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ファインバブル
国の標準化政策とその背景
【座談会 出席者】
経済産業省イノベーション・環境局 産業技術環境局国際標準課長 西川 奈緒氏
ファインバブル産業会副会長/IDEC名誉顧問/チーフ・セーフティ・ヘルス&ウェルビーイング・オフィサー 藤田 俊弘氏
ファインバブル産業会理事/産業技術総合研究所名誉リサーチャー/新エネルギー・産業技術総合研究機構(NEDO)イノベーション戦略センターフェロー/福島国際研究教育機構エネルギー分野長 矢部 彰氏
ファインバブル産業会理事/慶応義塾大学理工学部教授 寺坂 宏一氏
〈司会〉ファインバブル産業会専務理事 笠井 浩氏
座談会に掲載している図の詳細なカラー版はhttps://fbia.or.jp/に掲載しています
市場戦略策定に有効なツールが標準化で今後、戦略活動が重要に
笠井 皆さまにはご多忙のところ、ご出席賜りまして、ありがとうございます。本日は経産省ご提案の「日本型標準加速化モデル」の内容をご紹介いただいた上で、ファインバブル国際標準化のこれまでの歩みのレビューと今後の国際標準化の戦略的方向性、課題解決の方策や展望などを探っていきます。まずは経産省西川課長からご説明お願いします。
(本文中=敬称略)
西川 日本型標準加速化モデルは、2023年6月に日本産業標準調査会(JISC)基本政策部会で取りまとめられました。
従来のグローバル市場におけるマーケット構造は、「価格」と「品質」の掛け合わせで市場が決定されていました。すなわち価格が安く品質が良ければ製品は売れ、消費者に受け入れられる環境にありましたが、近年のグローバル市場は、供給側・需要側双方の変化に直面しています。
供給側では、デジタル変革(DX)の活用、技術水準の均一化などを背景に類似品質の製品を作りやすく、優位性がキャッチアップされるまでのスピードが速まっています。それとともに、生産工程の合理化、人件費を含めた生産コストが極端に低い国の登場などにより、「価格×品質」だけで優位性を保持し続けることが、特に先進国において困難な状況になっていると言えます。
一方で、需要側では価値観の多様化などにより、製品やサービスの価格や品質だけでなく、これら以外の新たな付加価値が購買行動を決定する要素となる場合も増えてきています。消費者が例えば、デジタル、人権、サステナビリティー(持続可能性)、ダイバーシティー&インクルージョン、国連の持続可能な開発目標(SDGs)などの付加価値に着目した製品・サービスを購入したいと考えるケースが多く見られるようになっているのです。
こうした供給側・需要側双方の変化の中にあって、自社の製品などを確実に市場に展開するためには、価格や品質に加えて、新たな価値軸が必要となります。そうした価値軸を生み出し、それを市場につなげることこそが、今日的な意味での「市場創出戦略」です。
このような新しい価値軸・価値要素を取り込む市場の戦略を考える際に有効なツールが、標準化です。
価格×品質でマーケットが決まっていた時期から主として取り組まれてきた、社会・消費者の安全・安心の確保、基礎的な部品の仕様や検査方法、組織・事業の運営方法などのマーケットや産業の基盤を整える標準化活動を「基盤的活動」と呼びます。
これに加えて、市場創出に資する経営戦略上の標準化活動が「戦略的活動」です。戦略的活動は、商品企画、研究開発、マーケティング、投資などの戦略と一体的に進めることが必要です。また、SDGsなどの社会要請を、価値に転化する標準化活動もここに含まれます。
企業の経営戦略と一体的に展開する戦略的活動をこれまで以上に拡大し、基盤的活動と合わせて取り組みを加速化していくことが、わが国における標準化活動の在るべき姿であり、我々は、これを日本型標準加速化モデルと提案しています。
基盤的活動は今後も従来どおり、標準化活動の中核です。このように産業の基盤となる基盤的活動の知識や経験を前提としつつ、それらをも包摂する形で経営戦略上の戦略的活動があります。
SDGsなどの社会の要請を価値に転換していく戦略的活動の拡大・加速の必要性を認識することが重要ですし、基盤的活動と戦略的活動を両立させていくことが求められます。