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千葉市産業
事業安定・変革を支援 多彩な経営課題に対応
エネルギーや原材料、物流などコストの上昇や、人手不足の慢性化が企業経営に大きな打撃を与えている。景気の先行きに不透明感が漂う中で、千葉市は全国トップクラスの各種支援制度やスタートアップ支援などで、経済の活性化に力を入れる。同市の中小企業の景況感をどのように認識しているのか、その中で企業は何に取り組むべきなのか、そして企業をどのように支えていくのか。同市に進出するメリットを含めて同市の神谷俊一市長に聞いた。
千葉市長 神谷 俊一 氏
かみや・しゅんいち 96年(平8)東大経済卒、同年自治省(現総務省)入省。01年在ヨルダン日本国大使館でイラク戦争に遭遇し、邦人保護の危機管理を担当。04年佐賀県農林水産商工本部新産業課長、10年佐賀市副市長。12年総務省自治行政局地域政策課理事官。
13年千葉市経済農政局経済部長、15年副市長。千葉市では大雪や台風災害などで被災した農業・中小企業の支援、道路など各種インフラの復旧対応を指揮するとともに、消防局所管の副市長として危機管理を担当。18年消防庁国民保護・防災部広域応援室長、20年総務省退職。21年千葉市長。
座右の銘は「一隅を照らす」。千葉市を照らして輝かせ、その光で日本、そして世界を輝かせる。趣味は料理と卓球、クロスバイク。月に一度はクロスバイクで長距離を走ることができるようにスケジュールを組む。51歳。
スタートアップ・エコシステム構築/創業を支援 地域経済活性化
-千葉市の中小企業の景況感をどのように認識していますか。
「物価の高止まりや安定しない為替・株式市場、人手不足など経営環境は厳しい状況にある。また(日銀が政策金利の追加利上げを決めたことから)事業・投資資金の貸出金利の上昇に懸念を持っている経営者が多いように肌感覚で感じる。物価が高止まる中で自社の製品・サービスへ適切に価格転嫁することで、賃上げを実現し、人手不足の解消につなげることが、今後の事業継続の分かれ目になる」
-価格転嫁は進んでいますか。
「千葉商工会議所の5月調査によると、これまでよりも価格転嫁ができていないという割合は減っているが、(物価上昇など)全てを価格転嫁できているとする割合は15・1%と低い水準にとどまっている。また、千葉労働局が発表した7月のハローワーク千葉管内の有効求人倍率は1・29倍となった。需要があるものの、人手不足により対応できないなどの声を聞いている。価格転嫁ができないため、賃上げができず、人手不足を解消できないという悪循環を回避しなければいけない」
-その中で企業はどのようなことに取り組むべきですか。
「人手不足対策と合わせ、デジタル変革(DX)化やリスキリング(学び直し)など生産性の向上が必要となる。また、業態転換や新分野進出など今の社会に合わせた事業変革も求められる。さらに、SDGs(国連の持続可能な開発目標)や、カーボンニュートラル(温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)は、これまでは企業として配慮すべきものであったが、最近ではしっかり向き合わなければいけないものへ価値観が変わってきている。サプライチェーン(供給網)の中でSDGsやカーボンニュートラルに取り組まなければ取引先として選ばれなくなる。これらに対応することで、金融機関からの融資で有利になるケースもあり、千葉市としてもICT(情報通信技術)化や新分野への進出、SDGsやカーボンニュートラルへの対応などを支援していく」
官民連携 新たな産業用地検討
-特にスタートアップ支援に力を入れています。7月には支援企業であるリベラウェアが東京証券取引所のグロース市場に上場しました。
「欧米と比べると、日本はこれまで政策的に創業よりも企業の継続に力を入れてきたと感じる。時代が求める企業の創業を支援し、経済の新陳代謝を促すことで、地域経済の活性化につなげる。そして千葉市を創業の地として選ばれる街にする。産学官のさまざまな関係者が地域全体で支援する『千葉市スタートアップ・エコシステム』の構築を進めている。事業フェーズに応じた切れ目のない支援を実施しており、専属メンターが短期集中で伴走支援する『千葉市アクセラレーションプログラム(C-CAP)』や、専門スキルを有する副業プロ人材のノウハウを活用した『新規事業創出支援事業』などを用意している。7月には千葉市が支援する企業がグロース市場に上場を果たした。このようにモデルとなる事例も出てきた」
「スタートアップは連携・協力しながら、事業を拡大することから、アイデアや技術を持ち寄って交流する場をつくる『イノベーション拠点認定事業』も始めている」
-千葉市で事業活動をするメリットは。
「人口や企業が集積する東京都や、海外への玄関口である成田空港、貿易拠点の千葉港などへのアクセスが良好でありながら、産業用地の価格やオフィスの賃料が、近隣の政令都市と比べるとリーズナブルで、ローコストで操業できる。(人手不足が課題となっているが)千葉県内で就業する人口の内、約5分の1は千葉市で就業している。また、働いている千葉市民の約6割は市内に勤務しており、東京都内で働く千葉市民は約2割だ。さらに市外から通勤している人口も多く、人材を確保しやすい。職場と住居が近い『職住近接』が実現できる街だ」
-2023年度に企業立地促進事業補助制度の認定件数が41件となり、2年連続で過去最多を更新するなど企業立地が堅調です。
「メルセデス・ベンツ日本、東洋エンジニアリングと両社のグループ会社が幕張新都心地区への本社移転を決めるなど、大型の企業立地が実現している。千葉市の脱炭素に対する姿勢などが評価された。メルセデス・ベンツ日本とは連携協定を結ぶなど街の価値をさらに高める取り組みをともに進める。(両社が本社を移転する場所に千葉市を)選択してもらえたということは、(千葉市に移転する)メリットがあるという、より具体的なエビデンスにもなる」
-産業用地が不足しています。
「20年に分譲した『ネクストコア千葉誉田』も、すでに完売しており、供給する用地がないのが現状だ。そのため官民連携で新たな産業用地『(仮称)ネクストコア千葉生実(おゆみ)』(千葉市中央区)の造成へ向けた手続きを進めている。次の産業用地の情報収集も行っており、敷地面積10-20ヘクタール規模の中型の産業用地を定期的に分譲できるようにしたい」
-中小企業の経営者にメッセージを。
「中小企業の経営者は、今非常に難しいかじ取りが求められている。千葉市は事業の安定や変革に対応する支援策を用意している。多様な経営課題にワンストップで対応する窓口を千葉市産業振興財団(千葉市中央区)に設けている。さまざまな支援策を個々の企業に合わせて支援する体制が整っている。是非、活用してもらいたい」