-
業種・地域から探す
続きの記事
FOOMA JAPAN 2025(2025年6月)
日本食品機械工業会主催の「FOOMA JAPAN 2025」が6月10日から13日までの4日間、東京・有明の東京ビッグサイト東展示棟1—8ホールで開かれる。1007者が出展し、食品製造現場で役立つ機械や関連機器、システム、技術などが集まる。開催時間は10時から17時まで。事前登録制で、登録者の入場は無料。
AIで変わるフードテック —海外企業の活用事例—
【執筆】 UnlocX 代表取締役CEO 田中 宏隆
AI(人工知能)技術の進化は食の分野にも大きな変革をもたらしている。2023年10月に米カリフォルニア州で行われた「FOOD AIサミット」や、25年にスペイン・ビルバオで開催された「Food 4 Future」では、食のバリューチェーン全体にAIがどのように活用されているかが紹介された。食品開発から物流、家庭のキッチンにまで広がるAIの導入は、これまでのデジタル化を超え、食の概念そのものを変えつつある。ここではその動向と代表的な事例を紹介する。
海外イベントで示されたAI活用の拡大
FOOD AIサミットでは、スタートアップ企業から食品・飲料メーカー、家電企業、研究者まで約100人が参加し、AIがフードシステムにどのような変革をもたらすかが議論された。議題は精密農業、食品開発、レストランテック、フードロス対策、パーソナライズ栄養、キッチンOS(基本ソフト)など多岐にわたり、食に関するあらゆる領域にAI活用が広がっていることが示された。
-
Food 4 Future 2025で行われたAIに関するセッション
Food 4 Futureでは、AIの活用がさらに具体的に示された。農業現場ではコンピュータービジョンや地球観測データと深層学習を組み合わせた精密な管理が進み、加工や物流の分野では異常検知、予測保守、資源最適化、さらにはデジタルツインの導入が進んでいる。これにより、生産性や品質の向上、意思決定支援が可能になり、食品開発では消費者の嗜好(しこう)解析や製品需要予測、さらにはレシピの自動生成などが実現している。
AIを用いた食に関わる製品・技術の例
とりわけ食品開発分野はAIによる急速な革新が進んでいる。チリのスタートアップ企業であるNotCoは、味、色、栄養、食感といった食品の特性を数値化し、動物性食品を植物由来の素材で再現するための最適な組み合わせをAIで導き出す。この技術により、通常18—24カ月かかる商品開発の期間が、3—6週間に短縮されるという。同社は米クラフト・ハインツとジョイントベンチャーを設立しており、大手企業がスタートアップのAI技術を取り入れるモデルケースにもなっている。
同様に注目されているのが、植物性たんぱく質のデータベースを構築する米Shiruだ。AIを用いて狙った機能や食感を持つ原料を特定し、24年には「ProteinDiscovery.ai」という3300万以上の分子情報を検索・購入できるマーケットプレイスを開設した。同社の技術は食品産業だけでなく、農業、パーソナルケア、先端素材分野への展開も期待されている。
また参加交流型サイト(SNS)上のユーザーの声を収集・解析し、それを商品開発に反映させるアプローチも登場している。AIスタートアップは研究開発(R&D)の効率化や市場投入スピードの向上を実現し、従来の食品産業を根本から変えつつある。
食品加工の現場にも変化が起きている。スペインのBlendhubは粉体技術を生かし、スペインやインドに拠点を展開。独シーメンスが開発したインダストリーメタバース技術を用いて原料構成をクラウド経由で送信し、現地では地元原料で再構成して生産する仕組みを整えている。これにより、フードデータのグローバルな転送とローカル生産が同時にできる。
一方で、家庭のキッチンにおいてもAIの活用が拡大している。韓国のサムスン電子は「Samsung Food」というアプリを通じて冷蔵庫内の食材を自動認識し、健康状態や好みに応じたレシピを提案している。必要な食材は自動でショッピングリストに反映され、オンライン注文も可能。調理家電へのレシピ送信まで自動で行える仕組みも整えている。
このような複雑な操作を支えるのが生成AIの存在である。ChatGPTのような対話型インターフェースによって、ユーザーは疑問点を気軽に質問でき、レシピも一律的なステップ形式から対話型の「自分仕様」へと進化していく可能性がある。
こうした動向から見えるのは、AIが単なる効率化ツールではなく、食そのもののあり方を再定義しようとしている点だ。これまでの「食のデジタル化」を超え、AIはバリューチェーン全体に深く浸透し、私たちの食行動や価値観にまで影響を与える存在へと変貌しつつある。企業や社会全体が「AIをどのように活用するか」といった戦略を早急に構築する必要があるだろう。