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建設産業(2023年8月)
省人化・高付加価値化を実現 ゼネコンの最新技術
ゼネコン各社は主力の建築・土木工事だけでなく、本業と親和性が高い不動産開発の領域でもロボットや人工知能(AI)の活用に力を入れている。背景にあるのは、施工や施設管理の現場が直面する慢性的な担い手不足だ。熟練の勘に依存する現状の改善を目指すものも多い。各社は建物の運用・維持管理や大規模な街づくりを設計・施工の延長線上に位置付け、省人化と高付加価値化を両立する効果を追求する。
鹿島/スマート生産で30%向上
鹿島は生産性の向上と生産プロセスの進化を掲げる「鹿島スマート生産」の3例目として、施工ロボットや遠隔管理システム、建築の3次元(3D)モデリング技術「BIM」を取り入れた「大宮桜木町1丁目計画」(さいたま市大宮区)を5月に竣工(しゅんこう)した。作業・管理で30%の生産性向上に取り組んだほか、施工品質の引き上げや働き方改革もけん引。ロボットやシステムは他の現場にも展開し、理想の現場を具現化する。
大宮で初めて導入した19技術の一つが、システム天井の施工ロボットだ。ロボットアームで天井パネルを持ち上げ、決められた場所に組み込む。「作業の半分はロボットと」という目標に沿い、8人が足場を組んで行っていた作業を4人で完了できるようにした。定点カメラによる管理の遠隔化も進め、現場の進捗(しんちょく)や状況を確認するシステムを完備。資機材や作業員の位置を3Dモデル上で把握する仕組みも構築した。
清水建設/ロボット統合制御 確立
清水建設は配送や警備、清掃など用途の異なるサービスロボットを対象に、エレベーターに同乗し目的のフロアに移動させる技術を確立した。
建物の設備と各種ロボットを統合制御する独自の基本ソフト(OS)を使い、エレベーターホールでの待機位置やエレベーター内の乗車位置、乗降の順番などを制御。ロボットが使う空間を統合的に管理することで、干渉による走行不全の解消と効率的な運用を実現する。
同技術は自動ドアやエレベーター、間取り図など建物設備の情報を統合した上で、ロボットに提供する仕組みを発展させたもの。2021年に自社開発したオフィスビル「メブクス豊洲」(東京都江東区)に実装、7月に実証運用を始めた。
まずはデジタルツインの技術を活用し、設計・施工から建物の運用管理までを一元化。さらに建物やロボットから集めた情報を使い、街区全体の生産性や利便性向上を目指す。
大林組/杭打ち施工 品質安定化
大林組は情報通信技術とAIを活用し、建設現場で打ち込む「場所打ちコンクリート杭」の工事品質を安定させる技術を開発した。873本の杭データを教師データとして利用。掘削時にはAIが15秒ごとに土質と地盤の固さを推定し、支持層への到達状況を評価する。計画時のシミュレーションシステムや施工記録のデータベースなどと組み合わせ、場所打ち杭の品質管理システムとして運用する。
掘削した土質を目視確認する従来手法も併用し、支持層への到達可否をより高精度で判断する体制を整えた。主に土木工事で採用されるオールケーシング工法で、場所打ち杭の中間層や支持層の確認に使うことを想定。建設現場には制御盤とパソコン、配線を持ち込むだけで、大半の掘削機で利用できる。アースドリル工法での中間層の確認や、鋼管矢板基礎の掘削時に中間層や支持層を確認する用途も見込む。
大成建設/AIで消音装置を自動選定
大成建設は工場など生産施設の設計時に向け、AIを活用して最適な消音装置を自動で選定するシステム「T―Optimus Noise」を開発した。膨大なパラメーターの組み合わせを基に、優れたものを求める反復計算で効率的に最適解を出す「進化計算」の手法を採用。設備機器ごとに異なる音の特性を考慮しつつ、敷地境界の騒音を基準値以下にする消音装置を最小コストで配置する。
消音装置は性能やコストに差があるほか、設備機器との組み合わせが膨大なため選定に労力とコストを要する課題があった。同システムをゴミ処理施設で検証したところ、専門技術者による従来手法で2日を要した選定作業が1時間で完了。導入総コストを4割減の3000万円に低減する効果を確認した。生産施設やゴミ処理施設など設備機器の騒音対策が求められる建物に対し、新築・改修時に提案していく。
竹中工務店/SNS―街づくりに生かす
竹中工務店はAIを活用し、位置情報付きの参加交流型サイト(SNS)への投稿内容を数値化・分析することで街の質的な評価を可視化する「ソーシャルヒートマップ」を開発・運用している。街を訪れた人の印象をリアルタイムで把握し、それを街づくりに反映させることで街のポテンシャルを引き出す。施設計画を検討する企業や自治体に簡易ツールとして利用してもらい、街づくりを支援する。
AIで投稿のカテゴリーやポジティブ・ネガティブといった感情を整理。さらに投稿した人の属性や趣味・嗜好(しこう)などを推定し、自動でタグを付与する。これを位置情報と連携させ、エリアごとの質的な評価を可視化する。例えば東京近郊でポジティブな投稿を分析したところ、ターミナル駅から遠いエリアに投稿が集中する例があったという。こうしたデータをまとめ、新たな魅力を引き出す仕掛けにつなげていく。
戸田建設/ロボット 円滑に作動
戸田建設は建物内外に整備した同一のWi‐Fi(ワイファイ)環境でサービスロボットを制御する技術を完成させた。アンテナユニットに接続した単管パイプを導波管とし、建設現場に安定した無線通信環境を構築する独自の「ウェーブガイドLANシステム」を活用。エレベーター内を含む建物内外で切れ目なく接続することで、ロボットが人とエレベーターに安全に同乗したり、屋外を移動したりすることを可能にした。
4月に行った実証実験では、ZMP(東京都文京区)の宅配ロボット「デリロ」を投入。戸田建設の筑波技術研究所本館から別棟まで屋外を走り、日立ビルシステム(同千代田区)のエレベーターに人と同乗して荷物を届けるまでの流れを問題なくこなせることを確認した。今後は関係者ではない社員や外部からの訪問客と接する機会が増すことも想定し、あらゆる人が許容できる快適な挙動についても検討していく。