-
業種・地域から探す
続きの記事
建設産業(2023年8月)
建設キャリアアップシステム定着へ
建設業における就業者数はリーマン・ショック時点をピークに約150万人減少し、担い手不足が懸念される。「2024年問題」も目前に迫り、業界が一体となった対応が求められる。2018年5月に登録が開始された「建設キャリアアップシステム(CCUS)」は、技能者の適正な評価や現場の生産性向上などを後押しし、建設業の課題解決に貢献する。また、CCUSは大規模現場で定着が進む一方で、小規模現場では運用のための環境整備がしづらい。こうした現場での導入促進に向け、官民一体となった取り組みが進められている。
CCUS登録開始から5年 新たな局面
23年3月時点で建設業の就業者数は485万人と、リーマン・ショック以降、約150万人も減少した。就業者の約3分の1は55歳以上で、他の産業と比べて高齢化も進行している。さらに2024年問題が拍車をかける。「働き方改革関連法」における時間外労働上限規制の建設業への猶予期間が終了し、24年4月に適用が開始する。建設業は他業種よりも高齢化が進み、若年層の割合が低い傾向にあり、担い手不足の懸念が一層高まる。
もともと建設業は異なる事業者の多様な現場で経験を積んでいく技能者が多く、一人ひとりの能力が業界横断的に評価される仕組みが存在しないため、スキルアップが処遇の向上につながりづらい構造となっている。業界が一体となって新規入職者の確保・定着に向け、技能者の処遇を改善するなど、中長期的な人材確保・育成を進めていくことが求められる。
こうした中、技能者の資格や経験を一元的に登録・管理するCCUSの導入が進められており、23年6月末時点で登録は技能者が119万人、事業者が22万者を超えた。
CCUSは建設技能労働者の保有資格や社会保険加入状況などの基本情報を登録するとともに、日々の就業履歴などを蓄積し、技能・経験の客観的な評価を通じて技能者の適切な処遇や現場管理につなげる仕組み。
15年8月に国交省や関係機関などが連携し、CCUSの構築に向けた官民コンソーシアムが設置された。同コンソーシアムでの制度創設の検討を踏まえ、運営主体を建設業振興基金が担い、18年5月から登録が開始された。
CCUSへ登録を申請した技能者には、固有のIDと顔写真が印刷されたICカード(建設キャリアアップカード)が交付される。システムに登録・蓄積されている就業日数、保有資格、登録基幹技能者講習、職長経験などを基に、経験、知識、技能、マネジメント能力など技能者の能力が客観的に評価される。
建設キャリアアップカードは保有者の技能レベルに応じて金、銀、青、白の4色がある。レベル分けの基準は専門工事業団体などが工種ごとに設定する。能力評価の申請手続きをすることでレベル相当のカードが付与される。
事業者は建設業許可通知書などの証明書類を添えて登録を申請し、審査完了後、事業者IDが付与される。
技能者・事業者の登録はインターネット、郵送、窓口での申請が可能で、雇用事業主や上位企業による代行申請ができる。従業員名簿などのデータを取り込み、技能者情報の登録を補助する機能も提供している。また、インターネットによる事業者登録では、建設業許可情報との連携機能により入力が簡略化されている。
国はCCUSの活用を推進することで①若い世代におけるキャリアパスの明確化②技能者の能力や経験に応じた処遇の改善③技能者を雇用・育成する企業の成長―を目指す。
国交省は21年11月、CCUSの活用を通じて技能者の処遇改善を図るため、建設業団体などとともに「建設キャリアアップシステム処遇改善推進協議会」を設置した。従来の「建設業社会保険推進・処遇改善連絡協議会」を改組し、CCUSの普及を前面に打ち出した。
国交省はモデル工事の実施や経営事項審査での加点を通じて、CCUSの普及に取り組む。元請けや下請けには、カードリーダーの設置や施工体制の登録に連携して取り組むよう要請している。
小規模現場で導入促進
カードリーダーが設置しにくい小規模現場での就業履歴蓄積に向けた環境整備の取り組みが進む。
建設業振興基金とコムテックス(富山県高岡市)は23年10月から小規模現場でのCCUSの就業履歴の蓄積促進を目的としたキャンペーンを開始する。コムテックスが提供する電話発信を活用した入退場管理システム「キャリアリンク」を安価な価格で提供。CCUSの機能に特化しており、システム導入時のコストが「スタンダードプラン(通常版)」の約10分の1程度となる。
通常版で必要な初期費用10万円と現場の履歴登録数に応じた月額出面課金を建設業振興基金が支援する。電話番号ごとに1セット当たり年額1万5000円で利用できる。通常版は3セット以上の契約が基本となるが1セットから申し込みを受け付ける。キャンペーン期間は26年3月末で終了する予定。
キャンペーンのプランはCCUSへの対応に特化したもの。施工体制の登録やカードリーダなどの事前準備は不要で、専用番号の設定のみで利用開始できる。技能者は専用の電話番号への電話発信するだけで就業履歴登録できる。
住宅・リフォームをはじめとする小規模現場や軌道工事・舗装工事などの現場ではCCUSの環境整備が難しく、小規模事業者でも活用しやすいシステムの提供が望まれていた。