築住宅の基準になる。このように省エネ基準の最低ラインは段階的に引き上げられ、CN達成の最終目標である50年には、既存住宅も含めた全体の平均でZEH水準の省エネ性能を確保することを目指している(図)。
ZEH水準の住宅とは、住宅性能評価制度における断熱等性能等級5(7段階評価)と一次エネルギー消費量等級6(6段階評価)を同時に達成し、現行の省エネ基準よりも一次エネルギー消費量を20%以上削減できる住宅をいう。
ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)と異なり、ZEH水準の住宅は太陽光設備などの設置が必須ではないため、ZEHに比べて建築コストを抑えられる。
ZEH水準の住宅の普及を後押しするため、政府は多くの支援策を打ち出している。中でも支援策の目玉といえるのが、経済産業省、国土交通省、環境省の3省連携により始まった「住宅省エネ2024キャンペーン」だ。
同キャンペーンは①子育てエコホーム支援事業②先進的窓リノベ2024事業③給湯省エネ2024事業④賃貸集合給湯省エネ2024事業―の四つの事業の総称だが、その中でも新築住宅を支援対象とする「子育てエコホーム支援事業」に注目したい。
子育てエコホーム支援事業
子育てエコホーム支援事業は、物価高騰の影響を受けやすい子育て世帯や若者夫婦世帯が、高い省エネ性能の新築住宅の取得や住宅の省エネ改修をする際に支援を行う事業である。子育て世帯とは、05年4月2日以降出生の子がいる世帯、若者夫婦世帯とは、夫婦のいずれかが1983年4月2日以降出生の世帯をいう。
対象者がエコホーム支援事業者と契約し新築住宅の建築や購入をする際に、長期優良住宅の場合100万円、ZEH住宅の場合80万円の補助が受けられる。
同制度におけるZEH住宅とは、「強化外皮基準に適合し、再生可能エネルギー等を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量が削減される性能を有するもの」とされており、太陽光発電設備などの設置は条件となっていない。
リフォームについては、子育て世帯・若者夫婦世帯以外の世帯も補助対象となる(表1)。
ZEH補助金
新築住宅の建築・購入の際にZEHは55万円、より省エネ性能が高いZEH+(プラス)では100万円の補助金が受けられる。さらに断熱等性能等級6以上かつ基準一次エネルギー消費量より30%以上削減したZEH+に対しては、ハイグレード仕様補助金が上乗せされる(表2)。
ただし、ZEH補助金と子育エコホーム支援事業の補助金の併用はできないため、どちらが有利かを検討し選択する必要がある。
住宅ローン控除
住宅ローン控除では、年末借入残高の0・7%が13年間所得税などから控除される。省エネ性能が高い住宅ほど優遇され、借入限度額が大きくなる。一方、省エネ基準に適合しない住宅は控除の対象外となった。
24年は前年よりも借入限度額が縮小したが、子育て世帯・若者夫婦世帯については、昨今の建築費上昇の影響を緩和するため、24年中の入居を条件に前年の限度額が維持される(表3)。
認定住宅などの特別控除
長期優良住宅、低炭素住宅、ZEH水準いずれかの住宅を新築し、25年中に居住開始した場合、性能強化のためにかかる標準的な費用相当額(4万5300円×床面積、上限650万円)の10%を所得税から控除できる。その年分の所得税から控除しきれない金額がある場合は、翌年分の所得税から控除できる。合計所得金額が2000万円以下の人が対象となる。
住宅資金贈与の特例
住宅資金贈与の特例については26年12月末まで延長された。耐震・省エネ・バリアフリー住宅の非課税限度額が1000万円と、一般の住宅の500万円よりも優遇されている。ただし、省エネ性能の要件が現行の省エネ基準からZEH水準に引き上げられ、特例を受けるための基準が厳しくなった。
フラット35の融資優遇
住宅金融支援機構の「フラット35」については、すでに23年度から、省エネ基準適合が融資条件となっている。省エネ性能が高い住宅は「フラット35S」が利用でき、当初5年間金利が引き下げられる。省エネ性能が高いほど、引き下げ幅が大きくなるため、建築費の上乗せ分の負担が軽減できる(表4)。
◇ ◇
今回紹介した以外にも、不動産取得税や固定資産税の特例、地方自治体の補助金制度など、省エネ住宅推進のための支援策は数多くある。ただし、それぞれの支援策の内容は複雑で細かな要件もあるため、全てを理解することはむずかしい。
住宅取得を検討する際には、どの制度が利用できるか、重複利用は可能かなどについて、信頼できる建築会社・ハウスメーカーに初期の段階から相談しながら、最も有利な選択をしたい。
【執筆】FPオフィス ノーサイド代表 橋本 秋人
【プロフィル】
30年以上大手住宅メーカーで不動産活用、相続支援などを担当した後、独立。ファイナンシャル・プランナー(FP)、不動産コンサルタントとしてセミナーや執筆、実行支援を行う。(CFP認定者、1級FP技能士、不動産コンサルティングマスター、終活アドバイザー)