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コンプレッサー
産業用コンプレッサーは幅広い産業に活用されている。一方でその電力消費の割合は多く、脱炭素社会を実現するにはエネルギー効率の向上や環境負荷の低減が欠かせない。コンプレッサーメーカー各社は、環境にやさしいコンプレッサーの開発を進めている。ここではモーター高効率化、温室効果ガス(GHG)への影響が少ない冷媒の採用、デジタル化によるメンテナンスや予防保全など、業界の動きを紹介する。
脱炭素社会に貢献する-コンプレッサー
【執筆】三井精機工業 産機設計部 産機設計室 室長 高木 賢一
はじめに
産業用コンプレッサーは、さまざまな産業分野において圧縮空気という動力源として重要な役割を果たしている。その消費電力は工場全体の約20-30%、日本の電力使用の約50%が産業分野であるため、結果として日本の消費電力の約10%はコンプレッサーが占めていることになる。
そのため脱コンプレッサーを掲げる企業も現れており、産業用コンプレッサーの市場では脱炭素社会に貢献する環境にやさしいコンプレッサーの開発が急速に進んでいる。
産業用コンプレッサーの市場は、その構成部品の多様さにより、省エネルギー規制、環境規制、技術革新、そして産業の成長といった要因に影響を受けている。特に製造業の自動化やエネルギー効率向上への取り組み、環境規制の強化、そしてIoT(モノのインターネット)技術の進歩に伴うデジタル化・スマート化が進む中で、企業は効率的で持続可能な生産プロセスを実現しようとしている。
エネルギー効率の向上
コンプレッサーはエネルギー消費の90%以上をモーター動力が占める。そのため、インバーターの活用やモーター効率向上による省エネ性能を重視する傾向は、かねてより強い。
ユーザーの空気の使用状況に合せてモーターの速度を調整する、インバーター技術を活用した可変速駆動コンプレッサーは、今や一般的となった。モーター内部に永久磁石を組み込んだIPMモーターは、従来の誘導モーターと比べてエネルギー効率が非常に高い。また低回転域からのトルク特性も優れているなど、その多くのメリットからコンプレッサーメーカーで採用されている。業界の統計では回転式コンプレッサーのインバーター搭載機とインバーターレス機の出荷比率は、15キロ-37キロワットではインバーター搭載機が半数以上を占めている。
誘導モーターについても、国際的な効率基準が厳格化する中、日本でもトップランナー制度により2015年4月から効率規制が開始されており、国際電気標準会議の効率クラスで分類されるIE3(プレミアム効率)が主流となっている。高効率化は海外が先行しており、欧州連合(EU)では23年7月以降、75キロワット以上のレンジにおいてIE4(スーパープレミアム効率)がすでに義務化されている。効率としてはIPMモーターに迫る勢いだ。
この動きは世界中に波及しつつあり、日本でも日本電機工業会(JEMA)と経済産業省主導により、第2次トップランナー規制の規格改正に向けた議論は始まっている。
スクリューコンプレッサーにおいて、空気を圧縮する心臓部にあたる部分を「エアエンド」と呼ぶ。少ないエネルギーでより多くの空気を吐出するエネルギー効率の改善が進んでいる。
当社のエアエンド「Zスクリュー」は、シングルスクリュー機構を採用しており、一般的なスクリュー圧縮機に採用されているツインスクリュー機構に対して、異なる構造になっている。Zスクリューは1本のスクリューローターと左右対称に配置された二つのゲートローターで構成されるシンプルな構造である。
このため回転軸に対する圧力バランスが良く、軸受に余分な負荷がかからず、長寿命で高効率な圧縮機構である。
また工作機械部門の技術とノウハウを生かし、スクリュー部分の加工精度・形状を向上・最適化させることで、トライボロジーの観点からエネルギーロスを削減し、効率改善に努めている。Zスクリューは機械的構造により空気を圧縮しているため、経時的には部品摩耗が進む。しかし最新の高機能材を用いることでそれを極力抑え、耐久性の向上、メンテナンス周期の延長につなげて運用コストの削減を可能にする。