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エネルギー産業
脱炭素/安全・安定供給を両立 ガス産業
身近なエネルギーである都市ガスや液化石油ガス(LPG)。日常生活に欠かせない存在ではあるが、人口減少が続く日本国内では将来的な需要縮小が避けられない。そうした中、経済成長が著しい海外での都市ガス事業への参入や、日本国内におけるLPG供給体制の見直しといった動きが出始めた。人口減少や脱炭素化などの課題に対応しつつ、安全・安定供給という社会的責任をいかにして果たしていくかが、事業者に求められている。
都市ガス/成長市場「インド」参入 日本企業で初、エネ需要急増
大阪ガスは2021年、日本企業として初めて、インドの都市ガス事業に参入した。24年には大型の追加出資を行い、現地の都市ガス会社を傘下に抱えるAG&P LNGマーケティング(シンガポール)を持分法適用会社とした。展開する事業面積はインドの国土の約1割に相当する約32万平方キロメートル。これは日本の国土の約9割にも相当する広さだ。日本で培った知見を生かしつつ、グローバルで都市ガス事業の新たな可能性を探っている。
インドは経済成長に伴うエネルギー需要増と、低炭素化対策を両立させるため、燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量が少ない天然ガスの普及を推進している。1次エネルギーに占める天然ガスの割合を、19年の6%から30年に15%へ高める目標を設定。その実現のため、国策として重要なエネルギー産業の分野でも、外資の受け入れを緩和している。
インドでは圧縮天然ガス(CNG)車が急速に普及しつつあり、大ガスは需要の7割をCNG車向けで見込む。そのため都市ガス導管網に加え、CNGステーションも整備していく。ただ今後、継続的に利益を確保し続けるには、ガス需要が十分に増えないといけない。インフラ整備と並行して、CNG車の普及拡大のためのPRなどを支援したり、他燃料を利用する工場向けに天然ガスへ切り替えるメリットを訴求したり、といった取り組みが重要になる。
とはいえインドの国土は広大で、地域ごとに経済格差も激しい。都市部以外では都市ガスはもちろん、LPGすら使わない地域も多いという。そのような地域において、大きな事故を起こさず都市ガスインフラの整備を進めるためには、「埋設した導管を破壊しないように、道路で工事する際には事前にガス事業者の確認を取る」といった基本的なルールから、現地の人々に浸透させる必要がある。大ガスは日本でインフラ整備に携わった専門家をインドに派遣。資源・海外事業部アジア開発部の福田達矢副課長は「当社の知見も活用し、保安向上のためにPDCA(計画、実行、評価、改善)を回し続けることの重要性を広めていきたい」と話す。
一方、発展途上である分、これから導入予定の設備に最新技術を採用しやすい面もある。業界では、埋設した導管を地理情報システム(GIS)で管理するなどの技術が進む。こうした点ではIT大国インドの強みが生かされると期待される。
大ガスの経営という観点では、人口減少社会の日本で都市ガス事業の成長が頭打ちになる一方、米国を中心とした海外上流事業が堅調に利益を稼ぐ、といった構図が続く。それだけに、中下流事業の展開をゼロから描けるインドは魅力的だ。
藤原正隆社長はインドに関し、「コロナ禍があって3年ほど展開が遅れたが、これから挽回できる。経済成長率は非常に高い」と期待を込める。インドでのガス販売量は、30年に大ガスの日本国内における販売量の半分超となる37億立方メートル規模に成長する見通し。インドを中心としたアジアでの中下流事業を、メタネーションや再生可能エネルギーなどとともに、今後の成長の柱としていく方針だ。
LPガス/横浜一次基地に充填所 配送の効率化 実現
岩谷産業は国内でLPG供給体制の強化を進めている。海外から輸入したLPGを備蓄する一次基地である根岸液化ガスターミナル(横浜市磯子区)内で、4月にLPGシリンダー充填所が完成。輸入から卸、小売りまでの一気通貫の事業形態により、大量消費地である関東・首都圏エリアのデポセンター(充填機能を持たない配送拠点)への効率的な輸送が可能となった。設備老朽化や配送における人手不足などの課題に対応しつつ、安全で安定的なLPG供給という社会的責任を果たす考えだ。
根岸液化ガスターミナルはこれまで、タンクローリー出荷のみで三次基地に配送する体制だった。今回、敷地内にLPGシリンダー充填所を建設したことで、充填したボンベを同基地から直接、トレーラーで配送できるようになった。それと合わせ神奈川エリアの一部の三次基地の充填機能も、根岸液化ガスターミナルに集約した。
国内では一般的に、輸入もしくは国内生産されたLPGは、一次基地で備蓄された後、内航船やタンクローリーによって二次基地、さらに充填所である三次基地へ配送。その三次基地でボンベに詰め替えられ、需要家に届けられる。
ただ国内市場は人口減で将来的な需要縮小は避けられない。各地の充填設備が老朽化する中、コストをかけて設備を更新するのか、拠点集約で効率化を図るのか。動向の適切に見極めが必要だ。
また、大規模基地で充填・配送する体制を構築しても、配送距離が過度に長くなると、各デポセンターで必要な時間帯にボンベを届けることが難しくなり、逆に効率性は下がってしまう。従来通り三次基地で充填するのか、デポセンターの割合を増やすのか。全体のバランスを見ながら、全国の供給体制を見直さなければならない。エネルギー本部事業構造改革推進室の福岡良介部長は、「神奈川県下や東京都下では、基地運営の効率化やコストダウンを図れる場合は、古い充填所のデポセンター化を検討する可能性はある」と説明する。
LPGは、都市ガスの導管網がない地域でも利用できる。需要家ごとに個別供給するため、災害時は都市ガスに比べて相対的に復旧が早いのが特徴だ。そうした災害時対応の観点では、停電時でも充填作業できる機能を備えた「基幹センター」と呼ばれる三次基地の拡充が、一つのポイントになる。今後も既存設備の更新時期に合わせて、基幹センター化の検討を続けるという。需要予測や災害時対応などの要素を見極めながら、LPGの最適な供給体制の構築を進めていく。